おかしな喫茶店
私、奈菜は、とある喫茶店で働いています。
「喫茶ハピネスチャージ」はいわゆる穴場。
どのメニューもおいしいと評判ですが、少し、いや、とーっても変わっているんです。
からんころーんとベルがなり、お客さんがやってきます。
最初に来たのは、常連の雪女さん。
今日も腕時計をちらちらと気にしながら、いつもの席に座ります。
「あー、店員さん。アイスコーヒー」
「はいっ。いつものですねっ」
雪女さんが本物の雪女さんかは知りません。
でも、夏場でも吐く息が真っ白で、座る席には必ず霜が残っている。
こんなの、雪女さんに決まっているじゃないですか。
雪女さんはいつもアイスコーヒー。ホットだと溶けちゃうんでしょう。
「お待たせいたしましたっ」
私はアイスコーヒーをテーブルに置きます。
「ありがとう」
雪女さんの近くはとっても寒いけど、雪女さんの笑顔は温かいんですよ。
またベルがなります。
「いやぁ、暑い暑い」
そう言いながら入ってきたのは、暑がりで有名なカッパさん。
今日は何だかスーツでビシッと決めていて、かっこいいです。
「おー。奈菜ちゃん。久しぶりね」
「あ、はいっ。カッパさんも元気そうで何よりです!」
私とカッパさんはご近所さんなので、よくお話をします。
カッパさんはちっちっと指を振りました。
「カッパさん、じゃなくて、クレコタリアーノマスジックステロノノンイドルカッパだよ?」
「略してカッパさん、でいいじゃないですか」
カッパさんは、分かってない、とでも言うように首をすくめると、店内を見渡しました。
「ありゃ、この涼しさはなんだい?」
「ああ、あのお客様でしょうか」
私は雪女さんを示します。
雪女さんが小さく頭を下げると、カッパさんは頬をかきかき
「こりゃまいったね」
と嬉しそうに笑いました。
次に来たのはろくろさん。
恥ずかしそうに首を伸ばし、小さな声で注文します。
「あの、この、ケーキを、お願いします」
「かしこまりましたっ」
「ひうっ」
私の声にビクッとしたようです。
私は申し訳なくなりながらも、ケーキを持ってきます。
「どうぞ」
「ありがとう、ございます」
ろくろさんは一口ケーキを口にしては
「おいしい…」
と呟いています。
私はこの瞬間を見るのが大好きなんです。
そうこうしているうちに、あっという間に閉店の時間。
私は最後のお客さん、閻魔様にお辞儀をしてから、店長のところへ行きます。
「店長、終わりましたよっ」
「お、ありがとうね。奈菜ちゃん」
店長は九つのキツネのしっぽを揺らしながら、お金を数えていました。
突然、店長が心配そうにこちらを見てきました。
「奈菜ちゃん。ここのバイト、つらくない?」
「全然大丈夫ですけど」
「ならいいのだけれどね。嫌になったら、辞めていいのよ?」
「毎日楽しいです」
店長はふと、空中を見つめます。
店長がこうするのは大体、昔のことを思い出しているときです。
この喫茶店、前は「喫茶しんわ」といったそうです。そっちの方がずっと合っていると思うのですが――
「店長、また明日も頑張りましょう!」
「……そうね」
こうして「喫茶ハピネスチャージ」は、明日も開店します。
読了、ありがとうございました。