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6.    霊峰の泉と桃太郎。2020/08/03

 お姉さんは立ち上がると首をぐるりとまわした。そして


「うん。うそみたいに楽になった。本当にありがとう。あなたはひょっとして有名な祓う人? それとも、いわゆる神さまとか視える人?」

 と聞いてきた。

 ハクが困って黙っていると、駿が近づいてきた。



「すみません。連れがなにか?」

 駿が穏やかでおちついた大人に見える。


「あなたはお付きの人ですか?」

「お付き、の人?」

 駿も突然お付きの人といわれて驚いている。


「わたし、この子に今、助けてもらいました。何か悪いものに憑かれていたみたいで、すごく具合が悪かったのに何かさわってもらっただけで、楽になって……」

「そうですか。今は何ともないんですね」

「えぇ、楽になりました」

「それは良かったです。では私たちはこれで」


 駿は穏やかな笑みを浮かべるとハクの手をひいて立ち去ろうとした。しかし、ハクのTシャツの端はそのお姉さんにしっかりと掴まれていた。


「お礼もしないままではいられません。家は近くですのでちょっとだけ寄ってください」

「わたくしども、今回は完全にプライベートの旅なので、騒がれたくはないのです」


 それじゃあ、僕が何かの教団の教祖だといっているみたいだよ、とハクは内心ため息をついた。


「せめて、お茶だけでも飲んでいってください。私の気がすみません」


 お姉さんは少し強引な人みたいだ。何だか周囲の人が立ち止まってこちらを見始めた。仕方なくハクたちはそのままお姉さんの家まで連れられて行った。

 お姉さんの家は大きくて古い家だった。由緒とか歴史を感じさせる。

「どうぞ」と広い玄関に通された。


「おかえりなさい」

 上品な着物姿の女性があらわれた。彼女のコビトは着もので、女性の肩の上に正座をしていた。


「ただいま。この方たちに助けてもらったの。お礼はいらないとおっしゃるけど、せめて、お茶だけでもと無理にお連れしたの」

「まぁ、それはありがとうございます。どうぞおあがりになって」


 さっさとお茶だけ飲んで帰ろうかなと思っていたのに、通されたのは茶室だった。

 静かな佇まいの茶室にときおり聞こえるシシオドシの音。茶釜にはお湯がしゅんしゅんと音をたてていた。お茶を建てようとしているところに訪ねてしまったのかもしれない。


「あの、良かったのでしょうか?」

 なんとなく聞いてみると、


「お茶のお稽古をしようとしていたので、お客様がいらしてかえって助かります」

 と言われてしまった。


 お茶の作法なんて知らないよ、というハクの心の声に答えたように


「作法などは気にせず、美味しくお茶をのんでいただければ良いのです」


 女の人がいうので勧められるまま茶室に座ったが、ハクが一番の上席に案内されてしまった。

 そっとおかれた和菓子は上品な甘さでとても美味しいものだった。

 抹茶が立てられている時、ファイがまずお茶碗をこう取って、と身振り手振りで作法を教えてくれた。ゆっくりと自信ありげにふるまうのだと言われて、いちいち説明されるからそのとおりにしたら褒められた。


 お茶の心得があるのですねといわれたのでハクは「少しだけ」と微笑んでみせた。

 横で駿が笑いをこらえている。駿も無難にお茶を飲みおわったようだ。さて、帰れるかなと思ったら車椅子にのったお婆さんがあらわれた。


「お母さま、大丈夫ですか」

「お祖母様」


 お姉さんと着物の女性がお婆さんに声をかける。車いすを押しているのは年配の男性だった。


「ようこそ、いらっしゃいました。足が悪いのでこのままで失礼します」

 お婆さんが上品に声をかけてきた。


「このたびは孫を助けて下さったそうでまことに有難うございます。ずっと様子がおかしくて心配しておりましたが、すっかり元気になったのをみて本当に嬉しく思います。少し、お話できませんでしょうか」


 お婆さんのお礼の言葉を受けてそのままハクたちはお婆さんの居室に案内された。なんだか断れなかったのだ。そこで改めてアイスコーヒーが出された。とても美味しいコーヒーだ。水が良いのだろうか・

 井戸の水を使っているのかな? とハクが思っているとそっと、お水の入ったコップが目の前に置かれた。


「どうぞ召し上がってください」といわれて飲んたが、本当においしい水だった。


「霊峰の泉から汲んだ水でございます」

 お婆さんの言葉になるほどと頷いたけれど


「1年に一度、8月しか汲むことができません。ですが、最近、泉の水精が助けてほしいと泣くのです」

「泣くのですか?」

「えぇ、夢の中で」

「そ、そうですか」

「お願いです。霊峰の泉をみていただけないでしょうか」

 い、いや、僕はただの半精霊だし……と、ハクは困ってしまった。


「見ていただくだけでかまいません。お願いします」


 ハクは駿を見た。駿も困ったような顔をしている。

 桐ちゃんがいればいいのに、とハクは思った。


「とりあえず、何もできないとは思いますが拝見だけさせていただきます。よろしいですか?」

 駿がお婆さんに向って言った。


「見せていただきます」

 仕方なくハクがそう言ったとたんに、お婆さんをはじめみんなの顔が明るくなった。


 霊峰の泉というのは、なんとその家の裏庭にあった。お婆さんの居間に縁側が設けられていて、その縁側のガラス戸をあけると奥の山につながる裏庭になっていた。坪庭みたいな感じだ。そこに岩をくり抜いた小さな泉があって、そこから水がほんの少しずつわき出ていた。

 そして、その泉の前には透き通ったゼリーみたいな河童がいた。


「駿兄、河童がいる」

 ハクが駿にささやくと


「そうか、俺には視えない」

 と言われた。ハクが河童に


「君が泉の水精?」

 と聞くと河童は驚いたようにハクを見つめ


「いや、ちがう。おいらが視えるのか?」

「視えるよ。霊峰の水精が助けてほしいと泣くそうだけど、何か知っている?」

「そうか、泣いているのか……俺は守り番だ。ここを見ているだけだが」

 河童が困ったように言った。


「霊峰の水精って呼び出せる?」

「むかしは時々泉からでてきていたのだが、最近は全然姿もみせないし心配しているんだ……呼びかけても答えない」


「力が無くなってきたんじゃないか?」

 ファイが言った。妖怪もだんだんと歳をとると衰えていくらしい。


「呼んでみたらいい」

 と言うので、


「霊峰の水精、聞こえていたら答えて?」

 と呼びかけてみた。


 すると微かに答える声がして、薄く今にも消えそうな小さな人魚が浮かんできた。すごく息苦しそうだ。

 人魚は駿をみるとその胸元を指してなにやら訴えてきた。駿の胸元にはカミィの作ったペンダントがあった。シャツの隙間から少し見えている。

 ひょっとして……と思い、ハクは魔法玉をひとつ、結界から取り出した。人魚は魔法玉を見てハクを拝んできた。魔法玉が欲しいようだ。


「駿兄、霊峰の水精は今にも消えそうになっている。魔法玉がほしいみたい」

 二人はしばらく見つめ合った。勝手に魔法玉をあげていいのだろうと思ったのだ。


「きーちゃんに電話する。少し待って」


 駿がそういうとケータイで電話をかけた。異世界にある精霊の国にも普通にケータイが通じるのはこういう時に助かる。ちなみに駿や大人たちは精霊女王である桔梗をきーちゃんと呼んでいる。

 駿の簡単な説明に精霊女王の許可がおりたようだ。


「いいってさ。魔法玉あげて」


 息たえだえに二人をみつめていた霊峰の人魚は、ハクがそっと魔法玉を差し出すと両手で恭しく受け取って、そのまま魔法玉をかじった。人魚には大きいと思われたけど、どんどんかじってあっと言う間に食べてしまった。

 すると人魚は光におおわれ一回り大きくなった。すっくと立ち上がった人魚は白く輝く衣装を着ていて、魚ではなく人間の足になっていた。


「ありがとうございます。このまま消えてしまうところを助けて下さり感謝します」

「もう、大丈夫なの?」

「はい。すっかり力が戻りました。泉の水もひと月が限度でしたがこれからはずっと流すことができます」

「君は泉の水精なの?」

「わかりません。ただ、ずっとむかしにこの泉の水を託されていただけです。あ、あの……」

「なあに?」

「なんだか、あなた様を見ていると懐かしく嬉しい気持ちになるのですが……」

「ありがとう。みんなそういうんだ。」


「あの」

 河童が声をかけてきた。


「何?」

「おいらも何だか見ていると嬉しい気持ちになるんだけど」

「そうか。ありがとう。君は守る人だったね。何か必要なものある? 食べるものとか……」

「泉の水で生きてきたから」

「そう。ずっとここにいて退屈ではない?」

「居間のテレビとか見られるし、話も聞こえてくるからそんなに退屈はしないかな?」


 泉の水は8月しか流れなかったが他の月は少しだけ浮かんできたので、河童はそれで生きてきたようです。

 水精の人魚は自分のつくった泉に浸ることで生きていける。ただ、最近は自分の中の力が尽きてきて苦しくて泣いていたそうだ。託された相手はぼんやりとして思い出せないが大切な人であるという。


「このまま、ここで泉を守ってくれる?」

「もちろんです」

「おいらも」


 人魚と河童は嬉しそうに返事をした。

 ハクはじっと息をひそめて見守っていた人たちをみた。泉の水はコンコンとわき出ている。そして湧き出た水はそのまま下の岩に吸い込まれていく。


「泉の水精は元気になりました」

「あ、ありがとうございます」

「ここには、視えないけれど守り人をしている河童もいます。時々、水精と河童に話しかけてあげてください」

「はい。お話させていただきます。でも会話はできないのですか」

「そうですね。人との会話は難しいと思います。でも、少し待ってください」


 ハクは彼らが意志を伝える事ができるように泉の岩に宝石を埋め込んでみた。これは異世界にいった時に手に入れたものだ。

 青い石がイエス、赤い石がノーとした。さわって光れと願うと光る。なんどか試してみても無事に光った。

 これからは、いつでも泉の水は尽きないという事と意志を伝える事ができると伝えた。


 お礼をしたいといわれたので連絡先を教え、何かあった時は助けてもらうという事にした。

 マップマークをつけさせてもらって、時々精霊と河童の様子を見にきたいというとすごく喜ばれた。部屋を用意するのでいつでも好きな時に来てほしいとの事だ。精霊と河童の今後も気になるし、時々温泉にいけるのは……いいかもしれない。


 怜はきっと水精と河童をみたいというだろう。


 さて、「霊峰の泉」のある道後温泉から瀬戸大橋のある坂出まで大型バイクで走る。駿は大型バイクの免許も持っていてバイクを借りる手配をしていた。

 駿は顔もいいし性格もいいけど、バイクやヨット、アウトドアが好きで男友達と楽しく遊び歩いているせいか……彼女がいない。時々できてもすぐに振られる。

 駿兄のアウトドアは楽々アウトなのでそんなに疲れないけど、女の人にはアウトばかりでなくインが必要だとハクは思う。


「むかしは……夏のバイクに乗るのは辛かったけどな。それでも、止められなかった……」

「バイク乗りは風に乗る。やみつきになっちまって……」

「乗ってみなけりゃわからない、この快感。おまけにスリルと隣り合わせ」

「でも、最近は快適さを追求するようになってきたな」


 懐かしそうに話す駿とお店の人によるとバイクの為に色々な工夫がされていったそうだ。ジャケットやズボン、ヘルメットの要所に温度調節のできるジェルが仕込んである。その上このヘルメットは見た目がとてもカッコいい。バイクのための装備をすべて着用すると、どこかのヒーローみたいだ。


 バイク本体はシートのところにジェルが入るようになっていて後ろには背もたれがあり、そこにもジェルが流れている。ひんやりしていい気持ちだ。ちなみに冬場は暖かいジェルに変える。


「じゃあ、行ってくる」

「ああ、気を付けて」


 いつの間にか、お店の人と駿は仲良くなったようだ。アドレスも交換していた。

 さて、出発。シートベルトでしっかりと体を固定して走り出す。

 お店の人たちが皆並んで送り出してくれた。お店のコビトたちも揃いのライダースーツで手を振っていた。


「すごく気持ちいい」

「だろう。バイクの良さはこの風との一体感だ」


 バイクで走るのは気持ちよく、バイク用の服も着てみると暑くなかった。


「夏のバイクもいいね」

 とハクが言うと


「そうだろう、走ってみないとこの良さはわからない」

 駿は嬉しそうだ。カミィたちが一緒だと車になっただろうから、これはこれで良かったのかもしれない。


 車で走るのと違い、バイクだと景色の中に直接飛び込んでいく感覚がある。後ろに乗っていてもワクワクするのに、運転しているとさらにバイクとの一体感があるみたいだ。

 四国の景色を楽しみながら瀬戸大橋が見えるところまで来た。坂出から対岸の岡山県まで橋を渡り橋から海を眺めながら瀬戸大橋を通る。

 すごく快適なツーリングだが、コビトのファイは駿の前に座って運転を楽しんだ。ユキ、クロロ、アオルもみんな駿の前にくっ付いてしまった。景色を楽しみたいそうだが、実体化していないせいで風の影響を受けにくいのだろうか?


「そりゃぁ、前のほうが景色いいし。こうスリルがあって楽しかったぞ。風も気持ちいいし」

「ファイ、飛ばされたりしない?」

「うーん。駿兄にくっ付いて前を見ていたからな~。大丈夫」

「キューン」

「メーエ」

「たのし、い」


 それぞれの毛玉たちが楽しかったという気持ちとともに話しかけてきた。幽霊コビトの時、彼らの声は人に聞こえない。


「俺は見えないし聞こえないけど、なんとなく気持ちは伝わってくる」

「気持ちがつながっているのかも」

「そうだな。でも、人には視えないというのは便利なこともあるな。お茶の作法はよくできていたし」

「ファイは物知りだから姿を消して色々おしえてくれるのは、いざという時には助かるね」

「カミィには言うなよ」

「あー、カミィ、カンニングしそう」

「そうなんだよ。あいつ、成績悪いからな」

「知ってる」


 ハク達は二人で顔をみあわせてため息をついた。今、彼らは岡山の喫茶店で休憩中だ。

 カミィはおバカで、勉強は自分に向いてないからといってすぐに遊んでしまうので成績は良くない。


「カミィ、小学生の時、社会の授業で将来の希望はニートです。桐ちゃんたちに養ってもらいたいと思いますって言ったんだよ」

「達ってだれだよ」

「桐ちゃんだけでなくて僕たちも入っているみたいな感じでさ。何かカミィがそう言ったら、クラスメートたちもカミィを養うとか食わせてやるとか言い出して。皆でカミィを食べさせてやろうって話になっていって」


「あぁ、カミィ、妙に人気があるからな。人が寄ってくる」

「そうなんだよ。それで、カミィをお飾りの社長にして会社を作ろうって話になって」

「ひょっとして」

「プロジェクト、進行中だよ」

「それでか」

「一応、ボスはカミィだけどさ。実質仲間を仕切っているのは怜と京ちゃんで、小学校の時のクラスメートを中心に仲間は増え続けているよ」


「なんか、お前らの仲間、組織だってきているなぁとは思ってた。カミィを食わせるためにか……」

「駿兄、全部知っているわけじゃないんだ?」

「まあな。子どもの話に大人がはいるわけにはいかないし。危ない部分は一応相談されてるから知っているけど」

「その危ない部分って何なの?」

「元々はカミィ、のせいかなぁ……」

「ケンカ買ってまわったから?」


「まぁ、大人とか大人になりかけの拗らせた連中とか、色々複雑に絡み合ったものがあるんだよ。カミィとか桐ちゃんは精霊だから人には物理的に傷つけられることはないし、あの二人、強いからな」

「怜もすごいよね」

「あぁ、あれはちょっとな。どうなってるんだか」

「怜と京ちゃんができすぎて園長先生、保育園の教育方針を変えたんだよね」

「賢すぎるのは、あの二人だけなんだけど」

「そうだよ。僕たちもいるのに……」

「おま、ハクも桐ちゃんも成績はいいじゃないか」

「僕たちは普通の賢さ。カミィはバカだけど……。でも、今の遊びが主体の保育園もいいと思うよ」

「そうだなぁ。まぁ、子どもは元気で跳ねまわっているのが一番だな」


 二人が色々話しているうちに、怜から「少し手間取っているが、順調なのでもうすぐ合流できそう」とのメールがきていた。今日はこのまま乙女小路家の親戚が住んでいた空き家に泊まる予定になっている。8月に入ってから利用した人がいるので、掃除は必要ないみたいだ。


 空き家にしておくと家が傷むので時々親戚が利用させてもらうのだ。

 バイクを返しにいって着替えてから夕食にでかけた。刺身定食を食べたが美味しく新鮮だった。デザートのフルーツが多いような気がするけどこれは岡山だからかもしれない。


「まだ明るいね」

「夏は日が長いからなぁ」

「8月って短く感じるよね」

「夏休みだからだろ」

「たのしい休みは短いよ」

「ほんとにな」


 駿となんという事もない会話をしながら歩いているとどこからか桃の匂いがしてきた。


「駿兄、桃の匂いがする」

「ん、そうか? しないぞ」

「え、なんだか強い匂いが……」


 ハクがその匂いの元をさがしてきょろきょろすると、道端にいる小さな女の子が目についた。その子はとても大きな桃を抱えている。


「駿兄、すごく大きい桃だ」

「へ、何いってんだ。何もないぞ」


「その子、妖怪かも」

 ファイが女の子を指さした。


「女の子に見えるけど」

「でも、妖怪かもしれん。話しかけてみたらいい」


 ファイがそういうのでハクは女の子に声をかけてみる事にした。女の子は桃を抱いたままじっとしている。


「こんばんは」

 女の子は驚いたようにこちらを見た。そして、目があった。


「大きな桃だね。君の名前はなあに?」


 女の子は目を見開くと僕の顔をみてニッコリと笑った。とても嬉しそうな顔だった。そして、桃をハクに差し出してきた。


「え、この桃、僕にくれるの?」

 女の子はうなずくと桃を持ち上げたままハクを見つめている。


 桃、重たそうだし、受け取っていいのだろうか、とハクが戸惑っていると


「ハクさま、受け取る、よい」

 アオルが話しかけてきた。毛玉のアオルはいつの間にかハクの側に浮いていた。


「えーと、じゃあもらうね」


 ハクがそっと大きな桃を受け取ると女の子はにっこり笑ってバイバイと手を振り、消えてしまった。

 どこに行ったのだろう? それにこの桃どうしよう、とハクが困っていると


「なんだ、その桃! でかいな」

「え、駿兄見えるの?」

「ああ、でかい桃だな。ハクが誰かと話しているのはわかったが、視えないし聞こえなかった。いきなりハクが桃を持ったようにみえたぞ」


 という事はこの桃、他の人にも見えるという事だ。ハクはあわてて結界に桃をしまった。


「駿兄、いそいで帰ろう」

「あぁ、そうだな」


 親戚の家についてから結界から桃を取り出した。ガラステーブルの上に置いた桃はとても大きく、ピーチボールぐらいの大きさはある。


「こんなでかい桃、はじめて見たぞ」

「そうだね。僕もはじめて見た」

「ひょっとして、桃太郎が出てくるのか?」

「そうかもしれない」


 ハクたちは顔を見合わせた。

 桃太郎……本当に赤ちゃんがでてきたらどうしたらいいのだろうか? なんてね。


「でも、ほれ、この桃うまそうだなあ。本物みたいだし。桃太郎なんて……そんなおとぎ話、あるわけない」

「じゃあ、皮、むいてみる? それとも真ん中から切ってみる?」

「よし、割ってみよう」


 駿が台所から包丁を持ってきた。そっと上から切れ目をいれて少しずつその切れ目を広げていくと……、桃がパカンと割れた。


「おぎゃー、おぎゃー」


 本当に赤ちゃんが生まれてしまった。桃から生まれたから桃?太郎だろうか。


「次回 桃太郎と桃の羽 」

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