5. 鐘つきと緊急事態。2020/08/03
今日もいい天気になった。
朝食が部屋に用意されたが、ご飯にお味噌汁、アジの干物に納豆、のりにきんぴら、切り干し大根の煮たもの等和風のおかずが並ぶ中、から揚げの積みあがったお皿が置いてあった。
「子供はから揚げが好きだからな。サービスだよ。たくさん食べな」
という駿の友人の言葉にカミィは大喜びだったけれど、朝から食べるには量が多いようだ。が、カミィはパクパクと食べている。すごい食欲だ。
今朝はコビトのファイと黒ヤギのクロロロ、そしてユキも実体化していっしょにご飯を食べている。ユキ達が実体化したのには皆、びっくりした。
今朝、ご飯が食べたいといいながらファイが実体化した。そしてお皿にご飯をわけてもらっていたら、クロロロが黒い毛玉から小さな黒ヤギに変わってご飯を欲しがった。「食べたい」という気持ちがハクに伝わってくる。
そうしたらユキもハクの前にストンと落ちてきて真っ白い毛玉キツネになった。そしてハクをみて「キューン」と鳴いた。
「コーンじゃないんだ。でも人間のご飯、食べて大丈夫?」
「子ヤギとか子ギツネの形をとっているけど、コビトだから実体化したら大丈夫と思う」
桐が首をかしげながら言うので
「ご飯食べたい?」
と聞いたら二匹とも肯いたのでお皿に取りわけたらクロロロは直接お皿から、ユキは小さな手に食べ物を持ってモグモグと食べはじめた。ファイが言うには食べる必要はないけれど、時々食べてみたいと思った時に食べるのだとか。毛玉たちも食べてみたいと思ったのかもしれない。
朝ごはんの後、駿の友人に別れをつげて鍾乳洞に向かった。実は、地元の人しか知らないがこの鍾乳洞からは不思議な事に朝6時と夕方6時に鐘の音が聞こえてくるそうだ。
「どこかのお寺の鐘の音が反響して伝わってくるんじゃないかと誰かが言っていたな」
駿の友人はそう言いながら
「物の怪のなせるわざという話もある」
と真面目な顔をして京華のほうを見た。
「入口だけにして奥にはいかないようにしろよ。特に女の子は! 気を付けて」
強く言ってくるのは、視える人である京華を心配していたのだろう。旅館を出る時、駿の友人は踊るコビトと共にずっと手を振りながら見送ってくれた。
鍾乳洞には申し訳程度の柵がしてあって、入口に『ロープで仕切っているところより先には入らないでください。。行方不明のままの人もいます。命は大切にしましょう』と看板が立ててあった。
「京ちゃんの予定もあるんだから、余計な事はするなよ」
駿の心配も無理はないが、カミィと桐の目がキラキラしている。この二人は結局、似た者同士なのだ。
「よーし、いくぞ」
張り切ったカミィに続いて桐がさっさと入っていく。あわてて駿が続いたので、ハクはレディファーストで京華に先を譲る。その後、怜がお先にどうぞというので続いて入った。
中は涼しくひんやりとしていた。ここの鍾乳洞は観光地化されていないので、ライトアップもなければあちこちに立て看板もなくて自然のままだ。でも、すぐにロープに仕切られた所まできてしまった。短い。その上、これ以上入れないように鉄格子がついていた。
「なんだか牢屋みたい」
「昔、ほんとに牢屋として使っていたこともあるらしいよ」
前に聞いたことがあるような気がする、と駿が言った。
「とにかく、鍾乳洞はここまでだから帰ろうか」
「えー、もう?」
「短すぎてつまらない」
「この格子の間からちょっとだけ奥にいってみようよ」
カミィの言葉に駿が
「大盛りフルーツパフェ」
と一言。
「じゃ、帰ろうか」
即、反応したカミィに皆があきれた顔をしている。まったく食い気のカミィ……。
「待って。なにか聞こえる……」
桐が囁いた。みんなが静かに耳をすますと、「カーン」という小さな鐘の音が聞こえてきた。
「鐘が聞こえるのは朝と夕方じゃなかったの?」
京華が疑問に
「その時の鐘の音はかなり大きいみたいだからこの鐘の音とは違うんじゃないか」
駿が難しい顔をしている。困ったことになりそうだと思っているのかもしない。
「駿兄……」
「駿兄」
「…………」
「……仕方ないな。みんなで行ってみるか」
「よし」
カミィがガッツポーズをした。小さくなって天馬に乗り、そのまま鉄格子の間をくぐって鍾乳洞の奥まで進む。今回、駿はハクの後ろに乗っている。
鍾乳洞の中は幻想的な景色がひろがっていた。先頭はカミィで天馬の前に光の塊をだして辺りをあかるく照らしながら進んで行く。
いくつか枝分かれした道もあったが桐があっち、こっちと道案内をした。その言葉どおりに飛んでいくと開けたところに大きな地底湖が見えた。その湖の先に小さな扉が見えたが、木でできたボロボロの扉はいまにも崩れ落ちそうだ。
「あの扉の向こう」
「よし、行こう」
駿が珍しく積極的だ。そのまま天馬で地底湖を渡り、元の大きさに戻ってから扉を開ける。
カミィが扉をあけるとそこには丸い部屋があり、大きな鐘を中心に小さな鐘がまわりを囲む形で吊るされていた。鐘の部屋だろうか。そして小さな鐘をつこうとしていた蒼い毛玉が驚いたようにこちらを向く。
カミィが立ち止まり、ハクと駿がカミィを軽く押すようにして入ってきた。
「また、毛玉」
「今度は青、いや、蒼」
駿とハクが蒼い毛玉を見つめると
「鐘がいっぱいだ……」
カミィがおもしろそうに部屋を見渡していた。
「鐘つき?」
後からはいってきた怜が呟いた。
蒼い毛玉は鐘をつこうとしていた恰好でじっとしている。丸い毛玉から小さな手足が生えていた。手足の色も同じ蒼色だ。ゆっくりと入ってきた皆を見て、ハクのところで視線をとめた。宙に浮かんだままじっとハクを見ている。
「ハク」
「ハク、ほら」
桐とカミィに促されて固まっていたハクも息を吸い込み
「おいで」
と声をかけてみた。
「ハ、ハク? さま」
蒼い毛玉は声をだした。そしてオドオドとハクの側によってきて彼を見上げた。
会えて嬉しいという気持ちが純粋に伝わってくる。ハクが手を差し伸べると手足を引っ込めてソーッと上に乗ってきた。なんだかとても遠慮深い毛玉だ。ハクの頭の上の毛玉たちは喜んで飛び跳ねている。
「えーと、君の名前は?」
「名まえ? 名まえ……ない」
「そうか。どうして、ここにいるの?」
「鐘つき、お役目」
「お役目なの?」
「大きな鐘、2回。小さな鐘1回、時間、数えるのがお役目」
「誰に頼まれたの?」
「誰に? 主さま?」
「それは、もう時が経ちすぎて記憶がわからなくなってしまっているのではないか」
ファイが気の毒そうに言った。
「ずっと一人なの?」
「だれも来ない。ひとり、寂しい」
蒼い毛玉が僕の手の上で呟いた。ハクが桐を見ますと
「コビト……みたいね」
「取り残されたコビトたちか……各地に残されているのかな」
「置かれた環境によって違っているのかもしれないわ」
京華の言葉にコビトのファイが
「我は恵まれていたのか」と言った。
その部屋を調べてみると奥に小さな扉があり、そこに鐘の絵が描いた小箱が置いてあった。
蒼い毛玉が「ここ、家」というのでそっと開けてみるとその中にはまたも緑の草原が拡がっていた。草原の隅には小さな家と水場と畑がある。
「陰陽師の別荘があちこちにあるってこと?」
「ずっと、来ていないのよね」
「あの古文書も古かったし、人ならそんなに長生きできない」
「ファイ、陰陽師だった主さまの名前はわからないんだよな?」
「主さまとしか呼んでいなかったし、あのころはなんだかボーッとしていたんだ。言われた事はできるけど、呼び出される以外の時はずっと寝ていたな」
「そういえば、古文書に鐘つきもよろしくと書いてあった」
怜が言うので、鐘つきの蒼毛玉にどうしたいか聞いてみると、蒼毛玉は
「ハクさま、いっしょ、居たい」
とハクを見つめてくるので一緒にくることになった。
「ハク、名前は?」
「はやく~」
みんなが期待している。ハクは名前はわかりやすいのが一番だと思っている。
「アオル」
どっと笑い声が起こった。
「やっぱり~」とか「アオだと思った」とか色々言っている。
「次は何色かな~」という声も聞こえてきた。
気に入っているみたいだからいいんだよとハクは口をとがらせた。
これで、白、黒、蒼と3色の毛玉がハクの元にきた。ファイは炎を背負っているが、帽子は赤と言うか紅色だし、服装は赤を基本にしている。ファッションを楽しむようになったが、赤や紅に金、銀を混ぜた配色が好みのようだ。勾玉は2つだが、毛玉よりもかなり小さく黄色と黒のヒヨコになる。
つまり、赤、黄色、白、黒、蒼とファイ曰く怪異の色とりどりの妖怪? が集まったことになる。
「妖怪大作戦だな」
カミィが毛玉たちを見ながら言った。
「妖怪って感じじゃないけど」
「でも、コビトとも、ちょっと違うよ」
「桐ちゃん、コビトなのは間違いないのか?」
駿が確認してきた。
「ええ、コビトだと思うんだけど……正確にはコビトの仲間、かなぁ」
「コビトって何?」
「それが……わからないの。 でも、この子たちがコビトに似ている、とはわかるというか、知っているというか」
桐は困惑した顔をしている。
「でも、この毛玉たち、桐ちゃんじゃなくてハクに懐いているよ」
「ハク様っていっているし」
「ああ、確かにハク様と呼びたいし、そばにいたい」
ファイが肯いた。ファイは桐の事も桐さまと呼んでいるが他の人には様は付けない。
「人と離れるとコビトの形態がかわってくる?」
「それにしても、変わりすぎだ」
「でも、コビト?なんだよな」
「ファイが毛玉たちのリーダー? になるのかな」
「ファイは毛玉じゃないけど」
「ファイはコビトの進化系だろ」
ワイワイと話はつきないが、いつまでも此処にいても仕方ないので移動することにした。
鐘の絵が描かれた小箱はそのままそこに置いて、鐘つきの部屋は封印した。そして、その部屋から朝、夕の鐘の音は魔法で聞こえるようにした。いつも聞こえていた鐘の音が急に途絶えると不安に思う人もいるかもしれないから……。
その後、いっしょにお昼を済ましてから新幹線の乗り場まで行って京華を見送った。もうお盆に入っていたせいか、駅には沢山の人がいた。コビトの服装も旅装が多く、浴衣や作務衣をきているのも見かけた。
京華の乗った新幹線が駅を出ていった。すぐに会えるのに居ないと何だか寂しい、と皆は思ったのだった。
京華を見送った後、柳井港まで電車を乗り継いでいった。防予汽船に乗って四国愛媛の三津浜港までフェリーに乗る。約2時間半の船旅だ。船が大好きなカミィは見晴らしのよいデッキからずっと海を見ている。イルカの群れが船の後をついてきた。
三津浜港についてから道後温泉まで移動したらもう夕方だったが、夏だからまだまだ明るい。この道後温泉のはずれに寛ちゃん先生の友達が別荘を持っていてそこに泊まる事になっている。
「こんにちは」
「お疲れになったでしょう」
別荘を管理しているのは人の良さそうな老年の夫婦だった。彼らのコビトはお揃いのエプロンをしていた。穏やかな雰囲気のコビトたちだ。
さて、食糧も冷蔵庫に入っているので今夜はカレーの予定だ。辛口カレーとたっぷりの野菜サラダという夕食をとった後にカミィのケータイが鳴った。
「ほーい」
とぼけた声でカミィが電話に出たが
「なに! えっ?!」
と言うとケータイを操作しながら怜と桐のほうを見た。すると怜と桐がケータイを4者通話にきり替える。
今のケータイは進化していて腕時計型になっている。ペンダントにしている人もいるが、左右上下に折り畳みができてとても軽い。
通話は耳につけたピアスで、話す時はそこからちょっとだけ送話器を伸ばす。畳んだままでも話せるし、音声でかかって来た電話を文字で見る事もできるからとても便利だ。
携帯がケータイに進化し、スマホはスマカに進化した。
スマカというのはカバンとスマホとPCが一体化したものだ。大きさも様々でボタン一つで材質が変化するからPCを使いたいときにはどこでも作業ができる。
「それはいつからの話? どうしてそうなった?」
怜が低い声で淡々と話している。なにやら地元でトラブルがあったようだ。
桐が
「本当に……」
と言って
「あ! あっ。すぐに行くってんだろ!」
とカミィが凄んでいる。
ぼそぼそと3人で話をしてから怜が駿のほうを向いた。
「駿兄、トラブル発生。ちょっと帰ってくる」
駿はため息をつくと
「どれくらいかかる?」
と聞いた。
「2~3日でけりをつけるつもりだけど」
「大人も関わってんのか?」
「まあね。透がやってくれたみたいだ」
「仕方ないな。無茶しないようにしろよ」
「わかってる」
「桐ちゃんも女の子なんだから、きちんと変装をしていくように。カミィ、気をつけろよ」
「うん。ハク、という事で悪いけど駿兄を頼むね」
ハクは桐に言われたが、
という事ってどういう事だよ。危ない連中と何かがあったのかな? と内心ため息をついた。
「今すぐ?」
「ああ、飯、食い終わっててよかったぜ」
カミィ、なんだかトラブルのわりには嬉しそうだ。
3人はすぐにテレポートで地元に帰ってしまった。残されたのはハクと駿。別荘の居間がガラーンとして夏なのに寒く感じる。
「ねえ、駿兄」
「ん、何だ?」
「どうして、こういう時、僕は外されるのかな?」
「そりゃあ、ハクは一応よそのお子さんだからな」
「よその……」
「一応あの3人は兄弟だし、苗字は乙女小路だ。ハクを危ない目にはあわせられないだろう」
「そうか……」
小さい頃からいっしょだけど、僕たちはただの幼馴染、なんだなあ……ハクは寂しい気持ちになった。
「でも俺らにとって、ハクはもはや欠かせない日常、だ」
ハクは両親よりも乙女小路家といっしょにいる時間のほうが長い。両親はほとんど海外だから……。
「とりあえず、俺は人間だからな。なにかあったら頼む。マナを魔法玉に換えるのはできるんだろう?」
「うん。桐ちゃんたちと違って時間はかかるけど。探すのもちょっと手間取るかも」
「それはしょうがない。いつもあいつらがさっさとやってしまうから」
「そうだね、僕がんばるよ。それに駿兄のことも守るよ。桐ちゃんに頼まれたし」
「そ、そうか。なら頼む」
駿はちょっと微妙な顔をしたが、
「よーし、ならあいつらの居ない間にメロン、食べようか」
と大きな声で言った。
ハクたちはユキやクロロ、アオル、コビトのファイと一緒に仲良くメロンを食べた。アオルもはじめは戸惑っていたけど、食べると美味しかったみたいで「メロン、すき」と何度も言っていた。
駿のかけた音楽にあわせて毛玉たちが踊り、駿のコビトも楽しそうに踊っている。明るい映画音楽をかけると気にいったようで、それにあわせて毛玉たちの踊りが揃った。
ファイに聞いてみると、コビトたちは誰か一人にあわせて踊っているような気がすると言った。お揃いで踊っているように見えたけど、踊りのリーダーに合わせていたのだ。コビトの踊りの謎が解けたかもしれない。
「さぁて、寝るか」
駿の言葉でハクたちは和室に布団をひいていっしょに寝た。二人の布団の間には座布団をおいてファイとユキとクロロ、アオルがいっしょに寝ている。気を使ってくれたのか、みんな実体化している。大勢いたほうが寂しくないからいいなとハクは思った。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみ」
明日も晴れるだろうか。
今日もいい天気。
朝食はパンと目玉焼きに簡単な野菜サラダと即席のコーンポタージュだった。表面がパリパリとして中は柔らかい美味しいパンだ。管理人さんが地元の焼きたてパンをドアノブにかけてくれていた。親切だ。
一応人数分の食事をつくってパンもいっしょにハクの結界に入れておいた。いざという時に使えるかもしれないし、カミィがウルサイかもしれないから。
いつも桐とカミィがさっさと結界に入れてしまうから、ハクが結界を使う事はあまりないけど、中にはサバイバル用品とある程度の食糧は用意している。
ハクは昔、人間だったころにカミィのせいで困った事があるので、半精霊になって結界が使えるようになったのが一番嬉しかった。これでとりあえず、飢える事はないぞ……なんて思っている。
さて、ハクは別荘の外にでて気を巡らせてみた。古武術で習った呼吸法や気の使いかたを自分なりにアレンジしてみた。静かに耳をすますと、あった。マナの溜まっている方向がわかる。
「駿兄、あった」
「よし、いくか」
人は来ないよね、という所に古びた神社があり、そこから少し離れたところにマナの溜まった所を見つけた。
マナを魔法玉にと願うと少しずつ小さな玉になり魔法玉になった。
桐に比べるとすごく時間がかかる。できた魔法玉を結界にしまうとハクは疲れて座り込んでしまった。
「お疲れ。大丈夫か?」
「うん。結構疲れた。やっぱり、桐ちゃんはすごいよね。こんなに精神力を使うと思わなかったよ」
「慣れもあるんじゃないか?」
「そうかもしれない。今度から少しやらせてもらうかなぁ」
「そうしろよ。今回みたいにハクに頼る事もあるだろうし」
「うん」
頼られるようにならなくちゃ。よし、がんばろうとハクは思った。
その後、ハクと駿は神社にお参りをしてから道後温泉巡りをした。コビトたちはみんな姿を消していたけれど温泉につかってキャイキャイしている。楽しくてたまらないという気持ちが伝わってきてハクも嬉しくなってきた。
温泉でお爺さんがマナをまとっていたので、背中をながしてあげながら回収した。お爺さんは喜んでフルーツ牛乳を御馳走してくれた。
コビトもどこか懐かしい演歌を踊っている。知らない曲だし聞こえないのだけど、音が見える。
フルーツ牛乳はとても美味しい飲み物だった。駿が温泉効果もあるんじゃないかといっていたけど、それにしても美味しくてハクはすっかり気にいってしまった。
「ゴミ、ついていますよ」
高校生くらいのお姉さんの頭にコビトが刺さっていた。
彼女はベンチに座ってうなだれていたので、そっと近寄ってコビトを両手でもってエイヤッと抜いてみた。スポンという感じであっさり抜けた。内心抜けなかったらどうしようと思っていたのだが。
「えっ、え、ありがとう」
お姉さんは元気なくこちらを向いたあと、僕から糸くずをうけとって「なんでこんなものが……」とつぶやいた。それからハッとしたようにハクをみると
「君、何かしたでしょう」
強い口調で聞いてきた。
どうしよう。僕、子どもに見えるはずだし、子どもだし。どうしよう。逃げようかなとハクが考えていると
「急に楽になったの。さっきまで死にそうだったのに……。何か悪いものとか憑いていて、それを祓ってくれたんじゃない?」
お姉さんはすごく真剣な目でハクを見つめてきた。
確かにコビトは抜いたけど、なんと言えばいいのかなとハクが悩んでいると
お姉さんのコビトはそんなことはお構いなしに喜んでぺこぺこお辞儀をした後、周囲をまきこんで踊りはじめた。
これって盆踊りだ。お盆だからかもしれない。
次回「霊峰の泉と桃太郎」