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4.    迷宮探索と買物。2020/08/06

 ガサゴソ、バサッ、ドサッ。

 藪から鹿があわてたように飛び出てきた。


「桐ちゃん!」

「まかせて」


 桐がボーラを鹿に投げつけた。

 ボーラはクルクルッと鹿の前足を捕え、鹿はその場につんのめって転がった。そこへすかさずハクが上から銛状になった刀を突き差す。急所を一撃だ。


 鹿が倒れたかと思うとその姿は消え後にはきれいな毛皮が残った。走っていた時は鹿色だったが、今は輝く玉虫色の毛皮だ。弓や罠で取るよりも、この銛状の刀で仕留めるほうがきれいな毛皮が取れる。

 迷宮の初級に生息している動物は、現実世界での見かけと変わらない。

 しかし、仕留めた時にその姿は毛皮やお肉の塊に姿を変える。そして、毛皮の色あいや質はその時々によって変わっていく。

 どうやら、一撃必殺で仕留めた方がきれいな毛皮になるようだ。

 特に輝く玉虫色の毛皮は高く買い取られる。


「鹿をボーラで足止めして銛で突くのはいい方法だよ」

 ハクは銛剣の先を丁寧に拭いた。


「私たち、古武術の中で微塵も習っていたし、ボーラも異世界で使っていたから」

「こっちの武器の授業でボーラが出てきたのはびっくりしたけど」

「でも、とても使いやすいわ」

「たしかに」

「でもさ、この毛皮と肉、いつ見てもおかしいと思うんだ」

「ほんと、まるでゲームの世界に迷い込んだみたい」


 毛皮の横にポツンと残っているボーラを回収しながら桐も不思議そうだ。


「外の動物はそのままなのにさ、迷宮の動物は毛皮と肉に変化するなんて」

「光の神さま、ひょっとしてゲームをしていたのかも」

「ゲームを楽しんだせいで光の国をゲーム仕様にしたってこと?」

「そう。処理しなくていいのは楽だけど」

「現実味にかけるよなー」

「この後の迷宮探索が心配だわ」

「一体何がでてくるのか」

「わからない……」


 二人は顔をみあわせて小さく笑った。

 ハクと桐は迷宮では二人で狩りを中心に、時折宝石を拾う形で稼いでいた。二人の身体能力は大変高かったため、学校での実技の多くは免除された。

 時折、スポーツ種目を楽しむために授業に顔を出している。

 実は、学校の実技での木登りや弓の扱い、魔獣の処理の仕方など二人にはもう教えるものはない、と教師に感心されたのだ


「あの、木登りは人間じゃないよ」

「猿でも負ける」

「野生の女王さまみたい」


 カイたち3人は桐の木登りの様子をみてあきれていた。特に桐の運動能力はあこがれの目で見られている。おかげで、少し遠巻きにされている。


「もう、女王さまはないよね」

 桐が少し口をとがらせた


「そうだよ、くノ一とか、野生の王女とか」

 カイがおもしろそうに言い換える。


「もう、ひどい」

「一応、王女さまだよ」

「野生の、ね」


「それにしても、ハクもかなりできるのに、目立たなくなっちゃうね」

「やっぱり、女の子のほうが注目されるから」

「リリとユリアもよく見られているよ」

「うん。声もかけられる」


「「かわいいから」」

 リリとユリアは声を揃えて、笑い出した。


「まぁ、たしかにかわいいけど」

「ふふ、あのね、男の子のほうが多いから女の子はもてるのよ」


 ここでは男性のほうが多いので、パートナーをみつけるのは大変なのだ。リリはきれい系でユリアはかわいい系でどちらも整った顔立ちをしている。


 それはともかく、狩りをするための武器の使い方や、サバイバルの仕方等は教官もびっくりするほどハク達二人は優れていた。現実社会での古武術の鍛練や異世界でのサバイバルがしっかりと身についていたようだ。


 さて、桐が鹿の毛皮を結界にしまいながら

「ねぇ、陰陽師って光の神さまの化身なのかな?」

 と言いだした。


「え? 何? 化身? いや、むしろ神さまの子供とか、子分とか手下とか」

「もう、子分とか手下なんて。それをいうなら天使じゃない?」

「陰陽師が天使? なんか変でない?」

「現実世界で結界に囲まれた空間があちこちにあったわ。それのすごーく大きいのが光の国みたい」

「光の国は現実世界の影で、ここの人は魂がわかれてつくられた、だろう?」

「影の世界は大きすぎて、存在そのものが薄まってるような?」

「うーん。確かに、影の世界よりも僕らのいる上階の世界は密度が濃いというか、鮮やかな世界? でも、光の国には陰陽師の影も形もなくて、むしろ光の神さまが表に出てる感じ?……よくわからないや」


「そうね、それになにより、光の国にはコビトがいない……」

「桐ちゃん、生まれた時からずっとコビトを見てきたしね」

「そう、コビトがいるのが当たり前の暮らしに、慣れてたから……」

「なんか、寂しいよね。でもさ、異世界にはコビトはいなかったよ、」

「野生のコビト、は時々見かけたし」

「むふっ、たしかに異世界のコビトは野生なんだよな~、野良コビトというか」


「ファイも火のコビトだけど、野生のコビトと同じ格好をしてたね」

「現実世界のコビトは異世界から流れてきて進化したコビト?」

「異世界のコビトは人についてないけど、現実世界のコビトは人にくっ付いているわ」

「くっ付いているけど、わりと自由に人の体の上をうろちょろしてるよ」

「人と同化しているかといえばそうでもないし」

「コビトとしての意志があるし、ある程度自由。だけど、人と離れられない」

「そう~。でもマナを取り込むと人の体に埋まっていくし……それは嫌と言うか、苦しそうだし」

「コビトって何なんだろう?」

「ほんと、何だかよくわからない」


 ハクと桐はこの光の国にきてから、色々と話しあい考えたが結局、何も結論がでないままだった。現実世界と異世界とこの光の国、海の国、砂の国、陰陽師、毛玉たち、そしてコビトたち……何か関連がある事はわかるのだが、やはり時がくるのを待つしかないだろうか。


「ところでハク、私たちのお金っていくらになったの?」

「預金? うーんと、2500万円くらいかな?」

「すごい! かなり多くない?」

「確かに」

「もう装備がそろえられるね」

「うん。明日は買い物の予定だし」

「武器や防具の店ってどうなっているのか楽しみ」

「ゲームみたいな恰好だったらどうしようか」

「笑っちゃうかも」


 桐はそう言いつつも楽しみにしていた。明日はカイ達と装備を買いに行く約束をしている。お金の管理についてはハクに一任して、桐はその中からお小遣いをもらう。


 迷宮の初級は100層まであり、51層からは装備を揃えなければ行くことはできない。

 ハクと桐はすでに50階層を攻略済だ。今は主に45層から50層で狩りをして稼いでいる。この層には現実世界でも良く見かけるような動物が生息しているので、その動物たちを狩ってお金にかえている。時々、レアな虹色の動物がいてそれは高く売れる。

 でも、二人の預金金額は普通では考えられないほど多い。


「やっぱり、イトリのおかげかな」

「うん。なんだか皆には申し訳ないような」

「一応、他の子たちにも石の場所を教えてくれるようになったけど」

「皆は、あまり、高い石はもらってないみたい」


 桐はちょっと困った顔をした。何だか悪いような気がしたのだ。

 他の3人はハクと桐よりも先に迷宮に入っていたのに、それぞれ4~500万円ほどの預金額だ。

 それでも、50階層内でのこの金額はありえないくらい大きい。3人はハク達のおかげだと感謝してくれるが、主な収入源はイトリの教えてくれる宝石だ。

 イトリは体が小さいせいか、迷宮の石の中から価値のある石をみつけてはハクと桐に教えてくれる。

 二人が迷宮を攻略しているといつの間にか、イトリが側にいる。イトリはたいていハクのポケットの中から顔を出すのだ。


「いつの間に入ってるんだ?」

「すごいよね、忍者みたい」

 ハクと桐のあきれたような声に


「ふふん、そうでしょう」

 イトリは威張って見せる。


「今日は一人なの?」

「時には一人になりたいときもあるんだよ」

 イトリは澄ました顔だ。


「子供なのに」

「見かけは子供、頭脳は大人」

 イトリの答えにハクと桐は顔を見合わせた。


「なんだか、怜みたい」

「たしかに、怜に似てるとこがあるよ」

「誰? その怜って」

「桐ちゃんの弟」

「とても賢いの」

「へぇ、そうなんだ。確かに現実世界の僕は賢いし、天才児と言われているけど」

「そうなんだ!」


 イトリの話によると、光の国の子供たちは現実世界の自分の夢をみるそうだ。だので、自分の置かれている状態も知っているわけで……恵まれていない状態であっても、いやむしろ恵まれない状態にいるほうがかえって、影の世界に行った時にそのままあきらめ、流されて過ごすことが多い。


「というか、ほとんどの人が影から抜け出せない」

「現実世界と比べてこっちの人、少ないものね」

「そうだけど、イトリは影の世界に行ったらすぐこちらへ戻ってくるよ」

「そう……」

「あんな、窮屈な思いはたくさんだよ」

「窮屈?」

「天才は親や周囲が、もう、うるさい」

「へ、へぇー、そういえば怜はすごい猫かぶってる」

「子供のふりをしてるわ」

「模試とかでも手を抜いてるみたいだし、普通のふりしてるよ」

「ある意味、そのほうが賢い」


 イトリがため息をついた。幼少のころから飛びぬけて優秀だと色々あるらしい。怜の場合は親がふつうの子として育てたので、世間に知られずに過ごすことができた。人の世界でも様々な事情があるようだ。

 が……なにはともあれ、本日も狩りの獲物は上々。

 明日は久しぶりのお休みなので、皆で買い物へ行く予定だ。


 朝から良い天気。

 スローライフに武器や防具の店はない。なので、少し離れたファンライフと言う街に来ている。

 ハクに桐、カイ、リリとユリアの5人に、狩人のテツが付き添いだ。ここは武具や防具等の迷宮の攻略に必要な物をはじめ、洋服や電気製品など様々な店が立ち並ぶ、全体がショッピングモールのようになっている。


「わぁ、すごい」

「にぎやか」

「人が多いね」

「お店がいっぱい」

「目移りしちゃう」

「おおーい、君たち、きょろきょろしすぎて迷子にならないようにね」

 テツが苦笑いしながら注意してきた。


「大丈夫」

「これがあるし」


 カイが時計を指さした。

 この時計は、迷宮の為の時計だがGPS機能も付いていて、設定すると互いに位置を確認できる。登録した人とメールや通話、音声チャットもできるので便利だ。使う時はキーワードを唱える事で手のひらに薄い端末がでてくるからそれを操作する。


「俺は苦手なんだよ」

 テツが嫌そうに言った。端末操作が嫌いで通話しか使わない人もたまにいる。


「テッちゃん、音声チャットで話しかけても返事ないし」

「メールの返事もたまにしかこない」

「代わりに電話、かかってくるよね」

「俺は自然派なの! それよりほら、防具の店だぞ」


 テツは誤魔化すように店を指さした。


「うわー」

「なにこれ?」


 ハクと桐は驚いている。なにしろ防具の店にならんでいる装備は、どこからどう見てもコスプレの衣裳に見えるから。

 とはいえ、現実社会で見るようなコスプレイヤーが着ている衣裳とは少し違って質感が本物のようで、まるでアニメから抜け出してきたような衣装に見える。


「すごくカッコいいと思わない?」

 リリがうっとりとした顔で衣裳を見ている。


「それはそうだけど」

「ねぇ、見て」


 桐がハクの手を引っ張って連れて行った先には、白金や金色の鎧や兜、小手等が並んでいた。


「キラキラと輝いている」

「うわー、はじめてみたよ」

「これ、まさかオリハルコンとか言わないよね」

「はは、たぶんアルミだよ。でも、特殊な加工がしてあるみたいで軽くて丈夫」


 テツが笑いながら言った。

「ハク、着てみて」

「えっ、えーと」

「ハクはこれなんて似合うんじゃないか」


 テツが指さした一角にあるのは、五月人形に飾られるような鎧、兜だった。よく子供の日にあわせて五月人形の展示がおこなわれるが、その鎧、兜が大人の等身大になって置いてあるのはかなり迫力があった。


「いいかも」

「似合いそう」

「早く着て」


「こんなの着て動けないよ」

 ハクがちょっと引き気味にしていると


「そうだよ、これはちょっと大げさすぎて恥ずかしいよな」

 カイが肯いた。


「いや、中級だとこんな恰好しているの、結構いるぞ」

 テツの言葉に


「ええー」

「ちょっと、これ、人を選ぶよ」

「それなりの人でないと、似合わない」

「テツちゃんはどんな装備なの?」

「そういえば知らないね」

「何着てるの?」

「俺は、……まぁ何だ。それなりだ」


「ひょっとしてフルアーマーとか? あれ、動きにくいよね」

 リリの問いに


「……以外と動けるものなんだ」

 しぶしぶといった感じにテツが答えた。どうやら、テツはしっかりとした鎧を着ているようだ。


「よろしかったら、試着をしてみませんか?」


 愛想の良い店員が色々勧めてくれる。

 結局、ハクは白金の鎖帷子と、ヘルメスの兜、薄い金属を布風にしたタイトなズボンとブーツにした。勧められて短めのマントもつけたが、どこかのアニメに出てきそうな恰好だ。カイは金属を布にして編み上げた薄いアーマーに肩や肘など補強してある装備、色は漆黒だ。


「ハク、王子様みたい」

「ハク、かっこいい! あっ、カイもかっこいいよ」

「王子様とお付きの黒騎士……」


 ハクとカイを見た3人の女の子たちは騒いでいる。女の子たちも試着をしたが、


「ハク、どう? 似合う?」


 桐は白いセーラー服を着ている。

 セーラーのボーダーは金色でスカートの裾にも金のレースの飾りが付いていた。そして、背中に真っ白な天使の羽。セーラー服を着た女生徒に天使の羽がついているようにしか見えない。


「えーと、とても似合っているし、かわいいけど……」

「ハク、私は?」


 リリがクルリと回って見せた。リリは白いセーラーに赤いボーダーだ。


「と、とてもかわいいよ」

「ど、どうかな?」


 恥ずかしそうにユリアも顔を出した。ユリアは白いセーラーに水色のボーダー。


「かわいい。けど……」

「皆、学校の制服じゃないか」


 カイがあきれたようにいった。


「だって、セーラー服が着てみたかったの」

「セーラーってあまりないし」

「天使の羽を付ける事で差別化してみました」


「えーと、スカートだと戦えないんじゃ」

 カイが言いかけると


「ペティパンツがあるから大丈夫」

「アンダースカートも装備になるんですって」


 女の子たち3人は白いセーラー服に天使の羽を付けてとても楽しそうにしている。迷宮攻略の為の装備という事を忘れているようだ。


「こちらの装備はとても人気があるのですよ。でも、着る人を選ぶので……」

「あまり着ている人はいないのですか?」

「ええ、そうなんです。結局、初級と中級の装備はなにを選んでも、加護の重ね掛けで防御力が変わってくるだけですから、動きやすいスタイルになってしまうんです」

「じゃぁ、女性はスパッツとかパンツが多いのですか」

「そうですね、あとはつなぎとか忍者の装束も人気です。一応、ドレスやワンピースなどもあるのですが」

「ドレス……いいかも」


 ユリアの目がキラリと光った。お姫さまの恰好は憧れだと言う。ティアラと長い白手袋をつけて、キラキラした杖から魔法を打ち出したり、ドレスを少し持ち上げて魔獣を蹴飛ばしたいそうだ。


「魔獣もドレス見たらびっくりして動き止まるかもしれないな」

 テツが言いますと


「いやいや、それはないよ」

「そうだよ。動きやすいのが一番」


 結局、どうしても着たいという事で女の子達の装備はセーラー服になった。さて、つぎは武器選びだ。


 武器屋に行く前に何か美味しいものを食べようという事になった。テツのお薦めは和食の店だ。大通りから一本外れたところにあるその店はとても立派な門構えをしている。


「うわー」

「なにここ、高そう」

「ここ、高級そうに見えるけど、意外とリーズナブルなんだ」


 テツはちょっと胸を張った後、小さな声で

「友達がやっているから」

 と言った。


「そういう事か」

「ひょっとして、ここにもお肉をおろしてる?」

「まあな。魚が主だけど肉も使うから」

「魚が美味しいの?」

「すごくうまい」


 ハク達はテツの言葉にワクワクしながら立派な門をくぐった。


「いらっしゃいませ」

 和服を着たきれいなお姉さんがあらわれた。


「テツ様、そして初めてのお客様方、ようこそおいでくださいました」


 お姉さんは流れるようなきれいなお辞儀をし、奥の日本庭園が見える和室に案内してくれた。

 そこで、久しぶりのお寿司や刺身を食べてハク達は感激した。


「お寿司を食べるの、すっごく久しぶり」

 桐はとても嬉しそうだ。


「そういえば、スローライフは洋食中心だね」

「神殿は洋風家庭料理が多いな」

「たまに出てくる魚もムニエルとかバター焼きになっているのが多いよ」


「スローライフは日本じゃないの?」

 桐が不思議そうに聞いた。


「日本の上階だけど光の国は世界が一つだから。なんというかな、国とか人種の区別がないんだ」


 この光の国の上階は現実世界の影から目覚めた人々が暮らしているが人種は様々だ。どこに暮らしてもいいので、どの地域も人種のるつぼになっている。ただ、不思議な事にスローライフは日本出身者が多いのだ。


「だのに、食事は洋風でチーズが特産なのも……不思議だね」

「うーん。考えてみたら変だな」

「テッちゃんはなんでスローライフにいるの」

「なんで? 居心地がいいから……なんか、安心するんだ。ここはのんびりしてるしさ」

「ああ、それはいえる」

「スローライスの町の人はわりとノホホンとしているね」

「ほんと、ほんと」


 そんな話をしながらハク達は楽しく食事をし、挨拶にきてくれたテツの友人とアドレスの交換をした。食事代はテツとテツの友人がおごってくれるというので有難くご馳走になった。テツは家もあるし、かなり稼いでいるので裕福なのだ。


 次は、武器屋にいった。


「やっぱ、剣だよ」

「剣士はかっこいいし」

「弓もいいかも」


 色々と話しながら武器屋に入ったのだが、

 武器屋には様々な種類のありとあらゆる武器が並んでいた。拳銃をはじめとしてサーベルや日本刀、各種の剣が並んでいる。

 ハク達は初めて見る武器に目を奪われていた。


「えーと、これいいの?」

「なんか危ないような気がする」


「銃刀法違反にならない?」

 桐が小さな声で囁いてきた。


「いらっしゃいませ。武器屋は初めてですか?」

 店員が感じよく声をかけてきた。


「あぁ、こいつらの装備を買いに来たんだ」

 店員はテツの言葉にハク達を見ると軽く目を見張った。


「随分、優秀なんですね。もう装備を揃えられるなんて」

「虹色の毛皮もたくさん取っているからな」

「虹色! 本当ですか。すごいですね」


「えーっと、それはハクと桐」

「僕たち3人はまだまだ、チマチマ。宝石のおかげでお金は貯まってるけど」

 リリとカイがハクと桐を指さした。


「それでも、装備を揃えられるのはたいしたものです。まだ、神殿に保護されている年齢ではございませんか?」

「まあ……」

「神殿貸出の銛刀とか、弓を使って狩りをしてこられたのでは?」

「刀とか弓よりもボーラを良く使っていますけど」

「おお、それでしたら鎖系の武器などいかがでしょう? 防具はどのようなものを?」

「僕たちは普通の鎧だけど、女の子たちは学校の制服……」

「制服の方は結構いらっしゃいますよ」

「そうなんですか?」

「若い方はお友達やメンバーで揃える方もいらっしゃいますし、学校の制服は馴染みがあるせいか結構人気があります」


「私たちもお揃いの制服なんです」

 ユリアが嬉しそうに答えた。


 そして、防具を見せてほしいという店員の言葉に、桐とリリとユリアは手元の時計を操作してセーラー服に変身した。迷宮に入る為の時計には装備が格納される。ヒュルルンと光の渦に包まれたかと思うと3人は天使の羽をつけたセーラー服になっていた。


「これは、セーラー天使!」

「かわいいですね」

「3人というのもいいです」

「よいですねー、これに武器といえば」


 嬉しそうに武器屋の店員が集まってきた。あれもいい、これもいいと言いながら何やら話し合っている。そして「こちらへどうぞ」といいながら奥の応接室に案内してくれた。

 やがて、ワゴンに載せた武器が運ばれてきた。キラキラ虹色に光るスティックだ。スティックの先には小さな宝石がはめ込まれていた。ピカピカと光っているのはまるでネオンのようだ。


「かわいい」

「きれい」

「すてきだわ」

 女の子達は嬉しそうだ。


「あれ、武器か?」

「使えるの?」

「見た目はきれいだけど……」


 対して男性陣は小さな声ながら、実用的ではないと否定的だ。


「おそれいります。私は店長でございます。こちらのスティックでございますが……」


 物腰の柔らかい壮年の男性が説明をはじめた。最初は若い店員だけだったのに、いつの間にか年配の男性が応接室に増えていた。その後ろに若い店員が2人並んでいる。


「これらは特別につくったものでして、見た目が少し目立つものですからお似合いになる方がいらっしゃらなくて」

「そんな派手なの、ちょっと持てないよ」

 カイが肯きながら言った。


「ところが、でございます。こちらのお嬢さま方がお持ちになりますと……」


 店長は微笑みながらキラキラ光るスティックを女の子たちに「どうぞ」と手渡してきた。スティックを手に持つと、そのネオン色はおさまり、穏やかな瑠璃色になった。


「あれ!」

「派手じゃない」

「何だか、すごくしっくりくるね」


「この武器は人を選ぶのです。このネオンがおさまる事で武器としての効能を発揮しますが、ほとんどの方は色を抑える事ができません」


 店長に勧められて桐たち女の子はそのスティックを装備する事になった。スティックの先の宝石からはレーザーや、ムチ、鎖がでるそうだ。


「魔法の力があがりましたら……光の帯を自在に操る事もできるのです」

 店長の言葉に


「魔法……」

「使いたいわ」

 リリとユリアは夢見るような目をしている。


 迷宮の中級になると魔玉を使う事によって魔法を操れる。上級になると仕組みはわからないが魔法を使えるようになる。でも、迷宮の上級に上がる為にはドラゴンと対峙して倒さなければならない。


「上級の武器は魔法を使えるけど、中級までは使えないはずだが?」

 テツが首を傾げた。


 中級までの武器は上級の武器のコピーで見かけは同じだがモノが違う。上級の武器は迷宮から生み出されたもので、中級までは人がつくったものになる。


「はい。実はこのスティックは上級のドロップ品を利用しているのです」

「本物って事か?」


 テツの言葉に店長が肯いた。


「そんなのあり?!」

 カイが叫んだ。


「はい。これは特別品でございます。お似合いの方がいらっしゃれば差し上げるように委託されておりました」


 店長の話によると、とある方より「この宝石の似合う人に装備してほしい」と寄贈されたそうだ。かなり力のある宝石なので、宝石に負けない武器という事でこのスティックの形になったが、スティックがネオンのように光る為なかなか装備できる人がいなくて、今回はもらっていただけることが嬉しいとの事だ。

 その条件とはこのスティックを光らせずに装備できる女の子とのことだ。


「なんか、怪しくない?」

 カイが言うと


「うーん、まあ、いいんじゃない」

「ピカピカ光っていると武器にならないけど、この瑠璃色なら大丈夫だし」

「かわいいし」

「ほしいもの」


 と女の子たちは喜んでいたので、その宝石、もとい武器はありがたく頂くことになった。

 予算がかなり余ったので、ハクは白銀に輝くブロードソードを、カイも黒銀のエストックを手に入れた。

 装備と武器を身につけると、ハクはまるで騎士物語に出てくる王子様のように見えた。


「ハクってほんとかっこいい」

「うん、ハク、似合っている」

「すてき」


「えーと、僕は?」

 カイが大きく手を振り回して聞いてきた。


「カイもすてきなお供の人みたい」

「うん、カイも騎士見習いに見える」

「あと、5年くらいすればいいかもしれない」


 女の子の声にカイはがっくりしている。


「まあ、仕方ない。カイは童顔だし、老けるのを待つんだな」

 テツが重々しく言ってくれた。


「カイ、一応僕は年上だよ」

「3か月だけ、だし」


「男の子の成長はかなり個人差がありますから」

 店長がやさしい顔でなぐさめてきた。


「成長期が遅いほうが大きくなれるんだぞ」

「あっ、それ聞いたことがある」

「脳筋は、ガタイがよくなるって」

「じゃぁ、だめじゃん。俺、頭脳派だし」

「頭脳派?」

「ま、まぁ、いいじゃん。細マッチョをめざそう」

「プロレスラーみたいになりたい」

「それはちょっと無理があるかも……」


 みんなはカイを慰めつつ支払をし、武器を登録して店を出た。

 これで本格的な迷宮探索ができるようになった。明日からは迷宮を攻略する日々が始まる。


次回「15の夏」

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