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プロローグ 『戻ることないあの時間』

 必ずしもぼっちを強いられる存在ほど、惨めなものも、そうそうないだろう。

 しかし実際、現実問題、いない、と言い切るには、ちょっとばかし──どころか、どう考えたっておかしな話かもしれない。

 そんな雰囲気や空気が、そんな存在が、そんな人間が、この世界、地球と言う小さな惑星にいると言うのは、当然のことである。当然、いるのである。


 斯く言う俺も、いや俺だからこそ言うのかもしれないけれど、そんな雰囲気や空気に侵されて、そんな存在にさせられて、そんな人間になった。

 ぼっちを強いられる環境と言うのは、当人ではどうにも出来ないし、俺の場合、どうにも出来ないと言うのはわかっているからこそ、むしろポジティブになって、諦めている。

 諦めて、自ら進んでぼっちになっている。


 しかし、義務教育と言う地獄の監獄のようなものも終わり、高校へと進学するような年齢になってしまえば、そう言うこともなくなる。

 初めは進学しても、義務教育が終わったくせに高校に入っても、いいかななんて思っていた時期があった。俺にもあったのだ、そんな時期が。

 けれど、まあ、馬鹿だった。

 六年間、プラス三年間、計九年間もぼっちを強いられ、自ら進んでぼっちになっていた俺が、果たして、高校に入ってから成功するとでも思っていたのだろうか。


 何故そう思ったのか、不思議なことであるが、まあそんなことはさて置き、置いておき、結論的には、結論を言ってしまえば、もちろん無理だった。

 当たり前っちゃあ当たり前なことなくせに、本当はわかっていたくせに、どうやっても諦めきれないのが俺と言うか、人間なわけで。

 だからこそ、進学してしまった。

 高校に入学してしまった。


 無駄な入学費を払い。

 学費だって払い。

 定期代だって払ってくれた親には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいで、罪悪感に押しつぶされて苛まれそうであるけれど、しかしまあ、これでよかったようにも思える。

 親には申し訳ないけれど、それでも、これが正解だったのかもしれない。


 だからこそ俺は、希望を捨て、勇気を捨て、期待などせずに、ぼっちになった。

 ぼっちになった次に、ニートになり、そして家に引き篭もった。

 それが、一番の正解だと信じて、自分にそうやって言い聞かせ、引き篭もった。


 吐き捨てるような毎日を、非日常と言う名の日常を、送った。




 ──一生ぼっちを、ニートを、引き篭もりを貫こう。




 そう誓った俺は、人との接触を拒み、気づけば誰の役にも立たない、誰の為でもない、誰の所為でもなく、ひとりになっていた──親にさえ、大金をはたいて高校に行かせてくれた俺の実の親でさえ、俺を見捨てて、そして俺は、ひとりになった。


 現実世界になど未練はない。


 しかし、人生をもう一度やり直したい、と言うのも、やはりなかった。


 ましてや、異世界に転移だの転生だの、そんなことも、決して望まない。


 異世界に転移したところで、転生したところで、何にも変わりはしない。

 キモオタデブ、引き篭もりのニートで極めつけにコミュ障な、社会のゴミクズ同然の俺が、異世界に転移転生したところで、何の役にも立たず、誰の為にもならない。

 いくら女神からチートなTUEEEEな能力やら武器やらを貰ったところで、俺自身が何か変わるわけでもなく、何かできることもなく、むしろ能力やら武器やらをさずけてくれた女神に申し訳ない気持ちと罪悪感でいっぱいになってしまうくらいだ。


 だから俺は、異世界を望まない。

 だから俺は、今日も家に引き篭もる。




 なんて思っていた時期も、如何せん過去のものだから。

 当然、引き篭もるったって、外に出なければいけないときは、どんなやつでも、どんな引き篭もりにでも、起こる一種のイベントのようなものだ。

 必ず受けなければいけない、強制参加のイベント。


「眩しい…………」


 久しぶりの陽の光は、五年ぶりの太陽は、やけに眩しかった。

 焼けるような暑さに、思わず家に引き返そうかと迷ってしまう。

 しかしダメだ、ここで引き返しては。

 親にさえ見捨てられた俺は、ヒキニートは、食料さえも恵まれることはない。

 必然的に、溜めていた食料(殆どがカップ麺だが)が底を尽きるのも時間の問題。

 だから俺は、今外に出ている。

 外に出て、コンビニに向かっている。


「どうか、トラックに轢かれませんように」


 そんな淡い願いを持って、一歩一歩、地面を踏みしめて、歩いていた。


 トラックに出会うことなく、轢かれることなく、コンビニに無事到着し、そして適当にカップ麺を全て買い占めて(金だけはあるのだ)、ようやくここで気づく。


「コンビニって、宅配やってるんだな……」


 おそらく高齢者用に作られた制度なんだろうけれど、ニートにも最適なものであった。今度これを使おう、絶対使ってやる。


 と、そんな決意を固めながらコンビニを出、何故か意気揚々とテンションを上げて歩いて、と言うよりも、ほぼスキップに近い形でいたら。



 気を緩めたみたいで。


 油断したみたいで。




 トラックは──目の前にいた。




 トラックが鳴いている。

 大きな声で、俺に吠えている。



 運転手は叫んでいる。

 突然の死角からの人間に、顔面を蒼白にしている。



 当然間に合うはずもなく、気づいたときには、俺はトラックに轢かれていた。



 ぐちゃりと言う音を立て、俺と言う存在は、やがて形のない、存在そのものがなくなっていった。


 身体を焼くような痛みもすぐになくなり、感覚自体もなくなっていて。



 するとどうだろうか。

 目の前がまばゆい光によって見えなくなると。

 赤髪を腰まで伸ばした美少女が、にこにこ顔で眼前に立っていた。




「リィンカーネーション、オア、ゴースト?」

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