死亡許可証
「君たちは完全に包囲されている!繰り返す、君たちは完全に包囲されている!」
俺は、古ぼけたビルに立てこもる強盗犯グループに呼びかけを行う。数度呼びかけを行ったものの犯人からの反応はない。
数分後、上官の判断で突入が決まると俺たちはビルへと走る。
「突入!」
「突入!!」
現場は激しい銃撃戦となり、俺も例外なく銃を乱射する!犯人数人と激しい撃ち合いの末、犯人を確保する。
「ちくしょう!あと1日だったのに!」
犯人を後ろ手に確保し、彼から「死亡許可書」と書かれたIDチップを押収する。IDチップには小さいディスプレイが付いており、「年齢140歳以上。保持より20日後有効。有効化残り時間1日8時間22分15秒」と記載されている。
残念だったな。お前らは裁判に掛けられ、おそらく寿命加算200年は食らうだろう。南無南無。
西暦3242年日本では、人口子宮による出生が倫理上の問題で禁止された。それから100年が経ち日本では深刻な人口減少に悩んでいた。
人類の寿命は克服され、例え頭を打ち抜かれようが、病気にかかろうが完全に修復される。技術の進歩により人は老いることがなくなった。
そう、人類は既に不老不死の技術を獲得していたのだ。最初の頃はよかった。不老不死があれば人はいつまでも幸せに生きれると皆信じていたのだった。
しかし、150歳ほどを過ぎると自殺者が急増する。西暦3342年までは尊厳死が認められていたので人はいつでも死ぬことができたのだ。
人工子宮での出産が認められているころは、国が人工子宮によって子供を育て、人口を維持することもできた。
しかし、倫理的問題だということで西暦3242年、人口子宮による出生が禁止となった。ここからが問題だ。
自然出産する人間はせいぜい50歳くらいまでの人間に限られる。出産も育児も過酷なため好んでやるものがいない。その為、出生率は西暦3242年の時点で極度に落ち込んでいたのだ。さらに、尊厳死するものは減るわけがなく深刻な人口減少に悩まされるようになる。
そこで登場したのが、「死亡許可書」だ。
人は生まれながらにして、「死亡許可書」を一人につき一つ与えられる。「年齢200歳以上。保持より10年後有効。有効化残り時間......」といった感じだ。
また、社会貢献したものや、子供を産んだもの、子供を育てた夫婦などには特別な「死亡許可書」が与えられる。これは通常の「死亡許可書」より使い始めがはやい。貢献度の高いものほど先に自由に尊厳死できるってわけだ。
逆に犯罪者は、寿命が伸ばされる。自己保持してる「死亡許可書」を書き換えられ、生きなければならない期間が伸ばされる。
「死亡許可書」が使える日まで待っていられない者――特に過去に犯罪を犯したものは、他人の保持する「死亡許可書」を狙う。先ほどの犯罪者が奪った「死亡許可書」のように特別なものは、保持から有効化までの時間も短い。
奪い取り、有効化まで逃げ切れば尊厳死することができる。有効化すれば「死亡許可書」を体に当てるだけで尊厳死することができるのだ。
俺は長らく警官をやっているが、多くの犯罪者をこれまで捕まえてきた。頭を打ち抜かれたことも一度や二度じゃない。最もどんな怪我を負っても死ぬことはないんだが......しかし痛みはあるから堪らない。
何度も何度も賞をもらい、幹部への昇進も断り現場にこだわった俺は、署内でも優秀な警察官として評価されていた。年齢を重ねると皆、情熱がなくなっていくなかで、俺は情熱を失わかなったのが、優秀と言われる大きな原動力だったのだろう。
俺の警察官としての仕事もあと少しで終わる。俺が持つ「死亡許可書」は出生時に与えられるものなので、200歳になるまで使うことはできないが、明日でちょうど俺は200歳になるのだ。
最後に美味いコーヒーを飲んで、尊厳死を迎えようと思う。
翌日。とっておきのコーヒーを準備した俺は尊厳死を迎えるべく、見晴らしのよい海岸まで来て、最後の時間を過ごしていた。
静かな波の音を聞きながらのコーヒータイム。最高だ。最高の気持ちのまま俺は尊厳死することができる。
「旦那......勝手に逝かせはしませんぜ......」
声とともに、銃声!
その瞬間、胸に激しい痛みが走る!
次に目が覚めたら病院のベットだった。撃たれた胸の傷はもうすっかり回復している。
が、
無い!
俺の「死亡許可書」が無い!
あの声の男に取られたのか?撃たれ、意識を失う前にあの男の顔ははっきりと見た。どんな男かはつぶさに覚えている。
あの男は俺が30年ほど前に捕まえた奴だ!
撃たれた者が撃った者を撃ち返すのは犯罪ではない。
俺は銃を取りすぐさま男を捜すべく走り出した。
すでに警察が捕まえているかもしれないが、急ぐに越したことはない。
万が一、盗まれて紛失した場合でも再発行は可能だから問題はないのだが、あいつから取り戻さないと俺の気がすまないのだ。
見つけた!
俺は奴を見つけると同時に銃を構え、躊躇なく発砲する!
見事に奴の胸に命中し、俺は溜飲を下げる。
たのだが、
「田中君、警察官ともあろうものが犯罪とは何をやっているのかね?」
後ろから肩を掴まれる。掴んだのは俺の上司だった。何故だ。何故こうなった。
「彼は、君の探している男とは違うよ。なぜなら...」
といって上司は、俺を打った男の顔のマスクを被る。
俺はハメラレタノダ。
「君にはあと100年は頑張ってもらわないとね」
上司はマスクを外し、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。
ふと思いついた短編です。