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8.    砂の城と砂の国。2020/08/04

 ハクと駿は精霊の国から岡山の親戚宅へ移動した。駿は居間のソファーにデレーンともたれ掛っている。


「なんだか疲れた……」

「ほんとだよ。カミィに振り回された一日だった」

「カミィの食欲はさすがだけど、あの羽にはびっくりしたな」

「カミィ、女神さまみたいに神々しくみえたけど」

「「中身は変わらなかった」」


 ハクと駿は同時に言って笑ってしまった。カミィも大人になったら、黙っていればいいかもしれないとハクは思う。見かけは桜の精だから。


 あの桃の残り半分は、ハクの結界の中にしまっている。ハクが持っていたほうがいいのでは、という事になったから。

 桃太郎改め、桃太に聞いたら「ふにゃ~、きゃ~」と嬉しそうに答えた? ので、蓋付きのお皿にのせて結界にいれておいた。鮮度もそのまま保つのでいつでも新鮮だ。

 カミィが桃を食べて見るように勧めてきたが、ハクは断った。羽仲間をつくりたいカミィは残念そうだったけど、ハクが食べてカミィと同じになるとは限らない。

 光の珠があるのなら違う変化を起こすかもしれないし、ハクは今の半精霊で充分だと思っている。


「さて、寝るか」

「そうだね」


 ハクたちはお風呂に入ってすぐ寝ることにした。昨日は寂しかったけど、今日は静かでいいなぁと思ってしまった。コビトのファイ、ユキやクロロとアオルが実体化してお布団のまわりで寝ているのは癒される。

 駿がうらやましそうに見ていたので


「誰かいってあげて」


 とハクが言ったらファイとアオルが移動した。毛玉たちは駿も好きなようだ。視えないが、駿のコビトも彼のお布団にいっしょに入っていった。


「おやすみなさい」

「おやすみ」


 明日は晴れるだろうか。




 翌日は快晴。夏の朝は明るく青空もきれいだ。

 シーツを洗ってから近くの喫茶店でモーニングを食べた。ハクはカフェオレにしてもらったが駿が「ここのコーヒーはけっこううまい」と褒めている。

 さて、気を巡らせてみますとマナの溜まっている方向がわかった。


「駿兄、あっち」

「ん。昨日より早い」

「少しずつ成長しているんだよ」

「そうか。成長期だからな」

「それ、違うような……気がする」

「そうか~」


 路地を歩いて行くと小高い里山を見つけた。麓に小さな神社がまつってあって、その裏手の小さな窪地にマナがたまっていた。前の所より少し量が増えているようにみえる。マナを魔法玉に換えてしばらく休んでから親戚の家に向かう。

 帰る途中でマナをまとった女の人を見かけたので、ハクは姿を消してソーッとマナを回収した。


「あら?」


 女性は怪訝な顔をしたが、女性のコビトは後ろにいるハク達と目があうと深々とお辞儀をしてきた。

 親戚の家に着くともうシーツは乾いていた。夏は洗濯物がすぐ乾く。

 少し休んだら鳥取に出発だ。

 岡山駅でコビトの刺さった少年を見つけたので少年の横を走って通り抜け、通りすがりにコビトをスポンと抜いた。そのままコビトを持ってきてしまったが、ハクが立ち止まるとコビトはお辞儀をしてからあわてて少年のほうへ飛んで行った。


 コビトは少年の頭の上に戻ってから今流行りの曲にあわせて踊りはじめた。ちょうど、音楽が流れていたのだ。周りにいた、歩いている人のコビトも同じ踊りを踊りだした。コビトが一斉に踊りをあわせるのはいつみても見事だ。

 ファイにユキ、クロロとアオルもいっしょに踊っていた。ファイたちもコビトの仲間のようだ。

 曲が流れてなくても、コビトが踊っている曲がなんとなくわかるのは不思議だ。

 そこから歩いてコンコースへ移動してからハクはなんとなく駿兄に話しかけた。


「 駿兄、コビトの踊りって曲が見えてくるっていうのかな、曲が聞こえないのにわかるよね。今のコビトの踊りは駅のBGMに合わせてたけど」

「えっ!? 踊り?」

「ああ、駿兄には見えないけど、さっき、コビトが喜んで踊っていたんだ」

「コビトはきーちゃんと桐ちゃんに踊るんだって思っていたが違うのか?」

「え、あっ、そういえばどうしてだろう? さっきもコビトが喜んで踊ってた」


「今は?」

「いまはみんな、こっちを見てない」

「あの二人がいる時は?」

「桐ちゃんは、コビトは目があうと踊りだすからなるべく見ないって言っていたけど」

「きーちゃんもスルーして見てないふりするって言ってたな」

「どうなってんだろう?」

「よっぽど、嬉しかったんじゃないか」

「そうかも」

「コビトの踊りは本能だ」


 ファイが重々しく言ってきたが、確かにそうかもしれない。


 岡山から鳥取まで特急で移動した。そして鳥取駅から鳥取砂丘までバスに乗る。

 鳥取砂丘は暑かったけれど良い景色だった。砂丘はとても広くて海までかなりの距離があったので、ハクはこっそり駿に疲労回復の魔法をかけておいた。

 駿はがんばって歩いていましたけど疲れてきたみたいなのだ。そして海岸でしばらくボーっとしてから砂丘の途中にある小さなオアシスにおりてみた。


「おー、オアシスだな」

「こころが洗われる?」

「いや、いや……こころが落ち着く? かな。とにかくいい景色は人のこころに良い影響を与えるのは間違いない」

「そうだね。砂丘っていいね」

「砂丘がこんなに見応えがあるとはおもわなかった」


 駿とそんな話をしているとオアシスのすぐ側にお城が浮かび上がってきた。ぼんやりと半透明にみえる砂の城だ。


「わぁー、蜃気楼だ! えっ!」

「こんな蜃気楼があるわけないだろ。城だよ!」

「砂でできているようにみえる……誰かがつくった?」

「こんなリアルな城、だれが作ったっていうんだ」

「芸術家?」


 ハクたちが驚いているのに、少し離れたところにいる人たちには見えてないようだった。普通に談笑しながら去っていく。


「えーと、これまで不思議な世界は俺には見えなかったけど……」

 駿が声を抑えながらハクの顔を見た。


「今回ははっきり見える」

「うん。見えているのは僕たちだけみたいだ。ファイ、君たちは見える?」

「見えるぞ。砂で出来た城だな」

「キューン」

「メエ」

「み、える」


 コビトのファイ、ユキやクロロとアオルから返事が返ってきた。なんだかワクワクした気持ちも流れてくる。

 砂の城の門が開いた。そして、門からハクたちの前まで赤いじゅうたんがスルスルと流れるように敷かれた。


「駿兄……」

「歓迎しますって事かな」

「でも……」


 なぜか毛玉たちは喜んでハクの上で飛び跳ねている。


「ハクさま」

「ハクさま、早く行こう」


 ファイがハクの手をとった。毛玉たちを呼ぶ何かがあるようだ。ファイがいうには何だか行きたい気持ちになったそうだ。


「駿兄……」

「よし、行くか」

「……」

「いざって時は守ってくれるんだろう?」

「そ、そうだね。ペンダントもあるし」

「大丈夫だ……たぶん」


 駿の頼りない言葉を聞きつつ二人は赤いじゅうたんに足を乗せた。じゅうたんに乗ったと同時に、じゅうたんは歩く歩道になってハクたちはそのまま城まで吸い込まれていった。

 近くでみる城は確かに砂でできているが、とても精巧で本物のようにみえる。


 そして城の入口には砂でできた門番がいて、ハクたちが門に着くと目が動いて敬礼してくれた。ハクたちもあわてて会釈したがそのまま城に運ばれてしまった。城のエントランスには砂でできた執事が待っていた。砂、なのに燕尾服みたいな服が彼の動きにつれて動いているのが不思議だ。


「ようこそ、砂上の城へ。主がお待ちです。こちらへどうぞ」


 砂執事はうやうやしく頭をさげると先にたって二人を案内してくれた。

 砂でできているのにとてもスムーズに歩いている。そのまま城の廊下を通るとまるで中世の古い城のような造りだった。

 精霊国の宮殿はホテルの雰囲気が混ざっている、がここは完全に古い城だった。ひときわ大きな扉の横にはやはり砂でできた槍をかかげた兵士が立っている。

 ギギーッと大きな扉が開いた。赤いじゅうたんがずっと先まで敷いてあって一段高いところに王座が設けてある。


「どうぞおはいりください」


 執事の言葉に従ってハク達はそのまま王座の前まですすんだ。王座には丸い水晶が置いてあり、その水晶の中には小さな人魚がいた。


「ようこそ、おいで下さいました。本当にお会いできて嬉しく思います」


 人魚はかわいい声で話しかけてきた。この人魚、あの道後温泉にいた水精の人魚とよく似ている。でもこちらは駿にも視える人魚だ。


「あの、突然で申し訳ないのですがお願いがあります」

「ひょっとして……これですか?」


 ハクは魔法玉を取り出すと聞いてみた。人魚は目を輝かせると


「はい。お願いです。いただけないでしょうか」


 人魚はすがるような顔でハクのほうを見てきた。ハクは駿を見た。精霊女王の桔梗から道後温泉みたいな事があったら魔法玉は渡してくださいと言われていたが……どうしよう。


「いいんじゃないか。道後温泉と同じ人魚だろう?」

 駿に言われてハクが肯くと


「ありがとうございます。人の子もありがとうございます」

 と人魚は嬉しそうに微笑んだ。


 ハクは水晶玉に近づくとそっと魔法玉を差し出した。

 魔法玉を水晶にあてるとそのまま吸い込まれていく。人魚は受け取ると小さな口で食べ始めた。すべて食べ終わると水晶は光に覆われて大きくなっていった。そして、水晶玉が割れて人魚は人の姿になって出てきた。


 美しい大人の女性だ。人の姿になった人魚の背中にはレースのような小さな羽が生えている。

 道後温泉の水精と似ているけど、本体は人魚なのかな? と思いながらハクは人になった人魚をみつめた。


「ありがとうございました。助かりました。私は砂の国の女王です」

 人の姿になった人魚はハクと駿に向かって深々と頭をさげた。


「あの、この魔法玉はあなた方にとっての食事になるのですか?」

 ハクが尋ねると


「魔法玉、というのですか? この砂の国を維持するための力が失われていって、私も人の姿がとれなくなり水晶の中に入っていたのですが……この魔法玉に強く惹きつけられたのです。食事というより力を取り込んだという感じです」

「魔法玉はエネルギーの源みたいなものになるんじゃないですか?」


 駿がきりっとした顔で声をかけた。いつもより凛々しくみえる。この女王がきれいな女の人だからかもしれない。


「そうですね……そうかもしれません。この魔法玉のおかげで失われた力がよみがえりましたから」

 女王は少し、何か考えていたみたいだが、


「とりあえず、お茶を差し上げたいのでこちらへいらしてくださいますか」


 という事で女王が自ら違う部屋に案内してくれた

 途中、渡り廊下を通ったが緑のうつくしい中庭がみえた。その中庭にはきれいな花が咲いていたし、世話をする人もいたがその人は砂ではなかった。そして、その人の頭の上にはコビトがいた。


「砂の人だけではないのですね」

 ハクが聞くと


「今はもう砂上にはいませんし、私の力も戻っていますから地上の人の子と変わりません」

「え、砂上にいない……とは」

「砂上の城はまぼろしのような物です。砂の上にいる時、城の人間は砂になりますがこの国では普通の姿でいることができます」


 女王の話に此処はどこだろうとハクが思っていたら、応接の間に着いたようだ。槍を持った兵士や砂でできた執事も見当たらない。


「どうぞ、おはいりください」


 扉を開けて入った部屋はレトロな雰囲気の上品な部屋だった。皮張りのソファーのすわり心地もよく、大きく開いた窓からはさわやかな風が入ってくる。

 なんだろう……何かひっかかる、このさわやかな風、ハクが考えていると女王が話しかけてきた。


「今、私たちは『どこでもない世界』におります」

「『どこでもない世界』ですか?」

「えぇ、はるか昔につくられた世界です。この世界から、この城は人の子の世界に行く事ができます。各地の砂漠に幻のように姿をあらわす事ができるのです。城のものは砂になってしまいますが」


「この世界は閉じられた空間に入っているという事ですか?」

「そういう感じかもしれません」

「この世界をつくったのは?」

「はるか昔に光の神さまが創られたとの伝承がございます」

「光の神さまですか?」

「その神さまはどちらにいらっしゃるのですか」


 ハクと駿は『神さま』という言葉に、驚いて女王を見た。


「さあ、昔のことですからよくわからないのです。私の本体は人魚なのですが、もうすでに何代も経ておりますのでこの世界を託された当時の事はわからなくなってしまって」


 道後温泉の人魚は代替わりをしてない様子だったが、こちらの人魚は寿命があるだろうか。


 トントンとドアがノックされメイド服をきた女性と先ほどの砂執事が人になって入ってきた。二人はお茶とお菓子を持ってきてくれた。てきぱきとハイティースタンドを設置してサンドイッチやケーキ、スコーンに各種のジャムや、クリームをセットしていく。


「おお、きゅうりとハムのサンドイッチですね」

 駿が喜んでいる。


「はい。やはりアフタヌーンティーにはこのサンドイッチがかかせません」


 執事は駿の言葉に、こころなしか嬉しそうだ。たくさん種類のある紅茶から好きなものをと言われ選んだが、とても上手に入れられた紅茶だった。もちろん、サンドイッチやケーキもとても美味しかった。


 あの砂の彫刻は本当に見事な出来だったが、執事は人になっても砂と変わらないようにみえる。彼らにはコビトが付いていた。砂になっていた時にはコビトはいなかったのに。

 そして……砂の女王にはコビトはついていない。


「あの、この世界では人の世界と同じように暮らしているのですか?」

「まぁ、ホホ。人と変わりはございません。ただ、閉じられた国ですので草原しかございません。人で言いましたら、箱庭のようなものかもしれません」

「外の世界にいってみたいとは思わないのですか?」

「わたくしどもには使命がございますから」

「使命ですか?」

「来るべき時がきたら立ち上がり、共に戦えと」

「えーと、何と戦うのですか?」

「『来るべき災厄』です」

「……」

「…………」


「『来るべき災厄』、どのような災厄かはご存じですか?」


 駿の顔が強張っているように見える。ハクも自分が緊張しているのがわかった。

 女王は二人の雰囲気が変わったのに戸惑ったようだったが、


「詳しい内容は存じません。ただ、この世界がすべて無くなる可能性のある災厄だと」

「この世界とは」

「今、私たちが暮らしている閉じられた世界、地上を含めてこの世界のすべて、この惑星すべてが消滅するかもしれない危機だそうですわ」

「何と言う……」


 駿は『来るべき災厄』の事は知っていたはずなのにショックを受けた。これまでは未曾有の災害が来るかもしれないけれどまだ先の事と、実感がなかったのだ。


 ハクにもまだ危機感はない。それに宝玉の乙女に世界は救われるとの言い伝えもある。

 宝玉の乙女って桐ちゃんだよな、……でも、どうやって救うんだろう? とハクは考えてゾクリとした。

 世界が消滅するかもしれない『来るべき災厄』の危機、それに桐が立ち向かうのはいやだとハクは思った。駿も桐の事を考えているのだろうか。苦い顔をしている。


「あの、実は懐かしく嬉しい気持ちがするのですがあなた様は光の神さまの末裔ではございませんか?」

 女王がハクのほうを向いて聞いてきた。


「光の神さまですか?!」

「そういえば、ハク……」

 ハクと駿が目をあわせてなんと言おうかと考えていると


「ハクさま、光」

 蒼毛玉のアオルが実体化してポスンとハクの手の平の上にあらわれた。


「まぁ! 蒼い毛玉ですね。この目で見る事になるとは」

 女王が驚いたように言ぅた。


「この毛玉の事、ご存じなのですか?」

「ええ、『来るべき災厄』の前兆として毛玉たちがあらわれるときいております」


「毛玉たち……」

 ハクがつぶやくと


 白い毛玉にみえるユキと黒毛玉のクロロが実体化した。クロロは黒ヤギでも黒毛玉でもどちらでもなれる。


「白、蒼、黒……ですのね」

「ええ、その現れる毛玉たちというのは?」

「確か、7色だったと思うのですが」

「その毛玉がそろった時、災厄がおとずれるのでしょうか?」


 駿兄が真剣な顔で聞いた。


「いえ、たしか『7色毛玉がそろい、光が解放されたあと災厄の足音が聞こえる』だったと思います」

「古文書みたいなのがあるのですか?」

「ええ、ございます」

「精霊の国はご存じですか?」

「異世界にある喜びの国でございますね。喜びの国は幸せな国、いつの日か精霊となり喜びと共に暮らしたいという歌がございます」

「その、その古文書見せていただけますか」


 駿兄は感情を抑えて話をしている。


「ええ、かまいませんが……少しお待ちいただけますか」

 女王が部屋を出て行ったあと、駿は「ふー」とため息をついてソファーの背にもたれ掛った。


「駿兄、たしか精霊の国の『言い伝えの書』って」

「ああ、行方不明になったままだ」

「精霊の最長老のリヨンが保管場所、思い出したんだよね」

「そうだ。しかしそこにはなかった」

「いまだにさがしても見つからない……」

「ああ、『言い伝えの書』にはかなり重要な事が書いてあるかもしれないのに……ないんだ」

「ひょっとして」

「ああ、ここにあるのかもしれない」


 それは……


「精霊の国に連絡しなくちゃ」

「いや、待て。現物をみてからだ」

「そうだね。違っていたら困るしね」


 女王はなかなか帰ってこなかった。やっときたかと思うと手には何も持っていない。


「申し訳ございません。どうしても持ってくる事ができなかったのです。外にだすと元に戻ってしまって……」


 という事でハクたちはお城の宝物庫に案内された。地下の階段をおり重厚な扉に女王さまが手の平を押し当てると扉がギギーと開いた。

 宝物庫には金銀財宝が置いてあった。精霊国の宝物庫と少し似ている。


「へー、宝物庫なんてはじめて入った」

 感心したように言うので、精霊国では入った事がないのか聞いてみると駿は宝物庫の存在を知らなかった。


「今度、見せてもらおう」と言っているが、ハクたちはいつもこっそり入っていた。カミィが宝物庫に転がっている金貨を拾って、異世界の人間の国とか獣人の国とかで食べ物を買ったりしているのだ。


 ハクのポケットにもいつの間にか宝石とか金貨とか入っているから、着替える時に落ちてきてびっくりする。精霊国では通貨がなくて欲しい物はなんでも下さいといえばいいのだけど、他の大陸では対価がいる。なのであると便利ではあるが……。

 宝物庫の宝物って勝手に持ち出して良かったのかな? と今更ながらハクは少し心配になってきた。

 そんな事を考えている内に女王の歌うような声が聞こえてきた。


「我が光にこたえ、扉よ~開け」

 宝物庫の奥にある金の扉から重々しい男性の答える歌が聞こえてきた。

「光に答え、扉は開かれる」


 金の扉が開かれた。中には小さなテーブルとその上に一冊の本が置いてあった。

 女王さまは中に入り「どうぞこちらへ」と呼びかけてきた。駿は扉にそっと手を当ててみた。


「俺、なんだか入れないようだ」


 駿がつぶやいた。見えない結界が張ってあるようだ。

 女王さまに聞いてみると彼女以外の人は入った事がないという事だ。


「やっぱり……」

 駿はがっかりしたようにうなだれると


「壁があって俺は入れないみたいだから、ハク、見てきてくれ」

「人間はだめなのかなぁ」

「お前は半分精霊だからな、光もあるし……行ってくれ」

「あ、あの精霊でいらっしゃるのですか?」


 女王さまの問いかけにハクは「半分ですけど」といいながらそっと指先から扉の中に入ってみた。入れた。女王さまは色々と聞きたそうな顔をしていたけど


「詳しい話はあとでしますから」

 と言ってハクはその本を手に取った。すると本は光を放ち歌い始めた。


「この砂の国~むかしむかしの出来事だけど~」


 ……長い歌だった。砂の国の成り立ちや守るべきことや、この国が災厄に立ち向かう方法など具体的に歌で教えてくれたけど……『言い伝えの書』とは違うようだ。この国の為にある本だった。


 駿も疲れて宝箱の上に腰掛けていた。歌う声は聞こえたそうだ。

 しかし、内容的には知らない部分がかなりあったから役に立つと思われる。あわてて録音したが、怜が聞いたらもっとよくわかるだろう。


 もう夜だ。地上の国と時の流れは一緒だというし、女王さまの話を聞きたいので二人はそのまま砂の国に泊まる事にした。今日、泊まる予定のところは駿の知り合いだから、キャンセルの電話をいれた。この旅行は各地の知り合いのところを転々としている。


 明日は女王さまがこの砂の国を案内してくれるとの事。

 箱庭みたいな国ってどうなっているのだろうか。


次回「どうしよう」

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