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i f ~もし世界を換えられたら~  作者: 山祇 匠
第2章 再開 消去編
8/10

忍び寄る影

『速報です!現在日本で狂犬病と見られるウィルスの感染者が増大しています。従来のワクチンは効かず、空気感染も確認されているとのことです』


 アナウンサーが慌ただしい様子で報道している内容は、俺も流石に見て見ぬ振りをできるような代物では無かった。

 狂犬病、とは犬が感染すると病名の通り狂犬と化す症状が出る。そしてその感染した犬に噛まれると人間も狂犬病に感染してしまう。潜伏期間が長い為、ワクチンさえ早めに摂取すれば発症は抑えられる。

 但し発症してしまった場合、狂犬病の致死率は99.99%、発症が確認されると共に死の宣告を告げられるのだ。

 そして空気感染、致死率ほぼ100%のウィルスが漂う空気を吸うだけで人間も感染してしまう、となるとそれは、大袈裟に言うと人類の滅亡を意味する。


「狂犬病ってどんな病気なの?」

 テレビを頬ずえをつきながら観ている生凛(いりん)が尋ねてきた。

 こればっかりは正直に俺の知ってる知識を伝えるべきなのだろうか。


「人間がかかるとほぼ死んでしまう病気、症状は風邪と似てるらしい」

 生凛の顔が青ざめている、そして口が震えている。どうやら何か察したようだ。


「さ、さっき空気感染とか言ってたよね?」

 テレビを観るのを止めてこちらを見てくる。


「あぁ、言ってたな」

 俺はあたかも動じていないかのような素振りでいるが、正直かなりビビっている。


「空気感染ってことはインフルエンザみたいに伝染るんでしょ?」

 生凛はテレビのリモコンを手に取り、電源を切った。


「そういう事だな」

 すると突然俺のスマホが鳴り出した、着信音からしてメールだろう。


「何のメール?」

 生凛が席を立って俺の背後にまわってくる、俺の頭の横から顔を出すようにしてスマホの画面を覗き込む。何故か俺の二の腕を掴んでいる。


「狂犬病の蔓延により、暫くの間休校とします、だって」

 まぁ妥当な判断だろう、俺の通っている稲山(いなやま)高校は幅広い地域から通っている生徒も少なからず居るからだ。


「多分私の学校からも同じようなメールくると思う」

 と言った矢先に生凛のスマホにメールが届く。恐らく予想が合っていたのか、生凛は無関心な様子だった。

 内容を見て終わると、スマホを机の上に置き、両腕を俺にまわして抱きついてきた。

 小刻みに震えていることから、怯えていることが分かる。


「怖いのか?」

 生凛の頭を軽く撫でる、髪質はとても柔らかく繊細だ。


「怖くない方がおかしいよ、そういうおにーちゃんはどうなの」

 俺の背中に顔を埋めてくる、少しこそばゆいが、それ程怖いのだろうから我慢をするしかない。


「怖いさ、でも絶対何かがおかしい」

 生凛はきょとんとした様子でこちらを見つめてくる。


 狂犬病はまず空気感染をするような病気ではないし、ワクチンを摂取している現代では殆どお世話になることは無いであろうウィルスだ。

 狂犬病程の致死率を誇るウィルスが蔓延し、それこそパンデミックとなれば、やはり人類は滅亡してしまうだろう。

 そんな病気が突然生まれない根拠は無い、だがこんなにも凶悪なウィルスが今まで誰も感染せず発見されていないのは不可解すぎる。

 先進国として衛生面にも配慮されているこの日本で、狂犬病によるパンデミックなどもっての外だ。


「狂犬病……最近そういやそんな話題を聞いたことがあったはずだ」

 生凛はまだ顔を俺の背中に埋めて震えている、暫くそっとしておこう。


 俺が狂犬病についての知識を持っていたのもそのせいだと思われる。

 確かに誰かから聞いたはずなのだ、学校の……教室でだっただろうか。


春咲(はるさき)……玲弥(れいや)

 思い出した、先週の水曜日、今日から丁度1週間前か、うろ覚えだが色々なことを言っていたな、過去での事例とかも言っていたはずだが、1つ不可解な言動があった。


『狂犬病は感染後1週間で発症するんだ』

 と言っていたはずだ、なぜこれが不可解なのかと言うと、狂犬病は発症に長くても3ヶ月程かかるからだ。当時その話題で狂犬病が気になり調べたので間違いは無いだろう。

 それ以外の間違っている部分は無かったし、とても情熱をも感じさせるように玲弥は語っていたのを思い出した。


 なぜこのようなパンデミックが起きる1週間前に狂犬病に興味が湧いたのだろうか?こればかりは分からない、どうせ今日は家に居るのだから玲弥に電話をかけるとしよう。



「玲弥、1つ聞きたいことがあるんだ」

「なんだ?こんな時に」

 いつもと変わりない雰囲気だ、だがどこか落ち着き過ぎている気がする。


「先週、狂犬病について話してくれたよな?」

「あぁ、まさかこんな事になるなんてね」

 少し話が噛み合っていないような気がするが、これは気の所為だろう。


「なんで狂犬病に興味があったんだ?」

「あぁ、それは……言った方がいいかい?」

 玲弥の声が暗くなる。言いにくいということは、何かしら関わりがあるのだろう。


「できれば話して欲しい」

「分かった。まず俺には実は2歳下の弟が居たんだ、名前は賢太(けんた)、運動が好きではしゃぐのが好きで、騒がしいやつだったよ。とある日に山に行ったんだ、昔はもっと田舎な場所に住んでたからすぐ近くに山があったんだ。そして山の中を歩いていると犬の鳴き声が聞こえたんだ、それに気付いた賢太はその方向へ進んで行った、そしてそこには暴れ狂う犬がいた、見るからに野生の犬だ、その犬は賢太を見つけると襲いかかった、俺はどうにか助けようと試みた、離そうと引っ張ったが、その犬は構わず賢太を食らった、俺は最終手段で近くにあった石を叩きつけて犬を殺した、でも遅かった、もう既に、賢太は死んでいた。それから犬を蝕んでいたのは狂犬病だと分かり、ずっと俺は恨んでいた。」


 俺は息を呑んで自分を落ち着かせる。


「でもなんで、いきなりそんな話題を昨日話したんだ?」

「それは……」

 突然玲弥は言葉に詰まった、なにか言えない理由があるなら昨日その話題を話したりしないだろう。


「願った……のか?」

「なんで……なんで慎耶が知ってるんだ! 」

 いきなり声を荒らげた、まさか図星だったとは思っていなかった。

 願う、というワードを聴いてこんなに動揺するやつなんて滅多にいない、居るとしたら、『if』ユーザーくらいだ。


「さぁな、でも知りたいことは知れた」

「おい! なんでお前が、慎耶が……」

 無言になってしまった。俺は電話を切った、そして連絡先の一覧が書かれた画面に戻った。

 玲弥の連絡先が登録から消されている、俺はさっきかけたのもこの連絡先の一覧から探してかけた、消してなどいない、取り敢えず履歴から電話をかけ直す。


「………。」

「──この電話番号は現在使われておりません」

 なんでだ……なんで繋がらない。


「おにーちゃんさっきからどうしたの?いきなり誰かに電話かけたりして」

 落ち着きを戻していたのか生凛は自分の席にいつの間にかついていた、おまけにテレビも点けている。


「玲弥にかけてただけだ」

 俺はスマホをポケットにしまう。


「玲弥?誰それ?」

 ぽかーんと口を空けている、とぼけるのもいい加減にして欲しい、玲弥については俺が高校に編入した時に紹介したから知っているはずだ。


「何をとぼけているのかな?」

 生凛のほっぺたを両手で摘む。

「痛いってばおにーちゃん! 嘘ついてないし! 」

 両手を離すとほっぺたを膨らませてそっぽを向いてしまった。


『──現在新たな情報が入りました、現在狂犬病と見られる感染症で入院していた松山 (てる)さん17歳が死亡したとのことです』

 松山……輝、俺は確かにそう聞こえた、テレビの画面に映されたテロップにも松山 輝と書かれている、写真も付いているのでひと違いでは無い。

 なんで彼女が……?(とおる)部長に続いて輝さんまで居なくなってしまうのか?俺に良く関わった人皆が不幸になっている……これが『if』を持った者の背負うべき物なのだろうか?

 そして玲弥が消えた理由も同時に分かる、『if』を使い人を殺した場合、その使用者はこの世界から消去されるからだ。


「おにーちゃん、なんか身体が重たいし熱い……」

 さっきまで元気だった生凛が机に上半身を預けている、呼吸が普通よりも荒く感じる。


「おい生凛、嘘だよな?」

 生凛は咳き込んだり身震いをしている、普通なら風邪だろうが、今回に限っていうと別の可能性の方が高いだろう。


「嘘じゃ……ないよ、多分狂犬病だと思う」

 机に上半身を横たわらせて動けないほどしんどいようだ。

 取り敢えず救急車を手配しなければ。


 119と打ち込み発信ボタンを押すも、何回やっても繋がらない、恐らく電話回線がパンクしているのだらう。

「こんな時に……畜生……」

 俺はただ嘆くことしか出来なかった、苦しむ生凛を見て嘆くことしか、それだけしか出来なかった……

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