換わらない日々
テロリストとの遭遇した日から1週間が経ち、春休みが終わり新学年が始まる日、俺の妹の生凛は生徒会長なのもありいつもより早めに家を出ていった。
相変わらず面倒見がよく、朝に俺を起こしてくれたのだが、時計を見るとどうやら二度寝してしまったようだ。リビングに行くとテレビを点けいつものニュース番組を観ながら生凛が用意してくれた朝食を口に頬張る。母親が仕事が忙しく居ないのもあって料理は生凛が作っている、最近は俺も手伝うことも増えた。
朝食を食べ終え、身支度を整え玄関を出る。今日から俺は高校生活を再スタートさせる日なのだ、いつもよりも気を引き締めて行かなければ。
稲山高校、俺の住んでいるマンションから最寄り駅から2駅先のところにある。電車通学が初めてなのもあり、妙に挙動不審になっていなかったか心配になる。もう校門が近い、桜並木が春の暖かい風に揺られている。これが花吹雪と言うものなのか、都会で植物が少なく前いた学校は桜が植えられて居なかったのでとても新鮮な気分だ。
校内に入るとまずは職員室に挨拶に伺い、指定された教室へ向かった。
「今日からここで過ごすのか、3-Aか、前の高校はクラスが数字表記だったから少し違和感があるな」
重い教室の引き戸を開けると真新しい教室に入る、遅めに来たからか人は多く、編入生の俺にとっては友達0という状況でのスタートとなる。これは思っていたよりも大変かもしれない。
黒板に貼られた座席表を確認し記されている席に着いた。
「君、もしかして編入生?見ない名前があったから気になってたんだ」
「俺は櫻楽慎耶って言うんだ、よろしく」
「俺は春咲 玲弥、よろしくな櫻楽くん」
春咲とはいかにも今の季節にあっている名前だ、気さくで明るい対応を受けて俺も少し安心した。
「櫻楽くんはどの部活に入るの?ここは文化部が多いから選ぶのが大変だったよ、因みに僕はサッカー部だけど」
「運動部じゃん! 」
つい反射的にツッコミを入れてしまった。
「いいツッコミだね、面白いし仲良くなれそうだよ」
どうやら面白かったらしい、普通に笑っている春咲は俺にまた話しかける。
「休み時間に学校を案内するよ」
「本当か!?ここは広くて職員室からここに来るのさえ迷いそうだったから助かるよ」
そう、ここ稲山高校は地元の県の中でも最大級の規模を誇る学校だったらしい、それを知らされて居なかった俺はここに来た時実はかなり焦っていた。例えるなら城が思い浮かぶ。
「僕も入学当初は全く分からなかったよ、今ではなんとか把握してるけどね」
2年かけてやっと把握なんてどんな規模の高校を俺の母さんは受けさせたんだよ、重要な場所だけ憶えて全部把握なんて無謀なことは諦めよう。
そのとき教室の扉が開き先生が教室に入る。
「今日から新しい学年だ、受験生として気を引き締めて取り組むように」
高校生活が始まったと思わせられる、この感覚を楽しみにしていた、退学を余儀なくされて1年後に高校生活に復帰できるというのは、不幸中の幸いというものなのだろうか。
放課後、俺はとある部活の部室へと向かった、ここは自分にとって憶えておかなければいけない場所なので、休み時間に春咲に案内してもらった時に精一杯憶えたがやはりふと気を抜くと迷ってしまいそうな程の規模なのだ、ここはどこかのダンジョンかよ。
未来科学部、俺はそこに用がある。部屋の名前は第5理科実験室なのだが第5まで要るか?普通、自分が前通っていた高校は第3までだったが1学年に1つの理科実験室が割り振られていたがここはどうなのだろう、この学校は色々と謎すぎるぞ。
未来科学部部室、改め第5理科実験室に着いたのだが、本当にここで合っているのだろうか、妙に物静かというか、もしかしたら部員が居ないとかだったら勘弁だがそんなことは聞いて居ないから大丈夫だろうが……。
恐る恐るというか不安な気持ちが大半を占めていたが今はその気持ちを抑え込みドアを開ける。
ドアを開けると部員が3名居たので不安だったことは解決されたが、
「なんで組体操みたいにピラミッド作ってるんですか」
まさか予想もしていなかった、3人でピラミッドを作っていたのだ、これはツッコミを入れるべきなのだろうか。
「よ、ようこそ未来科学部へ」
「誤魔化せて無いです」
少々空気が悪くなった気がするが、今はそんなことはどうでもいい。
「よ、よく来てくれたね、歓迎するわ」
「ねぇねぇ! 君どこから来たの!?こんな影薄い部活に興味があるなんて面白いね」
「影薄い部活で悪かったな御剣」
「ま、松山部長!?誤解ですよ誤解! 」
セルフで何故か自己紹介が進んでいる、それにしても1人1人のキャラが濃くないか?
「あの、自分は稲山高校から来た3-Aの櫻楽 慎耶です」
流石に名乗らなければいけないと思い、突拍子もなく自己紹介をしてしまったが問題は無さそうだ。
「自分は部長をやってる松山 聡、よろしく櫻楽さん」
どうやら部長は常識人なようだ、まともな人が居ると確認できただけどこか安心した自分がいる。
「俺は御剣 勝! 2年っすけど部活の中では先輩っすね! 」
「失礼な人でごめんなさいね、私は大山 杏子、よろしくね」
1人おかしな人が居たと思うが、これは厄介そうな人相だ。
「さっきピラミッドを作ってましたけどここって基本的に何をしてる部活なんですか?」
もちろん内容は知ってきて入部したのだが、さっきの組体操ばりのピラミッドをみたら自分が来た部活を間違えたのではないかと心配になったからだ。
「よくぞ聞いてくれました! ここは……」
御剣がそう言いかけた時に部長の松山がわざと被せるように話を始める。
「この部活は、未来に発生するであろう問題をどう解決するか考え改善策を論文にしたり、新しい研究品を作ったりするのが主な活動だよ」
こんな真面目な人がなぜピラミッドをしていたのかは謎だが、触れていけなさそう雰囲気なのでここはスルーしておこう。
「まぁ、取り敢えず座って話そ」
言われるがままに俺は指定された席に着いた。椅子は学校に良くある背もたれ付きのパイプ椅子だ。座り心地は至って普通だな。
「ミーティング、ですか?」
「未来会議、と俺達は呼んでるっす」
「そう呼んでるのはお前だけだろうが」
御剣の行動は他人には予想出来ないタイプの人間のようだ、変わった人も居るものだな。
「これから第73回未来会議を始めるっす! 」
「なぜお前が仕切る、あとそんなに回数を重ねた覚えはない」
「いいじゃ無いですか部長ー」
「いつもこんな感じなの、御剣は見ての通り正直な人だから」
春、それは始まりの季節、出会いも別れも全てはこの季節から始まる。これからあるであろう悲しみの物語も、全ては今、この瞬間から始まった。
始まりがあれば終わりがある、それは必然であり決定的なこと、人は死ぬ為に生まれてくる、というけれども、それと同じように物語は終わる為に始まるのだろう。こうして新しい高校生活が始まっても1年後には大学の合否を待っているのだ、人生という物語、精一杯楽しもう。
「始めましょう、未来会議」