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3.    虹色毛玉と毛玉たち。2020/08/08

今日はいい天気だ。

 ハクがなんとなく風に流れる雲を見ながら歩いていると、ケータイのメロディが耳元で響いた。


「はい」

「大変、ハク早く来て」


 桐が焦っている。


「どうしたの?」

「庭に!」

「庭に?」

「庭の木が変なの。実がなったの、だけど歌ってるの」

「木が歌っているの?」

「ううん。実? たくさん実がなって、それが歌っているの」

「えーと、何か良くわからないけど、とにかく行くよ」


 そう言いながらハクはテレポートで桐の側に行った。すると、乙女小路家の坪庭に植えてある木、その木に小さな虹色の実が沢山生っていた。昔、桔梗が子供の頃に拾ってきた木の実を植えたものだ。

 虹色の実から歌声が聞こえてくる。沢山の実が歌っているからまるで合唱のように、きれいなメロディが流れてくる。


「歌う木の実?」

「突然、歌声が聞こえてきたの」

「この木、前からあった?」

「あったわ。何の木だかわからなくて」


「食べられるのかな?」

 カミィがじっと木の実を見つめている。


「食べたらかわいそうよ」

「かじったら泣くかもしれない」

「うーん、でもきっと珍味?」


 カミィが悩ましい顔をした。皆が見ているうちに、やがて、一つの実がはじけそこから虹色の綿毛が飛び出した。


「うわー、虹色だ」

「ハク、これって」

「虹色の毛玉……、でも多いな」

 小さな虹色の毛玉は次々にはじけた実から飛び出してきた。そして木のまわりをフヨフヨと浮かんでいる。


「キャハハ」

「ウフフ」

「アハハ」

「ホッホッ」

「ケララ」

「ハッハッハ」


 色々な笑い声が響いてくる。楽しくて、楽しくてたまらないようだ。


「うわー、すごいな。何だか、とても楽しそうだ」

「虹色の毛玉ってこんなにたくさん、だったのね」

「でも、これ、ホラーだよ」


 ハクと桐が顔を見合わせているうちに、小さな虹色毛玉たちは全て、実からでてきた。そして、楽しそうに笑いながら一つにまとまり、大変大きな虹色毛玉になった。フワフワなので触り心地がよさそうだし、あの中にとびこんだら気持ちよさそうにみえる。


 ボスン!

「ウワーッ、気持ちいい」


 思い立ったらすぐ実行のカミィがすぐに飛び込んでしまった。虹色の毛玉の中に埋もれている。


「これ、フワン、フワン、なんだよ」

「カミィ……」

「もう、カミィ、もう少し、考えて行動して」

「えーぇ、だって」


 突然、虹色の毛玉がフワーと膨らみカミィをやんわりと押し出した。


「ほら、嫌がられてる」

「出ていってくれって」

「おお、なんだか」


 虹色の毛玉が光に覆われると、その光の中から白いタキシードを着た少年が現れた。


「ここはどこでしょう?」


 少年は中学生くらいに見えるが、落ち着きのある小さな紳士だった。彼はハクと桐を見て、そしてカミィを見て驚きに目を見張った。


「どういう、ことだ……?」

 白いタキシードを着ているが、その白い生地には時々虹のひかりが走っている。少年紳士が悩ましい顔をしてハクたちを見る度に虹の稲妻が走るのだ。


「何か、困ってる? どうかした?」

 カミィが能天気な声でたずねた。


「君は、神さま? いや、天界の? 天使? でもないし」

 カミィを見ながら少年紳士は首をひねっている。


「俺はカミィだよ。こっちはハクと桐」


「一文字龍です。光の勇者らしいです」

「乙女小路桐です。宝玉の乙女で、命の神の幼体になるみたいです」


 カミィの声にハクと桐は虹の少年紳士に挨拶をしてみた。


「光の勇者と命の神! ですか。では、次代に、いや、まだこの世界は……。でも、命の祠が神になるという事はもう、……ああ、もう、どうなっているのだ。光の神さまはどちらにおられるのですか?」


 少年紳士はとてもあせった顔をしている。ハクと桐は顔を見合わせた。


「光の神さまは寝ています」

 桐が言うと


「えっ?」

「光の神さまはこの世界を維持するのが精いっぱいで、ずっと眠りについた状態になっているのです。あなたは、虹色の毛玉でしたけど、誰ですか? 毛玉とは何なのですか?」

 ハクが聞くと


「私は天使族の長で、シュテアネと申します」

 少年紳士はハクと桐、ふたりのほうを向くと丁寧におじぎをしてきた。


「とりあえず、家の中でお茶にしたら?」


 駿が声をかけてきたので、そのまま家にあがってもらった。

 この虹色毛玉は理性があり毛玉の姿だけではなく、人の姿になれる。これまでの毛玉たちとは随分違っていた。

 それにしても、乙女小路家の庭の木から現れるなんて、まさに灯台下暗しである。


 これまでの事を簡単に説明すると虹色の毛玉から出てきたシュテアネはため息をついて首を振った。

 彼は『彼方の世界』が崩壊する事件があった時、ちょうど命の祠に入っていた。そのまま今に至るまで記憶がなく、気がつくと虹色の毛玉になっていたという事だった。


「私たち天使族にとっては、毛玉というのは幼い子なのです。ですので、なぜ、私が虹色の毛玉になっていたのかが、不思議だったのですが……」 


 大人になった天使は毛玉にはなれないし、命の祠から出ると若返るが毛玉にまで戻る事はない。それにこれほど大きな毛玉になる事はないそうだ。


「不思議なことに」


 そういうと、シュテアネは虹色の毛玉になった。フワフワと大きく柔らかそうな虹色の毛玉だ。


「今は思いのままに」

 そう言いながら、シュテアネは小さな虹色の毛玉に分裂した。


「変身する事が出来まして、大小も自由自在。まるで、別種の種族になったみたいです」


 シュテアネはまた大きな毛玉になると、ポンッと少年紳士に変身した。彼方の世界では、天使は木の実から毛玉で生まれ、ある程度大きくなると人型にかわるそうだ。


「それにしても」

 と言いながら、シュテアネはハクの頭に乗っている白い毛玉のユキを見た。


「これは、ユキリのようですが、どうして毛玉というより、子狐になっているのでしょう? それに……なんだかひどく幼いですし、他の? 何か、違う気配がするのですが? 」


 ユキはハクの頭の上で飛び跳ねていましたが、他の毛玉たちは、辺りをフヨフヨと浮かびながら虹色の毛玉の歌にあわせて楽しそうに踊っていた。ハクが真面目な話をしている時は最初、神妙に聞いていたが、すぐに飽きてあちこち飛びまわり始めた。


「違う気配って、ひょっとしてコビト、でしょうか」

「コビト、ですか? 彼についているような」


 そう言いながらシュテアネは駿をみた。駿の上ではコビトが首を傾げてシュテアネを見ていた。ハクの上には火のコビトのファイもいる。


「そうです。この世界の人には必ずコビトが付いているんです。それと、ファイも一応コビトだよね」

「我はコビトだが、妖怪でもある」


 コビトのファイは胸をはった。今のファイは実体化しているが、人についているコビトは普通、見えない。シュテアネは人に付いているコビトがみえるようだ。


「ええ、シュテアネさんは、コビトではないですが、他の毛玉たちはコビト、に見え……」

 桐がそう言いかけますと怜が


「桐ちゃん、毛玉はコビトだと言っていたね」

 と聞いてきた。


「ええ。似ていると思ったんだけど……」

「この虹の毛玉、シュテアネさんはコビトではない?」

「ええ、違うわ」


「シュテアネさん、この毛玉たちは何でしょうか?」

 怜がシュテアネに聞いた。


「彼ら、この毛玉たちは天使族の七戦士です。天使族の各氏族の代表、ですね。その総まとめが私です。彼らはとても優秀な戦士たちでした」

「戦士? 大人の?」

「戦う……?」

「神さまたちって戦う事はなかったのでは」

「神々は戦いません。しかし、『彼方の世界』では神と人は近い存在でしたから、どうしても色々な事が起こり、それに悪魔が加わって揉め事がおこるものですから、それを収める必要が出てくるのです」

「つまり?」

「天使たちは『彼方の世界』の治安維持を担っていました」


「警察みたいなもの、かな?」


 駿の言葉にイトリが


「むしろ軍隊じゃない? 武力での抗争もあったんじゃないかな」

「そのとおりです」

 シュテアネが肯くと


「戦う天使たちか」

「どうやって?」

「武器を持ってなの?」

「羽が生えてるから、空を飛んで上から攻撃とか?」


 各々の疑問に答えてシュテアネは黒毛玉を両手で捕まえると、


「黒は闇を扱います。白は変化を、蒼は時、黄色は光、水色は流体、緑は植物、そして虹は歌です」


「……えーと? つまり、歌で戦える?」

 カミィがかわいらしく首をコテッとかしげた。


「歌う事で状態異常を引き起こします」

「どちらかというと、後方支援みたいな感じ?」

「そうともいえます……」


 シュテアネは毛玉たちをぐるりと見渡すと立ち上がり


「集合! 」


 と声をあげた。リーンという鈴の音がどこからともなく響いてきた。すぐに、毛玉たちがシュテアネの前に一列に並び


「「「1,2,3,4」」」

 と声を続けた。白い毛玉のユキ、黒い毛玉のクロロ、蒼い毛玉のアオル、黄色い毛玉のキロ。


「あと、2人いたはずですが……」

「あー、ミトとウーは弟と妹に付いていて」

「下のお子様ですか? その方たちは人でしょうか?」

「完全に人ですね」

「ごく、普通の子たちです」

「そうですか。 天使が人に付く場合は何かしら惹かれるものがある、事が多いのですが」

「あれじゃない?」

「?」


「おやつ」

 イトリがそういうと


「あー、確かに緑と水色は子供のお菓子が大好きだ」

「カミィだって好きじゃんか」

「あの、細々したのがいいんだよ」

「まあ、確かに、たまに食べだすと嵌る」


 そこで、シュテアネがゴホンと咳払いをした。


「私は大変永い間、眠っていたようです。そして、私の目覚めが災厄の始まりとなるというのは……」


「気にしなくていいって」

 カミィが能天気な声で言った。


「シュテ、寝てただけだし」

「カミィったら」

「まぁ、単に目覚めと災厄が来る時期が重なる、というだけだから」

「偶然ですよ」


 急いで、桐とハクが付け加えた。


「だけど、ちょうどいいから色々動いてもらおうぜ」

 カミィがまた、明るく言ってきた。


「他の毛玉たちは、……毛玉だし」

 イトリが腕を組みながらフラフラと漂っている毛玉を見渡した。


「そう、どうして、こんなに違うのかしら? かわいいけど」

「癒される……けどな」


 毛玉は実体化してフヨフヨしているので、駿はそれを嬉しそうに眺めていた。そして、蒼い毛玉のアオルは駿兄の手の中にコロコロと転がっていった。


「それはそれとして、」

 シュテアネが話をさえぎった。


「その羽の生えた妖精? はどなたですか?」

「やっぱり、妖精にみえるんだ」

「どこからどう見ても妖精だろう」

「イトリ、大きくなったら?」

「そうだね」


 そう言いながらイトリが大きくなり、シュテアネと同じくらいの少年になった。イトリは大人になったり、ハク達の時間にあわせた少年になったり、羽付きの小さな子供になったりできるのだ。


「驚きました。彼は……新人類?」

「ふふっ、確かに新人類といえるかもしれないわ」

「新人類、それはいいかも。光の国から来た元、人の影。今ではなんだかよくわからない存在のイトリです」

「そうですね。確かにこれまでの普通の人とは魂のあり方が違います。エネルギー? の集合体のようにも見えます」

「イトリは光の国で、『目覚めた人』なの」

「目覚めた人?」

「光の神さまの創った国、『光の国』というのはこの世界の魂の一部をとって影の世界を創ったんですけど、その世界の影の中から別の意識をもって動く人が現れたの」

「光の国ですか?」


 シュテアネに光の国の説明をしたら


「それは、以前『彼方の国』ではやっていたゲームを世界にしたみたいですね」

「あっ、やっぱり」

「なんだか、ゲームみたいだなとおもっていたんだ」


「『彼方の世界』でもゲームがあったのですか?」

 怜の質問にシュテアネは


「『彼方の世界』は 見た限り多分この世界と似ています。ただ、『彼方の世界』は神々が身近にいる世界でした。神々は時折、地上に降りていたのです」

「それは、奇跡が良く起こるとか、神の加護があるとか」

「基本的に人に関わる事はあまり良くない事とされていました。が、どうしても全てを見るわけにはいきませんでしたから」


 シュテアネは少し苦い顔をした。多分色々な事があったのだろう。天使は人々が平穏に暮せるように気を配る役割があった。

 そうこう話をしているうちに夕暮れ時となり、乙女小路家の年少組が帰ってきた。緑毛玉のミトは弟の空に、水色毛玉のラーは妹の鈴にくっ付いていた。それぞれのコビトと仲良く手をつないでいる。


 ミトとラーはシュテアネを見て戸惑っていたが、恐る恐ると言う感じで近寄ってくると、まわりをグルグルと回りはじめた。それから、シュテアネに体を摺り寄せてスリスリとし始めた。他の毛玉たちも同じように寄ってきて体を摺り寄せはじめた。


「この二人も何か、違っていますね。光の神さまは何か言っていませんでしたか?」

 毛玉を体にまとわりつかせながら、ハクにシュテアネが尋ねてきた。


「虹色の毛玉が現れたらわかると……」

「なるほど、丸投げですか。何か、隠していますね」

「隠して、ですか?」

「多分、言いづらい事か、後ろ暗い事があるのではないでしょうか」

「……」

「昔から、都合の悪い事からは目をそらす癖がございましたから」

「……」

「何か、思い当たる事があるようですね」

「まぁ、そういえば」


 どうやら、光の神さまには何やら隠し事があるようだ。天使長であるシュテアネと光の神さまとの付き合いは大変長く、色々な事があったらしい。

 こちらの世界の事を知り状況を確認した上で、明日にでも光の神さまのところへ行く事になった。シュテアネの口の端が時折、ピクピクとしているので明日の面談? が少し心配だなとハクは思った。


 ともあれ、とうとう虹色の毛玉があらわれて7色毛玉が揃ってしまった。

『来るべき災厄』はどこまできているのだろうか。



 ――翌日は土曜日だった。


 昨夜は虹の毛玉であるシュテアネと遅くまで話をしていたせいで、皆は朝から眠そうな顔をしていた。

 シュテアネは乙女小路家の朝食、ご飯に味噌汁、焼き鮭、海苔にだし巻き卵や漬物等を食べて喜んでいる。

 やはりと言うか、天使たちも食事の必要はなく果物とかお菓子を摘まむくらいだった。

『彼方の世界』では食事よりも精神的充足感、つまり芸術とか音楽とかに重きを置いたようで、食べ物は素材をいかしたものが多かったようだ。


「これまで、食べる事はさして気にしていなかったのですが、このご飯というのはいいですね」


 シュテアネは三杯目になるお替りをそっと差し出しながらいった。どうやら、海苔の佃煮が特に気に入ったようだ。


「そうだよな。生きる事は食べる事だよ」


 カミィが嬉しそうにあれこれとシュテアネの世話をやいている。

 今朝は乙女小路家、大集合。大人数だが、和室にテーブルをいくつか出して大勢で食事をした。賑やかだ。

 毛玉たちの前にもしっかりとお皿が準備されている。皆、実体化して嬉しそうに食事をしている。

 時々、毛玉たちはお皿を持ってシュテアネの前に行き、自分の好物をシュテアネのお皿に移していた。


「ありがとう。でも、そんなに気にしてくれなくても……、おや? これは……」

「えっ、これ、から揚げじゃんか。 なんで、あるんだ」


 カミィが怪訝な声をあげた。すると、黒毛玉のクロロがソロソロと怜の後ろに隠れた。


「あーっ、クロロが秘蔵のから揚げを出してきたらしいよ」

 怜がクスクス笑いながら言った。


「えっ、クロロって結界、使えたっけ?」

「前からこっそり使ってたよ」

「ケーキとか、から揚げとか、カミィと好きなものが被っているから隠して食べてたみたい」

「それは、苦労するよ」

「うん。ごめんね。クロロちゃん」

「じゃ、なくて」


 どうやら、クロロが結界を使っていた事を知らなかったカミィがむくれている。


「カミィに知られるとねぇ」

「うん」

「むん」

「どうやらさ、」

「うん」

「毛玉たちって必要に応じてちょっとづつ力を使っているみたいだ」

「以外と、毛玉戦力は使えるかもしれない」

「うん、後で能力測定しよう」

「ちょっと、楽しみ」

「確かに、戦力の確認は必要ですね。それにしても……このから揚げは美味しいですね。癖になります」


 シュテアネの感想にカミィは

「そうだろう! から揚げは世界の宝だよ」

 と機嫌がよくなってきたようだ。


 朝食後、ハクはシュテアネを連れて光の国に行った。光の神さまとの面談、だが急いで確認しておきたいこともあったのだ。

 実は、これまで、現実世界と異世界とは時の流れが違っていて、現実世界の一日が異世界の約一年だった。

 しかし、シュテアネが現れた時から、現実世界と異世界の時間の流れが一緒になった。

 昨夜、シュテアネを連れて異世界に行って、帰ってきたら思いがけず時間が経っていた。あわてて異世界と連絡を取って確かめたら、やはり現実世界と異世界の時間の流れは同じになっていたのだ。


「これまでは、時の流れが違っていたのですね」

「ええ、昨夜は驚きましたが、確認してみると時間の流れはリアルタイムで同時でした。これまでも、電話などで、繋がっている時は何故か、時間が重なっていて、それは不思議だったのですが」

「光の国と現実世界の時も違っていましたよね」

「光の国のほうが過去で、俺と桐の時間だけが進んでいました」

「しかし」


 と言いながら、シュテアネはハクを見た。これまで、ハクが光の国に行った時、ハクは大人になっていたが今は現実世界と同じ15歳の姿のままであった。


「時間の操作をしなくなったという事ですか」

「しなくなったのなら、いいんですが」

「できなくなった……のかもしれません」

「……」

「あれは、とても大変なのです」

「そうですか」

「理を曲げていますから」

「大丈夫でしょうか」


 ハクはフッーとため息を吐いた。


「まぁ、この世界をつくった神さまですから」

「そう、ですね」


 そう話をしながら、ハクとシュテアネは光の神さまのところへ行った。シュテアネは少し抵抗感をうけつつも無事に結界を抜け、二人は光の神さまに会う事ができた。そこで、これまで語られなかったもう一つの真実を知り、ハクは勾玉から出てきて、はしゃいでいるヒヨコを悲しく眺めた。


 光の神さまが封印している過去は、これから『来るべく災厄』に備えなくてはならないハク達にとっては何もできない事だったが、忘れてはいけない出来事だ。光の国の時間については、もう必要がなくなったので自然に戻したが、異世界の時間については最初から時間の違いがあって、今回も特に何もしていないとの事だった。


「それにしても、」

 シュテアネは光の神さまに向かってため息をついた。


「なにも、虹色の毛玉と災厄の訪れを同時にしなくても、いいでしょうに」

「い、いや、私のせいではない。予言だ。それに、君はあの時、命の祠に入っていたし」

「それはそうですが」

「それに、力がそのまま使える」

「ええ、むしろ、増しているようです」

「それは、良かった」

「私だって、平和な時間を享受したかった、ですよ」

「永い時を生きてきたじゃないか」

「ええ、神々の後始末で忙しく、充実した日々でした」

「……」

「すまない」

「ほんとですよ」


 と皮肉をいいながらもシュテアネは、運命を受け入れているようだ。その後、3人で『来るべき災厄』への対処を話しあった。予言の書の内容に沿いつつ戦略を考えるのにシュテアネほど適した人、いや天使はいなかった。

 たぶん、悪魔の手も入ると思われるので、その辺も考えなくてはならない。

『来るべき災厄』に対する方法を最終的に決めようとした時、


「ハク、いいのか」

 光の神が聞いた。


「仕方ありません、運命です。と言うとでも?」

「そうだが」

「やるだけやります」



 ハクの瞳には力強い意志が灯っていた。


 虹色の毛玉、毛玉といっていいのだろうか。虹色の紳士シュテアネは、他の毛玉たちと違って大人だった。

 光の神さまのところから帰った後、毛玉たちを集めて何とかその能力を元に戻そうと頑張った。


「では、これと戦ってみなさい」


 そういってシュテアネが呼び出したのは人型の小さな悪魔だった。蝙蝠の羽が付いて、小さなしっぽの先は矢じりになっている。


「うわ、かわいい」

「小さい悪魔だ」

「これは何なのですか?」


 騒ぐ皆に向かって


「これは私の一部です。戦いやすいように悪魔型にしてみました」

「悪魔ってホントにいるのですか?」

「『彼方の世界』にはいましたよ。神も悪魔も人々と共にありました。こちらの世界の神話には『彼方の世界』で実際に神々との間におこった話が多くあると聞いて驚きました」

「神話が実話……ですか」

「ええ、すべてが、というわけではないですが」

「では、」

「『彼方の世界』の記憶が話として伝わったのではないでしょうか」

「悪魔って悪、なのですか?」


「そうとも限りません。ただ、欲望に忠実な種族です。ですから、たまに自己犠牲に走るものもいました。まぁ、普通の悪魔は自分が面白ければいい、という感じですね。そうなると、悪い事をそそのかしたり、人々が困って右往左往するのを楽しんだり、強い悲しみや苦しみ、怒りをきっかけに人が狂う事で、社会が混乱するのを喜ぶ連中もいるわけです」

「なぜ、悪魔がいるのですか?」

「……悪魔は神から生まれたのです。永い時の間には、倫理感に欠ける神も生まれてきます。刺激を求めて、支配できない力のある種族を生み出した、というか、自分がなってしまったというか」

「堕天使……」

「いえ、天使から悪魔が生まれたわけではありません」

「邪神?」

「そうですね。邪神から悪魔が生まれていったといえるかもしれません」


『彼方の世界』は永い時を経て、種々多様なものが生み出されていったようだ。

 さて、毛玉戦力の確認だが……、


「コウゲキ!」

 そう言いながら、緑の毛玉のミトが出した蔓はピルーンと伸びて小さな悪魔をピトッとたたいた。


「よし、イケ!」


 ピトッ! ピトッ!

 小さな蔓がピトピト叩いている様は、残念ながら、とても攻撃しているようには見えない。むしろ玩具の一つのように見える。


 シュテアネは「クッ」と声を押し殺すと

「次、ラー」

 と水色の毛玉を見ながら言った。


 水色の毛玉のラーは丸い水の玉になると小さな水玉をピッ、ピッと飛ばしてきた。子どもが水鉄砲で飛ばしてきたかのようなかわいい攻撃だ。水玉は当たると相手を濡らす事ができる。

 コントロールが狂って当てられたカミィは冷たくて気持ちいいと喜んでいる。


「アス」

 黄色毛玉のアスは、明るく光る丸い球を出してきた。とてもゆっくりとした光るシャボン玉だ。


「なんか、温かそう」

 そういいながらカミィが手を出すと光はカミィの手を包んだ。


「わぁ、ホンワカして気持ちいい」

「気持ち良くさせてどうするんです……」


 シュテアネのため息にアスはコロンコロンと転がって見せた。


「ほめていません。ユキ!」


 ユキは小さな粉雪を降らせた。テーブルの上で粉雪はあっと言いう間にまとまり、小さな雪だるまになった。雪だるまはピョンピョン跳ねている。


「うわー、かわいい」

 桐の小さな叫びにユキは得意そうだ。


 そばで見ていた黒毛玉のクロロは小さな黒い闇をだすと、その雪だるまを包み込んた。すると雪だるまは消えてしまった。でも、頭の先が残っている。


「えっ?!」

「異空間に閉じ込めたのですが……空間が小さすぎて入りきらなかったようです」


 シュテアネはまた、ため息をついた。

 蒼毛玉のアオルがモジモジとシュテアネを見ている。


「では、どうぞ」


 シュテアネの声にアオルが

「チリーン」

 と小さな鐘の音を鳴らしますと、バタバタと雪だるまを引き出そうとしていたユキの動きが止まった。

 しかし、3秒ほどすると、また、元気に動き出した。時を3秒止める事ができた。


「何と言いますか、……使えません」


 シュテアネがそう言いますと他の毛玉たちは皆一瞬シュンとしたが、すぐにそれぞれの場所に戻り知らん顔をした。


「今からでもいいので、とりあえず、その持っている能力を伸ばしてください」

「キューン」

「はーい」

「わかった」

「ピッピ」

「は、い」

「ルー」


 毛玉たちの返事がそれぞれ、元気よく返ってきた。どうやら、やる気だけはあるようだ。


「間に、あいそうにはないですが、ないよりはマシ、まし? なのでしょうか」

 シュテアネはそういうと、


「砂と海の国の確認をしましょう。連れて行ってください」

 ハクにそう言い、楽しそうに跳ねている毛玉たちに向かって


「君たちはそれぞれ、能力を磨きなさい。たゆまぬ努力が大切なのです。いいですか」


 そう言うと、一玉、一玉、捕まえてするべきことを言い聞かせた。毛玉たちは神妙に肯いていた。おかげで、ユキはハクの頭の上でせっせと雪を降らせている。ハクの頭の上には白い雪がうっすらと積もっていった。


「冷たいんだけど」


 ハクの声にハッとしたように、ユキはシュテアネを見た。シュテアネは手を一振りするとハクの頭の上の雪を消した。ユキはちょっとがっかりしている。


「上ではなく浮かせてください。そして、雪も視えないようにします。でないと、ハクさまの頭の上にだけ雪が積もっていくようにみえますから」


 ユキはぴょんと飛び跳ねると、また雪を降らし始めた。今は夏なので、頭のちょい上に雪があるのは涼しくていいかもしれない。


 その後、戦力の確認に行った。

 実は、海の国、砂の国の人々は能力をつかって世界各地に拠点を作り人も集めている。拠点は宗教の形をとっている。

 神殿を造って各地で信者を集めているのだ。そして、お守りとして星の砂を浄化したものを配っている。

 ハクの光の剣で星の砂を浄化すると、キラキラと黄金色にひかる砂になる。それをお守りとした。


 怜の中学校にある農業研究会や、源じいのところの仲間たちにもピアスに入れて星の砂を仲間の印として渡している。

 会社をつくって、手作りアクセサリーも販売しているが、そこにも星の砂をつけてなるべく多くの人に渡るようにしている。光る星の砂はケータイアクセサリーとしてもかなり人気がでた。

 浄化の効果がどこまで届くかわからないが、ハクたちは、なるべく多くの人を救いたいと思っている。


次回「誘拐、溶解」

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