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i f ~もし世界を換えられたら~  作者: 山祇 匠
第1章 出逢い 更生編
1/10

俺の過去と妹と風呂

    AM11:25 3/25


「なんだこのサイト、『あなたの願い叶えます』?怪し過ぎるが少し気になってしまうのが人間ってもんだ」

 サイトにカーソルを合わせてクリックす

る、背景が白く真ん中には大きな文字で

『if』と書かれており、その下に入力欄がある。利用規約などとご丁寧に記されている、これに同意しないと使えない、という訳ではないらしいが読むことを推奨する文が添えられていた。

「『利用規約を読むことを推奨します』か、理由は無いのか理由は、まぁ良い少し読んでみるか」


=======利用規約=======


       〜中略〜

5.このサイトで叶えられる夢は10個までです


6.このサイトで叶えられる夢の規模によっては代償が発生する可能性があります

例 地形の変更 人の削除 など

また、代償によっては自身の生命をも脅かす可能性があります、仮に使用者が死亡しても当社は一切の責任を負いません


7.このサイトの存在を他人に教えてはいけません、仮に実行した場合はこのサイトを知った人物を削除します


8.このサイトで叶えられないこと

 死者の蘇生 生命の作成

 惑星規模の変更 夢の取り消し


      〜以下省略〜


「叶えられるものは10個か、勿論信じた訳ではないがこういうサイトは結構楽しめるものもある、フラッシュのあるサイトは数々見てきたし雰囲気的に今回のもその類のものだろう」

 もし本当に叶ったとしても悪影響がないものにしよう、面倒ごとは避けたい、そうだ、丁度いい願い事があるじゃないか。


 『もし俺の妹がブラコンだったら』


 まるでどこかのライトノベルを想像させる願いだが、これは願ってもないことだったのだ。俺、櫻楽(さくら)慎耶(しんや)の妹は引きこもりである兄を軽蔑し、かなり距離を置いている状況だ。

 こうなるのも無理はないが、昔はそうではなかったのだ、愛おしく可愛らしい妹だっ

た、一年前に引き篭るきっかけとなってしまったあの事件さえなければ、俺と妹の関係は崩れなかった、引き裂かれることはなく仲の良い兄妹だったであろう。




 それは一年前の連波(つらなみ)高校の本校舎での出来事だった


 俺はいつも絡んでるグループで話してい

た、非道に走る人達ではなく、常識は知っている奴らだと思っていた、しかしそんな印象はその日の放課後で崩れる。


 簡単に言うと、いや簡単に言わなくとも伝わることだが、『いじめ』を彼らはしていたのだ。強者が弱者を虐げる行為、精神的にも肉体的にも大きな傷を残すであろう『いじめ』に俺の入っていたグループは手を染めてしまった、温厚な方の性格な俺は勿論辞めるように言ったが、どうやらもう始まっているらしい。

 最初は石を投げつけたりしたらしい、これでも十分停学になりかねない行為だ、もし怪我を追わせる一方的な暴力をした場合、主犯は退学処分でその他のメンバーは3ヶ月から半年の停学となっている、見ての通り重罪

だ、一般社会に出る前の社会なのだ、これほどの罰は当然と言えよう。

 そしてその行為が今このとき行われようとしている状況だった、俺は止めようとした、だが脅されてしまい簡単に引き下がってしまった「逆らったらお前があいつみたいになるからな」と言われてはどうしようもなかっ

た、『あいつ』とはいじめ被害者のことである。

 いじめの内容は殴ったり蹴ったりなど見るにも堪えないものだった、見てわかる傷を作ってしまっては確実に『いじめ』が発覚するだろう、そうなれば俺も停学処分に巻き込まれる可能性があると思い俺は主犯の鏑木(つみき) 孝紀(こうき)に「親がいないから妹の世話をしなくちゃならないから帰る」という口実で帰ることが出来た。このことは周りのグループのやつらも聞こえていたはずだった、しかし目の前で行われている『いじめ』に背を向けることは、背徳感を覚えるものだった。


 その次の日のこと、俺は教育相談室に呼び出された、朝の校内放送でいきなりのことだった。

 「朝っぱらから呼び出すなんて何があったんだよ、心当たりしかしないけど」

 恐らく昨日のいじめのことだろうとは察しがついていた、唯一手を出しておらず目撃した人物が俺なのだ、情報提供者として呼び出されるのも無理はない。

 金属でできた引き戸を開ける、少し錆びたような金属の音がした。教育相談室は初めて立ち入る場所だった、校長室の次くらいに自分には入る縁がないだろうと思っていた部屋だったのだが、ことがことだから仕方があるまい。

 

 俺を呼び出したのは2年生の主任である稷山(きびやま)誠治(せいじ)は右側の席のなかでも中央の席に座っていた、俺も空気を読んで稷山主任に対面するように席に着いた。

「今回ここに呼んだ理由は分かるな?」

 筋肉で出来た分厚い腕を組みながらこちらを威圧するかのように睨んだ。


「はい、いじめの件ですよね」

 俺はその雰囲気に圧倒され、少し縮こまってしまった。心拍数が上がり身体中に鼓動が伝わった。


「そうだ、リーダー格であるお前に何があったのか、何故したのか、を聞くために呼ん

だ、その様子だと頭を冷やして来たようだ

な」

 リーダー格?俺はそんな仕事はしていな

い、リーダー格はいわゆる主犯ということだろう、ならば孝紀が呼び出されるはずなのに……なぜ俺なんだ。

「俺は、リーダー格じゃありません、それは鏑木なんです、俺は目撃しただけです! 」

 拳を握りしめ、声を荒らげて言った。


「その鏑木と他のメンバーと被害者の立花(たちばな)にも話を聞いたが、リーダー格は櫻楽だ、と口を揃えて証言している、言い逃れはよせ」

 昨日、何があったんだ?どうみても俺は()められたんだ、あいつらに、でもどうして被害者までも俺のことをリーダー格呼ばわりしてるんだ、もしかしたら立花を脅して言わせた、とも思えたがその可能性は低い。

 何故なら昨日俺が帰ろうとして校門の近くに居た時少し騒がしかったのを憶えている、もしあれが先生達に見つかったときのものならば、脅すほどの時間はないはずだからだ、そうなれば残る可能性は1つしかない。


 俺をリーダー格と勘違いしている。


 まず、数回に渡って『いじめ』が行われているらしいが俺は立ち会ってもいないし、被害者の立花も今日初めて面識があった。

 それなのになぜリーダー格と間違われたのは何故か、それは恐らく『いじめ』の途中で恐らく他のやつらが俺の名前を出していたのだろう、「櫻楽もくれば良いのに」とかその辺りだろう、恐らくその時点では俺をリーダー格と勘違いはしていないし気にも止めていなかっただろう。

 だが俺は昨日の『いじめ』のとき、唯一手を出さなかった、そして途中で帰ったのだ、普通にみればヤジや下っ端の人間のようにみえるだろう。


 だが被害者からみたらどうだろう、無言で『いじめ』を見ているのは俺だけだった、それが逆効果になってしまった、リーダーと言うのは下僕(しもべ)(つか)ってリーダーは何もしない、そう言うイメージはないだろうか?

 よくあるのはヒーローものの話でラスボスがリーダーで下僕を刺客としておくり、最後にリーダーが出てくるがそれまでは見ているだけなのが定番と言えるだろう。


 それを自分に当たはめてみてはどうだろうか、突然現れたが自らは手を下さない人間、まさに定番のリーダーともいえる行動だ、そして結局何もせず帰った、そんな勘違いをする訳がないとは思うかもしれないが、やはり重要なのは被害者視点と言うことだ、ここからの推論はあくまで心理面の問題なので正しいとは限らない。

 まず『いじめ』被害者というのは加害者に憤りの感情があるだろう、それは当然のことだ、そしてその中でもその計画をした人物を特に恨むことだろう、そんな風に思っている中、リーダーのような人物が現れ、その人物を裁けるというのなら言われなくとも申し出るものだろう。

 だから俺をリーダーだと勘違いしている、という事だ。

 だが残念ながら今直面している状況でそんな推理は意味の無いものだったろう、これは単なる自己満足に過ぎなかった、さて、どうやって誤解を解けばいいのやら……


「先生、俺は──」

 俺はやっていない、だから冤罪を解かなければいけない。

 冤罪を解く為にはそれこそ証拠が必要となる、冤罪を証明することは日本の裁判でも殆ど無いらしい。

 そんな時代にしかも学校という場でその可能性に賭けることで成功することは出来るのか?


 答えは否だ、俺は恐らくどう足掻いても奴らの策という泥沼から抜け出すことは出来ない、あたかも底なし沼のように俺を飲み込むだけだ。

 こんなことで高校生活を終わらしてしまって良いのか?ここで認めても下手に逆らっても退学は免れない、ならどうすれば良いのだ?

 底なし沼に完全に飲み込まれない内に抜け出す術は……


 俺は唾を飲み込み、決意を固めた。

「俺が、やりました」

 手が震えている、鼓動が前よりも速くなるのを感じる。

 俺はこの高校で生活することを諦めた、この場所で俺の生きる場所が無い、と確信してしまったからだ。

 これは俺の意思であり、冤罪をかけた奴らに操作された意思では無いと信じたい。





「おにーちゃん今日お母さんいないし一緒にお風呂入ろーよ」


 思わず体が震えてしまった、流石に考え事をしていたときにいきなり人の部屋に入られたら……って、ん?

 いまこいつ「一緒に風呂入ろーよ」って言ったか?まさかあんな俺に対して冷酷無比な彼女がそんなのという訳……


「おにーちゃん聞こえてる?風呂冷めちゃうよー?」

 風呂はそんなに早く冷めねぇよ妹よ、まるで夢が叶ったみたいじゃねぇか、妹もついに俺のことを昔と同じように扱ってくれるようになったか。


「珍しいなー生凛(いりん)から風呂入ろうだなんて」

 内心めちゃくちゃ嬉しい、まじで夢なんじゃないのかと思い、頬を(つね)ってみ

る。

 うっ、痛てぇ……これで夢じゃないことは確かだ。


「そんなことはどうでも良いから! 結局どうなの! 」

 キレられた、いつもとは違い愛らしいキレ方じゃないか!


「分かった、分かった一緒に入るから、但しタオルくらいは巻かせろよ! 」

 ついテンションが上がって声を荒らげてしまったが、こんな一生に2度と無いと思っていたことが実現しようとしているんだ、このチャンスを逃すまい!


「やったぁ!うふふふ〜」

 もうこいつ酔ってんじゃないのかと思えてくる、ついでにその場でジャンプしてやが

る、可愛いじゃねぇか畜生。


「じゃあ先に入ってるね〜」

 手を振りながら笑顔で風呂場へかけて行った。

「はーい」

 こんなことあって良いのか、なんだか家族と風呂に入るってだけなのに妙に緊張してきた、何があっても法には触れないようにしなければ、落ち着け俺……

 ふぅ、とため息のような気を引き締めるような息をついて、俺は風呂場へと赴いた。

 風呂場に着くと妹の服が籠に入っていたが今はそんなことに気を取られている場合ではない、自分もさっさと服を脱ぎちゃんとタオルを腰に巻いてから風呂場のドアを開ける


「おい、なんでお前タオル巻いてないんだ

よ!」

 勢いよくドアを締めちまった!壊れたらどうしよう、その前に俺の理性が壊れそうだけど!


「おにーちゃんは恥ずかしいかもしれないけど生凛は恥ずかしくないもん」

 こいつ痴女なんじゃないのか、学校で大丈夫なのかよ。


「せめてその長い髪で隠すべきとこは隠してくれ!」

 親帰ってきたら終わりじゃねぇかよ、でもこのチャンスを逃したくない!


「出来たよ〜」

 やっと落ち着いて入れる、ドアを開けた先にはちゃんと言われた通りに隠している生凛が居た、なんだか悪いことしてる気分になるなぁ……


「なんで俺を誘ったんだ?」

 俺は妹の隣に座って(おもむろ)にシャワーを浴びる。隣の生凛が気になって仕方がない。


「えー、一緒に入りたくなったから」

 やっぱ酔ってる説が有望になってきた、こんな兄ながら妹が心配になってきた。


「なぁ生凛、もしかして酔ってる?」

 俺は生凛を見つるも、いつもと余り変化が見られない。

「何言ってるのおにーちゃん、お酒は20歳になってからでしょ」

 それどっかで聞いたことある台詞だなぁ、生凛が俺に向かって息を吹きかけてきた、アルコールの臭いがしないことを証明したつもりのようだ、残念ながらアルコールの臭いはしなかった。酔ってないとすればこいつ本気で言ってたのか。


「おにーちゃん頭洗ってあげる」

 なんと、生凛よそんなことまで覚えてきたのか!これはもう夢でもいいくらいだ。

 俺の髪の毛はもう既にシャワーを浴びていたため、濡れていたので生凛はシャンプーを手につけて俺の頭を洗う。


「なんでだろうな、今この状況にすっごい背徳感を感じるんだが」

 そんなことは裏腹に生凛はお構い無しに俺の頭の上で手を踊らせる。


「自分以外の人の頭を洗うのって結構楽しーね」

 人の話くらい聞きやがれ、天然なところは直らないのか。


「ふふふ〜しゃわわ〜」

 何言ってんだと言わんばかりに上を見上げようとしたが、もはや隠れてもいない生凛の胸が見えそうになったので、目線を素早く戻す、因みに今はリンスをしているようだ。


「結構洗うの上手だな生凛、なかなか気持ちいい」

 別にこれは意味深発言ではない、妹が兄の頭にリンスをしているだけだ、決して卑猥な行為には及んでいない。


「喜んでくれて良かったよ〜また今度もしてあげるね〜」

 なんと次回の予告も聞けるとは、これはもう俺は天国には逝けなさそうだ。


「それはどうも」

 生凛が背中を叩いてきたが、恐らく返事をしたつもりなのだろう。


「洗い終わったよ〜」

 ありがとう、と生凛に言ってそのまま俺は体を洗う、生凛は湯槽(ゆぶね)に浸かってい

る。


「やっぱり、一洗いした後のお風呂は格別だね」

 他人(ひと)洗いと一洗いをかけてるの

か、考えすぎかもしれないけど。


「そういうもんなのか」

 生凛はその長い髪を持ち上げ湯に浸からないよう結ぶ。

「さっきの駄洒落だったんだよ!やっぱり気づかなかったか〜」

 本当に掛けてたのかよ、こいつ色々と出来るな……


 この後少し話していたら生凛がのぼせてしまって俺が布団まで運んでやった、裸を見たんだろって?家族の裸を見ても何も思わないのが普通だろう、それこそシスコンでもあるまいし。

 俺は水を飲んで寝支度を済ませて自分の部屋に戻ろうとした。

「生凛の様子を見に行くか」

 生凛の部屋の開き戸を開けて中に入る、何年振りだろうか、ここに入るのは。

「ん……おにーちゃん……」

 !?気づかれたか?思わず体勢を構えてしまった。

「おにーちゃん大好き……」

 実は兄妹愛があるやつなんだな、と感心するとともに安静なことを確認したので今度こそ自分の部屋に向かった、そして思い出し

た。そう、『if』のことだ、俺は自分の部屋に入るや否やパソコンの電源を点け、例のサイトを開く。

「Dream complete《完全な夢》?」

 とサイトの入力欄の下に書かれていたがクリックすると消えてしまった、替りにバツ印が1つ書かれている。これはカウントだろうか、確か10個だけ叶えられたはずだ。

 という事はやけに生凛がブラコンみたいになってたのはそういうことか。

 このサイトは本当だったのか?単なる遊び心で作られたものかと思っていたけど、となればこれから使い道があるときが来るかもしれないな。


「もう色々頭がこんがらがって疲れた、今日は俺も早く寝るとするか」

 俺は部屋の電気を消して布団に入った、明日からは春休みのはずだ、妹ともっと話すことが出来そうだ。


山祇 匠です。


 まず最初に第1話 俺の過去と妹と風呂

をご愛読頂きありがとうございます。

 今回の作品はよくあるフラッシュのサイトがもし本当に夢を叶えてしまうものだった

ら、というものです。


 自分がもし叶えるとしたら宝くじを当てて家で過ごしながら小説を書いていたいです笑

 みなさんも1度は考えたことがあるであろう『もしも』の世界、世界が換わっていく中で、どんな選択を慎耶くんがとるのかこうご期待下さい!

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