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1.    精霊女王の帰郷とこれからの事 2020/08/01

 ――中学1年生 夏――


「ふぁー」


 ハクはソファーの上で大きな欠伸をしながら目をこすった。

 夏休みになったので昨夜遅くまでゲームをしていたせいか、かなり眠い。彼は、きりりとした涼しげな目をしているが、今は目元がフニャリと下がっている。


「ハク、眠そうね」

 桐が小さく笑いながら声をかけてきた。


「うん、眠い」

「昨日はみんな、なかなか寝なかったもの」

「だって、夏休み初日、だよ」

「まあ、ね」

「中1の夏って、なんだか、遊ばなくっちゃって思う」

「宿題も少ないし」

「そういうこと」

「まだまだ、時間はあるって感じ?」

「そうそう、小学校は日記帳を考えるのが大変だった。カミィの」

「確かに」


 二人は顔を見合わせて吹き出した。


「おはよー」

 大きく伸びをしながらカミィが部屋から出てきた。


「ねえ、朝飯は?」

「もう、カミィは、」

「お腹すいちゃったよ」

「昨日、あれだけ食べたのに?」


 怜があきれたように言った。カミィを除くハクと桐、怜に京華はもう食べてしまっていた。乙女小路の家では、夕飯以外は各自で自由に食べる事になっている。

 カミィと桐は双子で、怜は一つ下の弟。ハクの本名は一文字龍で、あだ名がハク。京華は清流寺京華と言う長い名前だ。ハクと京華は乙女小路家で育ったようなものだ。彼らの両親は忙しく小さい頃から預けられることが多かったから。


「昨日は昨日、今日は今日」

 あわてて言い募るカミィに対して


「ははっ、カミィって精霊だから、本当は食べなくてもいいんだよ?」

 怜がからかうように言った。


「何を言うんだよ! 精霊で飯を食べないなんて滅多にいないんだからな。なんか、修行をしてるとか、願掛けしてるとか、よっぽどでなければ」

 カミィがむきになって言い返す。彼は食べる事が大好きだ。


「でも、精霊って昔、むかしは食事の習慣がなかったのよ」

 京華の言葉に


「だから、食べなくても大丈夫」

 怜が楽しそうに断言した。


「うわー、いじわる言うなよ」


 カミィの情けない声にハクは肩をすくめながら立ち上がった。


「目玉焼きでいい?」

「もう、ハクの甘やかし」

「ハク、大好きだ」

「はいはい」


 ハクは料理が好きなので、食事の支度はハクがすることが多い。


「カミィ、今日はトウモロコシの収穫にいかなくちゃ」

 京華が、嬉しそうにご飯を待っているカミィに言うと


「木登り競争もしようね」

 桐が付け足した。


 桐の言葉にカミィは嫌な顔をした。木登りはもちろん、毎年競っているセミ取りや魚釣りはいつも桐の圧勝だった。一見、お淑やかにみえる彼女の木登りは驚きの速さを誇る。


「ふふ、今年も勝負しようね。何を賭けようかな」

「桐ちゃん、少しは手加減しようよ。」

「~カミィ。勝てないものね~」

「うー」


 カミィはすごく強いし喧嘩っ早い。おバカだけど明るいから人気者。

 彼はすぐに「勝負だ」と戦いたがって、幼馴染たちを巻き込んでしまう。おかげでハク達5人は近所の子供たちのトップにたってしまった。ボスはカミィ。彼ら5人のグループは、とてもケンカが強い。


 世の人々には小さなコビトが各々、頭の上や肩や腕にくっ付いているが、ケンカの時には彼らの仲間の上にいるコビトも戦っている。『コビトの戦い』とはいっても直接彼らは拳を交えるわけではなく、エア戦闘になる。

 なので、ケンカをしている人たちの上でコビトが戦いの踊りを踊っているようにもみえる。

 ホントのところ、ただ、踊っているだけかもしれない。


 ただし、そのコビトが視えるのは、ハク達5人と精霊女王である乙女小路家の桔梗だけ。桔梗は乙女小路の家にいるけど、結婚したので早乙女桔梗である。ちなみに、ハク、桐、カミィ、怜、京華、それに桔梗にはコビトはいない。つまり、視える人にはコビトは付いていないという事になる。

 それに、桐を相手にする時は敵のコビトは付いている人のほうをポカポカと叩いているから、叩かれている人は力が抜けたようになる。だから、桐は負ける事はない。


 カミィの子分というか仲間の子供たちは秘密基地に集まってくる。秘密基地のある里山は源じいさんの持ち物だ。源じいさんと仲良くなって色々な事を教えてもらった。そのうち、仲間が増えていって今では小さな村みたいになっている。トウモロコシ畑もそこにある


「そういえば、この間ね、変なコビトがいたの」

 桐がマドレーヌをつまみながら言った。


「ハクったら……聞いている?」

「うん、聞いているよ。変なコビトがいたんだろう?」

「そうなの。そのコビト、ヒゲが生えていたのよ。まるでサンタみたいな白くて長いヒゲ」

「サンタ?」

「夏なのにサンタの格好で、赤い三角帽子の先には白いファーがついていたの」

「トナカイは?」

「いたわ。トナカイつれたサンタのコビト、初めて見た」

「コビトは普通、一人に一人だよね」

「ちょっと、桐ちゃん。そのトナカイ、どんなのだった?」


 怜が興味深そうに声をかけてきた。京華も本を置いて桐のほうを見ている。


「ちっちゃいトナカイ、コビトサイズだった」

「桐ちゃんに向かって踊っていた?」

「ううん、道路の反対がわでちらっと見ただけだから、すぐいなくなったの」

「どこで見たの?」

「駅のロータリーのとこ。駅に向かっていた」

「うーん。じゃぁ、もう会えないかな」

「わからない」

「もし、会ったらすぐ連絡して」

「OK」


 それきり、その変なコビトの話は終わってしまった。

 実は、桐とカミィは精霊で『来るべき災厄』から世界を救う使命がある。なので、二人はそれに備えて異世界で修行という名の冒険をしてきた。一緒にハクと京華、怜も異世界に行き来していたが、カミィのせいで3人は半分精霊になってしまった。つまり彼らは、人間に精霊が混ざった状態なのだ。


 おかげで3人は人に付いているコビトが視えるようになった。人には必ず三角帽子をかぶった小さなコビトがくっ付いていて頭に乗ったり腕にぶら下がっている。コビトの服装は様々で、自由気ままに人の体の上で過ごしているように見える。でも、コビトの正体はわからない。



 8月1日は桐とカミィ、怜の誕生日。怜が一つ下だけど、同じ誕生日なんて珍しいとよく言われる。

 誕生日会は毎年、親しい人たちを集めて行われる。


「桐ちゃん、カミィ、怜、誕生日おめでとう」

「ありがとう」

「3人いっしょだと、3人はプレゼント交換みたいだね」

「ほんとだよ。桐ちゃん、これがんばって作った!」

「わぁ、きれい。カミィってほんとに器用ね」


 桐はカミィから手作りのバレッタをもらった。それに付いている宝石は異世界からカミィが掘り出してきた本物だ。桐はカミィにゲームソフトを贈った。カミィはゲームが大好きだ。


「カミィ、僕は?」

 怜に催促されてカミィが出してきたのは緑の葉が彫刻された美しい水筒だった。


「これ?」

「あの泉の、水がわき出る水筒」

「おっ、それは嬉しいね」

「だろ! 中に魔法陣、刻んだんだ。内緒だぜ」


 また、カミィはとんでもないものを創ったみたいだ、カー様に怒られるかも、とハクが考えていると、ハクの顔を見たカミィがニヤリと笑いながら


「ハクにも創ってやるから誕生日を楽しみに、な」と言った。

「ありがとう」


「カミィ~」

 桐がカミィの袖を引っ張った。


「え~っ、桐ちゃんはいつでも自分で行けるだろ」

「でも、欲しい」

「じゃぁ、可愛いのを考えるよ」


「コホン」

 京華が咳払いをした。


「はい、はい。みなさんにお創りいたします」

 結局、カミィはみんなに水筒を創ることになった。


 3人の誕生日会は美味しく過ごせた。材料のわからない不思議な料理がたくさん並んでいたが、これは精霊のシェフたちが作っている。それに、桔梗の旦那さまである蓮がパティシエなので毎回、誕生日ケーキが豪華で美味しい。

 カミィがいつも「ケーキ入刀」と大きな声でいうのはお約束だ。その声にあわせて乙女小路家のコビトたちがアクロロバティックな「誕生日の踊り」を踊る。


「この誕生日の踊りはサーカスみたいだ」

「すごく揃ってるし」

「いつ練習したんだよ、って」

「カー様もこの踊りの時はしっかり見てるよね」

「コビトの踊りは見飽きていると思うけど」

「それを言うなら、桐ちゃんだって」

「わたしは視えてるけど、見てないもの」

「桐ちゃんとカー様が見てるとコビトたち、頑張りはじめるから」

「そうそう。でも、ちょっと、体揺らしているくらいがいいよね」

「言えてる」


 カー様と呼ばれている早乙女桔梗は、カミィと桐の叔母にあたるが精霊女王である。桔梗は人として生まれたが実は半分精霊だった。大学1年の時に異世界で100年ほど過ごし、社会人の時、勇者召喚に巻き込まれて再び異世界に行った。色々とあったが今は結婚して、旦那さまの早乙女蓮と共に乙女小路家で暮らしている。

 ともあれ、誕生日会は何事もなく楽しく美味しく過ごす事が出来た。

 


 誕生日からしばらく後、彼らは異世界の精霊国にいた。

 桔梗と蓮が、乙女小路家から引越して精霊国に住む事になったのでその見送りにきたのだ。といっても二人の生活の拠点が精霊国に移るだけで、異世界には魔法陣のペンダントで行き来ができる。家族は魔法陣ペンダントでいつでも精霊国の宮殿に行くことができるのだ。ちなみに半精霊のハク達は精霊国以外でも異世界の神殿、もしくは行った場所なら転移ができる。


 桔梗と蓮が『始まりの木』に手をあてて祈っている。精霊国に暮らすのでこれからよろしく、との挨拶だ。

 すると『始まりの木』が光って白い花があちこちにフワフワとひろがって、辺りにいい匂いがしてきた。

 人間には視えないはずの蓮のコビトが現れた。二人の家族がコビトをみてびっくりして騒いでいる。

 コビトは宙に浮いてから一礼をした。

 そして、コビトは蓮の頭上にのぼり、スルスルと足の先から彼の中に吸い込まれていった。


 そうして、蓮は精霊になってしまった。それは、ハクにもわかった。ハク達は人間と精霊が混ざった状態だけど蓮はもう完全に精霊だった。これからは精霊女王といっしょに仲良く精霊の国で暮らすのだから良かったのだろう。



「ハク、ハクってば~」

「ハク、行こうぜ~」


 いつの間にかハクは桐とカミィに手をとられて引っ張られていた。今から精霊国の宮殿でお別れ会だ。


「パーティが終わったら、作戦会議ね」

「かっこいい戦隊にしよう!」

 カミィが楽しそうだ……。


「戦隊?」 

「俺たち、5人だから戦隊をつくって戦おうと思って」


 なんだろう、イヤな予感がする……と思いつつ連れられていくハクは、わりと流されやすい性格をしている。


 精霊国の宮殿ではお別れパーティが行われている。

 パーティの参加者は乙女小路家とハクに京華、それに元勇者の渡会先生。彼は桐とカミィの父である寛の後輩だ。昔、桔梗が異世界に召喚された時に、彼も勇者として召喚され色々あって今も親しく付き合いが続いている。


 その召喚を行ったのは、異世界のシバーン大陸にあるゲスターチ帝国で、今は独裁政治をおこなっている軍事国家になっている。ゲスターチ帝国が使っていた召喚の魔法陣は桔梗たちが回収したので、召喚の儀式は行われなくなった。

 ゲスターチ帝国は異世界では孤立している。他の大陸は精霊信仰のもと、穏やかに人々や獣人が暮らしているが、ゲスターチ帝国では貧富の差も大きく理不尽がまかり通っている。他の大陸に行きたくても大陸の間の海はたいそう荒れていて渡るには獣人の助けがいる。しかし、獣人はゲスターチ帝国のあるシバーン大陸にくる事はない。


 精霊たちの認識ではシバーン大陸は人間にとっての試練の場所であり、人にとっての地獄もシバーン大陸の地の下にあるのだと考えられている。


「でも、びっくりした」

 パーティ会場では珍しく怜が興奮したように話をしていた。


「人が精霊になるんだよ」

「でも、人がコビトと一体化すると精霊、だとして、精霊は人とコビトに別れないよね。それに精霊になるには、コビトが自分から進んで一体化しないといけないみたい」


 京華がカクテルグラスからきれいな琥珀色の液体を飲みながら言った。

 ワインに見えるけどぶどうジュースかな? とハクが京華を見ながら頭をひねっていると


「あいつらってさ、食べ過ぎじゃない?」


 カミィがコビトを指さしながら呆れたように言った。コビトたちはあちこちで精霊から食べ物を貰ってパクパクと食べていた。乙女小路家のコビトたち、女性陣はドレスで男性陣はタキシードを着ていたからパーティーを意識しているらしい。


「現実世界では食べてないからいいのよ」

「なんで、こっちではあんなに食べるんだろ?」

「ひょっとして、エネルギー充填しているんじゃない?」

「確かに、そうかもしれないよ」

「必要にせまられてか」

「俺ら、コビトがいないからさ」

「まーね」

「コビトってどうなってるのか、よくわからないんだよね」

「カーさまもわからないらしいよ」

「まぁ、いいじゃん。精霊たちもコビトに食べ物、あげるの楽しそうだし」

「まあね」


「コビトって意志があるし」

 カミィが両手に料理を一杯のせたお皿を持ちながら、桐に向かって肩をすくめた。


「コビトがしゃべれないのが、な~」

「コビトは踊りが伝達手段じゃないの?」

「それ、踊って見せるの、桐ちゃんとカーさまにだけだから」

「そうそう、俺らのことは無視だよな」


 そう言いながらカミィが口を開けると、お皿のから揚げがフワフワと口に入っていった。


「カミィ、お行儀わるい」

 桐の声に


「へ、へ、賢いだろ」

 カミィが口をモグモグしながら答えた。


「カーさまに見つかるとまた、怒られるよ」

「こっちの世界では魔法を使っていいんだよ」

「そういう問題?」


 そういいながら京華が楽しそうに、指先で離れたテーブルから琥珀色のボトルを取り寄せた。気に入ったようだ。大人は精霊たちとなにやら熱心に話をしていますから此方を見ていない。

 では、とハクも……指をふって桃のタルトを呼んでみた。魔法を使う時は願いを込めて指を振る。


「うん、美味しい」


 アーモンドの台を重ねてパリッと焼いてあって、キャラメルも美しいきつね色。桃のフレッシュさと焼きのハーモニーが絶妙なこのタルトはシェフの新作だ。

 今日は桃のポタージュが出ていたけどあれも良かった、また食べたいなと思いつつハクがタルトの余韻に浸っていると、


「おーい、ハク行くぞ」

 カミィに声をかけられた。

 いつの間にかパーティは終了したようだ。


 円卓の部屋にはハク達5人と精霊女王の桔梗、夫君の蓮、寛(桐とカミィの父)、駿(桔梗の弟)、渡会先生、精霊の最長老リヨンに、精霊が5人ほど着席していた。

 他の人たちは精霊に送られて帰っていった。


 円卓の上にはコビトが3人、クッションに座っている。寛、駿、渡会先生、のコビトだ。そして、その前にはケーキやお菓子が山のように置いてあった。精霊たちはコビトを見るとお菓子をあげたくなるようだ。コビトは食べる事が大好きなので、ぱくぱくと良く食べる。

 寛たち人間にはコビトが視えないので、お菓子が空中に消えていくように見えている。


「いつみても不思議な光景です」

 渡会先生がお菓子を見ながら言った。


「ああ、そうだな。お菓子が消えていくのが……変な感じだ」

「これって、俺らのコビトが特別、食い意地がはっているってわけではないよ、なぁ?」

 駿の情けなさそうな声に


「コビトたちがたくさん、嬉しそうに食べてくれるのは私たちの喜びです」

「こちらの気持ちをくみとって食べているのではないでしょうか?」

「本当に美味しそうに食べてくれますから」


 精霊たちはとても好意的にコビトの食欲をみているようだ。


「あっちの世界でコビトは飯をくわないぜ」

 カミィが言うのに


「寄生、しているのかもしれない?」

「人と離れられないみたいだし」

「多分、ちょっと違うような気がする……わからないけど」

「そうね。現実世界のコビトはなんとなくだけど、付いている人間と、二つで一つというか、いっしょって感じかしら」

「こっちにくると人から離れられるから、別人格になるって事?」

「うーん、それとも違う、」

「幽体離脱みたいな?」

「そうかも?」


「まぁ、コビトのことは置いといて」

 寛が桔梗のほうをみながら皆の会話をさえぎった。


「そうね。では、本題にはいります」

 桔梗はにっこりと笑うと、円卓に座った皆を見まわした。


 精霊女王の桔梗は、まるで時を止めたみたいに若くてきれいだ。そして、桐によく似ている。

 この二人、よく見るとそっくりだ、カミィと桐ちゃんも似ているけど……とハクが桐と桔梗を見ながら不思議に思っていると


「すでに知っているとは思いますけど、現実世界にマナの吹き溜まりができてしまいました」

 桔梗が話しはじめた。


「困ったことにマナを吸収して、魔法を使える人がいるようなのです。現実世界で魔法を使う事は人にとって負担になるらしくて、魔法を使うとコビトが人に埋まっていき苦しみます。コビトが埋まっていくと人も体調が悪くなります。完全に埋まってしまうとどうなるのかはわかりません」


 旅行をした時に桔梗から生まれてくるマナで各地に吹き溜まりができてしまった。これまでは現実世界で生まれるマナの量が少なかったので、桐やカミィがそのマナを使っていた。ちなみにマナというのは異世界において命の元になる根源の力の事だ。異世界はマナで成り立っている。

 しかし、お腹に赤ちゃんができたせいか、桔梗から生み出されるマナの量がかなり増えて溢れてしまったようだ。桔梗は言われるまで気がつかなかった。


 マナは現実世界の人にとっては無害だ。しかし、ごく稀にマナを取り込める人がいてその人が魔法を使おうとすると使えてしまう。そして、現実世界の人間が魔法を使うとその人に付いているコビトが人の体に食い込んでしまう。コビトは人の体に埋まっていくのをとても嫌がり苦しそうだし、人も体調を崩す。現実世界の人の体は魔法を使うのに適していないようなのだ。


「とりあえず近くのマナ溜まりは魔法玉に変えましたが、各地にできたと思われるマナの吹き溜まりについては僕たち5人で対処します。また、コビトが刺さった人をみつけたら抜いていく、という事になりました」


 と怜が続けた。大人のような話しかたをしている。


「え、何? 聞いてないよ」


 5人で対処と言う話にあわててハクが京華を見たら、ツンと澄ました顔をされてしまう。

 ハクはここのところ、海外から帰ってきた両親にあちこち連れまわされたので、しばらく乙女小路の家に行ってなかった。

 知らなかったのは自分だけか、でも電話してくれてもいいのに、とハクは思った。


「龍君と京華ちゃんのご両親にはもうお話をしてありますので、夏休みの旅行を兼ねて楽しんできてくださいね」

 桔梗の言葉に


「ありがとう。楽しんできます。マナとコビトもきちんと見てきます」

 京華がにこやかに答えた。


「龍君?」

 桔梗がハクのほうを向いて首を傾げたので


「がんばります」

 とハクも答えておいた。


 京華と怜は笑いを抑えた顔をしている。

 そういう事か~、そういえば、変なことも言っていたけど何だったんだろう? とハクがカミィたちとの先ほどの会話を思い出していると


「5人で戦隊を作ろうと思います」

 カミィが真面目な顔で発言した。


 5人で戦隊をつくって何かあった時は戦うという話だった。そして移動に天馬を使うことになった。天馬はたまに精霊国に生まれるが、羽が生えていて、大きさも自由に変えられる不思議な馬型の精霊獣だ。天馬は絆ができればどこへでも現れる。

 テーブルの上に並んでいる白馬はたてがみと尻尾の先が赤、ピンク、蒼、金色、白と5色になったミニチュア馬で小さく首を振ったりしてかわいらしい様子だ。


「えっ、これに乗るの?」

 ハクが天馬を見ると5匹の天馬は寄ってきて、ハクの手にすりすりと体を摺り寄せてきた。 


「わぉ、くすぐったいよ」

「もう、ハクったらタラシなんだから」

 桐があきれたように見ている。


「なんだよ、それ」

「やたら、動物に好かれるよ、ね」

「それは……そうかな」


 ハクと桐がこそこそ話していると


「では、艦隊の司令官は龍くんで決まり、ですね」

 という桔梗の声が聞こえてきた。


「ハク、おめでとう。艦隊の司令官に決定」

「えー、何それ」


 ハクが聞いていない間に話が進んだようで、いずれ来るかもしれない戦いの為の司令官がハク、という事になっていた。


「宇宙を飛べる戦艦をつくったんだ。宇宙戦艦!」

 寛が目を輝かせながら言った。


「パパがどうしても、宇宙戦艦がほしいというから」

 桐がそういうと


「戦艦の名前は『白龍』」

 怜が真面目な顔で言う。皆が楽しそうなので仕方なくハクは流される事にした


 宇宙から『来るべき災厄』が来たら役にたつかもしれない……とは思ったけど、ハクには何かと戦うかもしれないという差し迫った危機感はない。


次回「火の玉、勾玉」

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