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双子のファーストキス競争。後編

後編です!


「……星ちゃん、シェリーを捜してるなら今音楽室にいるよ」

「? なんでシェリーちゃん?」

「え?」

「ん? ……ああ! そういうこと!」


 私とのファーストキス競争の話だと気付いた星奈は瞬いた。

「あ、うん、そうだね、うん」と口ごもる。


「そ、それより! 今日は雷雨みたいだよ。折り畳みの傘ある?」

「ううん、ないよ。でもすぐ上がるから、大丈夫だと思う」

「そうだね、すぐ上がるといいね」


 ぎゅ、と腕に抱き付くように寄り添ってくる星奈と一緒に教室に戻る。

 A組の教室に戻る星奈を見送ったあと、前から来る男子生徒と目が合った。

サッとすぐに視線は斜め下に逸らされる。

 黒髪でキリッとした眼差しをした伊手要(いてかなめ)くん。

同じモンスター部所属でヴァンパイア。A組の生徒。

とてもクールな雰囲気の持ち主だ。


「こんにちは、要くん」

「……」


 挨拶をすれば口を開かないまま要くんは会釈する。


「あの、要くん」

「……なに?」


 私を横切って教室に入ろうとした要くんの袖を掴んで引き留めた。静かな声で、問われる。

 口を開きかけて、私は思い直す。

どう考えても要くんがこの頼み事を聞いてくれるとは思えない。


「ごめん、なんでもない。また昼休みに」

「……そう。また」


 視線を斜め下に落とすと要くんは教室に戻っていった。

 お昼休みは必ず一年のヴァンパイアの生徒が集まり、血液の補給をする。

人間の頸動脈に噛み付いて生き血を啜る代わりに、毎日人工血液を補給する。

 ヴァンパイアは人間の血を飲み、全てを糧に出来る生き物だ。その代用になる栄養ドリンクを開発。

私達は人間の食事とこのドリンクを摂取して育った。ヴァンパイアドリンクで、ヴァンドと呼ばれるようになり、お昼はヴァンドタイムと言う。

 ヴァンパイアは頭脳を生かして、他にも人間の医学に貢献している。それが受け入れられた大きな要因だ。


  ジュゴー。


紙パックにストローを差し込んで吸う。

味はフルーツやチョコをつけているけれど、あまり美味しくはない。

でものど越しがいい。真夏の冷たい水を飲み干すように、真冬に温かいスープを飲むように、満たされる。


「夏奈ぁ……今日変よ。ほんと、どうしたの?」


 二つの校舎を繋ぐ渡り廊下の屋上で、ヴァンドタイム中。

 ヴァンドで真っ赤になった舌で唇を舐めながら、琴姫が聞いてきた。

補給をする時は牙が出るから、琴姫の尖った犬歯も見える。今日はイチゴ味を飲んでるみたいだ。


「ずっと考え事してる。なに考えてるの?」


 琴姫の質問に、他の皆が私に注目した。

同じベンチに座る星奈が代わりに答える。


「別に!! なんでもないよ!」

「星奈に聞いてないけど。なに、星奈も関係する悩み事なのに、夏奈がまだ悩んでるってどういうこと? いつから可愛いお姉ちゃんを悩ませる意地悪な弟になっちゃったわけ?」

「えっ」


 組んだ足に頬杖をすると、琴姫はニヤリと意地悪に笑った。

星奈がびくりと震える。

星奈が私を困らせるわけがない。


「私、そんなに悩んでいるように見える?」


 いつもと変わらず無表情だと思うのに、皆気にしすぎだと話題をずらす。


「普段はぽけーとしたような可愛い顔してるけど、今日は若干眉間に眉が寄って目を細めて考え込んでる」


 琴姫は紙パックを握った手で私を指差して答えた。

 よく見てる。眉間に擦りながら感心した。

リーダーの器と言うべきか、仲間の事をよく見えてくれる。

 琴姫が声をかけたから、屋上のヴァンドタイムが出来た。

人間からすれば人工血液を補給なんてあまりいいものではないし食事中なら尚更、人目につかないところで飲む。だから琴姫はお昼休みはヴァンパイアメンバーで過ごそうと誘って、それで集まった。

 まぁ、一部は飲み干すとシェリーのお弁当のおこぼれを食べにいくけれど。

 琴姫は素敵な子だ。

こんな子がキスしたいと思う相手って誰だろう。


「悩んでるなら、聞く」


 柵に寄り掛かりヴァンドを飲んでいた要くんが言ってくれた。


「君なら、仲間が悩んでいると気付いたら、すぐに聞くでしょ」

「まぁ、鈍感だから気付きにくいけど。見て見ぬふりを絶対にしないのが、夏奈だ。昨日だってなにか言いたげだったエルに気付いて、メモを渡してたでしょ」


 要くんと琴姫は私の長所を教えてくれる。

そんな長所があるとは知らなかった。

 いきなり振られたエルは、ぎょっとした表情をするけれど、ストローをくわえたまま首を縦に振り肯定してくれた。


「夏奈と星奈は二人で完璧な双子って感じだけれど、自分で解決できないこともあるし、二人にはあたし達友だちがいるんだから頼りなさい」


 ヴァンドを飲み終えた琴姫は、五メートルほど離れた校舎の入り口にあるゴミ箱を見もせずに投げ入れる。

 本当に、頼もしい人。

素晴らしすぎて、男性には手が届かない高嶺の花。

彼女が声をかけてくれなかったら、私も星奈もここにはいない。

彼女の特別さに、感心してしまう。


「……私が男なら、琴姫とキスしたいと思うだろうな」

「は?」


 うっかり口にしてしまい、流石の琴姫も目を丸める。

綺麗な顔の琴姫のその表情は可愛らしい。

 隣で星奈と床に座るエルが吹き出して、柵にいる要くんが噎せた。

その反応は私の唐突な発言のせいか、それとも男性は違う意見なのか。琴姫にはキスしたいとは思わない?

まぁ、琴姫は異性に容赦ないから……。


「なーぁに話してるの? いーれて」


 そこに現れたのは、ヴァンドを片手に持つ獅音会長だった。

琴姫の真後ろに現れ、肩に手を置くものだから、一瞬で笑みが消えて琴姫が不機嫌な顔に変わる。

次の瞬間、組まれていた足は振り上げられ、獅音会長の顔に飛んでいく。

 間一髪、獅音会長はその場から飛び退いて避けた。

慌ててエルは避難する。


「フフフッ、君が入学して一ヶ月経った……。もう君の攻撃は見切った!」

「ふぅん? これ取られてるのに?」

「……あっ!?」


 勝ち誇った様子で笑う獅音会長だったが、琴姫の手には獅音会長が手にしていたはずのヴァンド。蹴りは避けられたが、ヴァンドを奪われたことには気付かなかったらしい。

 琴姫は奪い返して見ろと言わんばかりに、ヴァンドを差し出す。

獅音会長はその挑発に乗ったと言わんばかりに屈んだ。

 一瞬の内に獅音会長は琴姫の目の前に現れ、ヴァンドを掴む。

しかしほぼ同時に琴姫の膝が溝に入れられた。

 獅音会長はその場に踞り、勝者は琴姫に決まった。



「ふん、軟弱会長があたしに勝とうなんざ、百年早いわ。一回生まれ変わってきなさい」


 仁王立ちで見下す琴姫。

獅音会長はどう足掻いても琴姫には勝てないと思う。

「そこまで出直さなきゃだめなの!? 琴姫ちゃんとの差はそんなにあるの!?」

「ちゃん付けするな!」

「顔を踏み潰そうとしないで!!」


 うっかり琴姫をちゃん付けするものだから、ラウンド2が開始された。

ちゃん付けは私もシェリーも許可されていない。嫌いらしい。

 星奈は私の手を引っ張ると校舎の中に戻った。

「ふー、危なかった」と胸を撫で下ろす。


「……星ちゃんなら、どの男の子とキスしたい?」

「……はっ?」


 星奈が女の子だったら、誰とキスしたいかを聞いたら、青ざめられてしまった。……あれ。


「星ちゃんなら、私のキスの相手は誰がいいと思う?」


 質問を変えてみた。


「誰もいない!!」


 全力で断言されてしまう。


「あ、いや……えーと……」


 声を出しすぎたと星奈は反省して俯く。それから口ごもる。


「……その……ぼ……ぼく」


 俯いた星奈は頬を赤らめながらなにかを言いかけたけれど、近付く足音に気付いて二人で振り返る。

ネクタイを整える獅音会長だ。


「姫ちゃんってば足早すぎ。星奈くんに用があったのに、忘れるとこだったよぉ。生徒会の仕事、やろー」

「え? 今?」

「そう、いーま。借りるね、またね夏奈ちゃん」


 爽やかに笑って、獅音会長は星奈の襟を掴んで連行した。

 生徒会の書記を引き継いだばかりの星奈は、こんな感じにいつも引っ張りだこ。

 手を振り見送ってから、私は教室に戻るため一人廊下を歩く。


「霧島さん、やぁ」

「どうも、吉丸先生」


 前から教材を抱えて来るのは、養護教論の吉丸六幻(よしまるむげん)先生だ。

 養護教論なのに、歴史の教材を抱えている。多分、歴史の先生にまた押し付けられたのだろう。歴史の先生は先輩らしく、頭を上がらずなにかとコキ使われている。

 つり目だけれど、にこりと優しげに微笑む人。先輩に押し付けられてしまうくらい気が弱いけれど、生徒に優しい人だ。


「私がそれを片付けますよ」

「いいのかい? とても助かるよ! まだヴァンドを飲んでなくて……本当にありがとう」

「いいえ、どういたしまして」


 吉丸先生は心の底から嬉しそうに微笑みを溢す。

ちょっと大袈裟だと思いながら、箱を受け取った。

 ヴァンドを飲んでいないなら尚更だ。吉丸先生は軽い足取りで廊下を歩いていく。

見送ると吉丸先生とすれ違って要くんが来た。


「……吉丸先生に押し付けられたの?」

「え? 違うよ」

「あの人は君の優しさに漬け込んでるんだ」


 足を止めて要くんは吉丸先生を見据える。普段から鋭い目付きだから、ちょっと睨んでいるようで怖い。


「俺が片付ける」

「ううん、私が……あ」


 要くんは私の抱えた箱をすぐに奪い取り、準備室に持って歩いた。

私が引き受けたのに、悪い。

だからついていって、手を塞がった彼のためにドアを開けた。


「……それで。……なに悩んでるの?」


 中に箱を置くと、要くんが口を開いた。

琴姫が言うから、要くんも気にしてしまったらしい。


「俺では頼りにはならないと言うこと?」

「……ううん、そうじゃないよ」


 躊躇していたら、要くんは不服そうにしかめてしまう。

首を振り、私は準備室のドアを閉める。

 こんなにも気にされては、大したことないと白状した方がいい。


「あの、ね……」

「……うん?」


 準備室に私と要くんの声が静かに響く。

窓辺に腰掛けて、要くんは見据えてくる。

 ちょっと緊張が増してしまった。

要くんは真剣に見つめてくるから、悩みの内容に恥ずかしさを覚えてしまう。

余計に言いにくい。


「……霧島」


 また要くんは静かな声で私を急かした。

普段は冷たい印象だけれど、心は冷たくはない。

こんなにも気遣ってくれている。

 本当に大した悩みではないと白状しないといけない。


「その、キ――――……」


 要くんに歩み寄り、言いかけて私は気付く。宙に霧が渦巻いている。


「夏ちゃんっ!!」


 その霧から姿を現したのは星奈で、私に突進してきた。

 霧になり隙間さえあればどこへでも移動が出来る能力だ。

ヴァンパイアの能力を使うなんて、緊急事態なのかと驚く。


「会いたかったよー」

「……離れて五分も経ってない」

「一秒離れてるだけでも、寂しさが募るんだ」

「……そう」


 両腕で力一杯に抱き締めながら、窓辺の要くんと離れようとするから、多分また妨害だ。


「生徒会の用事は?」

「会長がすべき仕事だったし、嫌な予感がし……じゃなくて、会長一人で大丈夫みたいだから教室まで送るよ!」


 星奈は私を抱き締めたまま準備室から押し出す。

窓辺の要くんは腕を組んでそっぽを向いていた。不機嫌な様子。あとで謝っておこう。

 廊下を出てからは手を繋いで歩いた。

星奈の背中を見つめながら、能力について考える。

ヴァンパイアが皆能力を使えるわけではない。

霧の能力は私の一族が使えるもの。

でも、私は、何度星奈に教えてもらっても、使えない。

 口にしないけれど、星奈はモンスター部を続けることには反対している。

霧の能力が使えれば身を守るけれど、それができない。

 星奈はいつも心配してくれている。今まで二人で問題を解決してきたけれど、星奈が解決してくれていたようなものだった。

私は、自分で解決できるようにならなくちゃ。

 誰かとキスすることで、出来る弟離れができた証明にはならないけど、小さな一歩にはなる。




「……キスの件から随分と脱線してきた……」


 思考が妙な方に進んだ。

一体何故キスがしてみたい願望から、弟離れをする一歩という話になったのだろう。

 放課後、一人でお手洗いから出てきて思わず呟いてしまう。

背後に気配がして振り返れば、目を丸めた獅音会長。


「え。キスって……なに? 誰かとしたの? 星奈くんと修羅場中なの?」

「…………すみません、言っている意味がよく……」


 愛らしい顔を深刻そうにしかめて問い詰めてくるけれど、聞きたいことがよくわからない。

 要くん達のように誤解しないように、星奈に話したようにファーストキスを経験済みのクラスメイトとキス友の話から簡潔に説明した。


「ファーストキスまだなの? うわーかっわいいねぇー」


 やっぱり獅音会長は経験豊富らしく、私をクスクスと笑う。


「ま、君達はまだ高一だもんね。初々しいレディー達が愛しいなぁ」


 ぷにぷにと言いながら獅音会長が私の頬を人差し指でつつく。

一つ、誤解している。


「会長。琴姫だけは経験済みです」

「…………えっ……」


 "レディー達"に、シェリーと琴姫が含まれているとわかったので言っておく。

獅音会長が固まった。

 あ、女子だけで話したことを、異性に明かすべきじゃなかったかもしれない。

特に琴姫のことを、獅音会長に言うのはよくない。喧嘩の原因になってしまう。

うっかりしていた。


「…………え、誰? 相手、誰? あの琴姫ちゃんとキスできる強者って、一体全体何者? え、琴姫ちゃん、恋人いるの? 聞いてないけど。あの琴姫ちゃんが、なんでキスしたの? どんな状況に追い込まれたらそうなるの?」

「えーと……」

「俺に触られただけで蹴ろうとするあの琴姫ちゃんだよ? 一体どんな男が釣り合うの? ていうか釣り合うような男が存在するの? どんな男なら彼女をものにできるわけ?」


 まるでこの世で一番不可解な謎に直面したかのように、困惑する獅音会長の言葉が止まらない。

私が口を挟む隙がなかった。

 琴姫ちゃんのファーストキスの相手は、泥酔した兄であって恋人ではない。

泥酔した兄が帰ってくるなり抱き締めて、それからキスしてきたから徹底的に痛め付けたら、二度と酔って帰ってくることはなくなったらしい。

 琴姫は恋人がいない。

でも確かに琴姫と恋人同士になる相手は、誰なのか気になる。


「…………キス、する?」


 琴姫に釣り合う異性を想像していたら、獅音会長が首を傾げて覗いてきた。


「教えてあげるよ……? 夏奈ちゃん」


 また私を両腕に挟むようにして、獅音会長は壁に手をついて囁く。


「夏奈に触れたら、どうなるか……教えてあげましょうか? 会長」


 そんな会長の背後に腕を組んで立つ琴姫が、冷笑を浮かべながら告げた。

凍り付いたように固まった会長は、呼吸すら止める。


「教えてほしいですか?」


 琴姫が背中をなぞったらしく、獅音会長は震え上がって私から離れた。

背中は獅音会長の弱点らしい。


「あ、あは……琴姫ちゃんってば……嫉妬してるの?」

「……」


 会長のその発言は、地雷を踏んだらしい。

琴姫から笑みが消え、見下すような眼差しを向けた。これは本気で怒った兆候だ。

 青ざめて震え上がる獅音会長は、初対面で彼女を怒らせたにも関わらず未だに学習しないのは何故だろう。


  ドォンゴロゴロッ!!


 琴姫が校内で暴れ始めようとした瞬間、怒号のような雷が鳴り響いた。

窓を見ればいつの間にか、明るかった空が暗くなっていて、ピカッと光ってはまた雷鳴が轟く。

 バケツをひっくり返したような雨が降り始めると、琴姫も獅音会長もB組の教室を振り返った。


「シェリー!!」

「シェリーちゃん!!」


 二人は同時に名を呼ぶ彼女の元へと走り出す。

 シェリーは雷が苦手。

数週間前の雷雨の日、すごく怯えていた。

 私も教室に戻ると、すでにシェリーは琴姫達に囲まれていて、寄り添う隙間もない。

 耳を押さえて震えているシェリーの気を紛れるような提案をして、鷲島くん達が奮闘していた。

 琴姫も獅音会長も優しく声をかけている。

 その中に星奈もいて、シェリーの手を握り締めて笑いかけていた。


「みんな、本当に、大丈夫だよ」

「無理しないで、シェリーちゃん。昔は夏ちゃんも雷怖がってたんだ」

「夏奈ちゃんに怖いものあるんだ……」

「うん、たくさんあったよ。でももう雷は克服したんだ。怖がってる時、僕が笑って話し掛ければ、夏ちゃん笑い返してくれたんだ」

「……星奈くんの笑顔は、人を笑顔にしてくれるからだよ」


 にっこりと笑いかける星奈に、誰かのヘッドフォンをつけて俯いていたシェリーが微笑み返す。

少し、楽になったみたいだ。

 私は少し離れた席に座って、見守ることにした。

雷が次第に離れていくとシェリーは、鷲島くん達と談笑することが出来るようになった。よかった。

 まだ雨が降り注いでいるけれど、他の生徒は帰り始めたり部活に向かって教室を出る。


「ねーねー、夏ちゃん!」


 シェリーから離れた星奈が笑顔で私の元まで来た。

片手には星奈の折り畳み傘。

私の手を引っ張って、教室から飛び出す。どこにいくのかと首を傾げながらついていくと、ヴァンドタイムを過ごした屋上に着いた。

 勿論、屋上だから雨が降り注いでいる。でも少しだけ雲が晴れていて、明るかった。

折り畳み傘を開くと私と腕を組んで、お昼に座っていたベンチのところまで歩いていく。


「ほら、見て、夏ちゃん」


 指差す方を見ると、雨雲の空。

でも、そこには大きな虹があった。その大きな虹の上には、一回り小さな虹がある。二つの虹だ。

 反対側は雲が晴れているけれど雨が降り注いでいるから、虹が二つも見える。


「わー……」

「すごいよね! 二重の虹、双子虹って言うんだよ! 幸運だって」


 にこっ、と笑いかけて星奈は虹を見つめる。

そんな弟の横顔を見てから、また私は虹を見てみた。

 下には下校する生徒が傘を差して歩いている姿があるけれど、虹には気付いていないのか、誰も上を見ていない。

私と星奈だけが、虹を見ている。


「幸運の虹なら……シェリーを連れてくればよかったのに……」

「え?」

「虹を見ながら、キスって……とてもロマンチック」


 シェリーを連れてきたら、恋人関係になれたかもしれない。

私を連れてきちゃう星奈にポツリと言うけど、私は星奈と見れてとても嬉しかった。


「――――…じゃあ、僕とキスする?」


 その言葉に目を丸めて星奈に目を向けたら、顔を赤くしながら私を見ている。


「僕は……夏奈とキスしたい。何度考えても、ファーストキスは夏奈としたいな……僕じゃ、だめ?」


 寄り添った距離で、雨粒が叩く傘の下で、星奈は問う。


「夏奈は……僕と――――キスしたい?」


 じっと見つめてくる星奈と、ファーストキス。


「うん……したい」


 私にとっても、星奈はキスしたい素敵な異性。

だから、頷いた。

不安げだった星奈が笑顔になるから、私もつられて笑う。


「夏奈……大好きだよ」

「私も大好きだよ、星奈」


 そっと顔を近付ける星奈と、大好きだと告げ合った。

前髪が触れ合い、鼻が触れる。

あとは、唇だけ。だった。

 けれども扉からモンスター部と生徒会長が雪崩落ちてきたから、私も星奈も振り返る。


「うわっ、ちょ、濡れた!」

「重いし、退けよ!」


 シェリー以外、追いかけた来たみたいだ。

一番下に下敷きになった獅音会長は制服が汚れたと怒って、鷲島くん達を押し飛ばす。


「な、なにしてんの!?」


 真っ赤になって星奈が問い詰めれば、雪崩に巻き込まれなかった琴姫が扉に寄り掛かりニヤリと笑う。


「みんな、夏奈が心配で見に来たの。悩み事は解決した? どうぞ、今すぐ解決してくれてもいいのよー?」

「み、見るなー!! コラー!」

「うわっ逃げろ! 星奈が怒った!」


 琴姫以外もニヤニヤと笑ってこちらを見るから、恥ずかしさで真っ赤になった星奈は向かっていった。

 獅音会長達は笑いながら廊下を走って逃げるから、追い掛けていってしまう。

 いつの間にか雨は上がっていたので、押し付けられた傘を畳む。振り返っても、双子虹がなかった。


「あたしも男だったら、夏奈とキスしたいよ」


 つん、と右頬を指先でつついてきたのは琴姫だ。

ニッと笑いかける笑みは、とても無邪気だった。

「ありがとう」と返しておく。


「で? 大好きな弟にファーストキスあげちゃうの?」

「……うん。今のところ弟より、素敵な異性がいないから」

「ブラコンね」

「……そうかな?」

「鈍感」


 クスクスと笑いながら校内に戻る琴姫のあとに続いた。

 ファーストキス競争は引き分けでおしまい。

最高に素敵な異性である星奈にファーストキスをあげる。互いに経験するから、引き分けだ。

 やっぱりキスしたい相手は、大好きな相手がいいよね。



end


海外では女の子は同性の友だちとキスの練習するそうです。

ちょっとグダグダ感が拭えませんね(笑)

このメンバーで、青春しているほのぼの学園生活が書きたいと思い、ついつい詰め込み過ぎてしまいました!


以上、ラブラブな双子と巻き込まれた仲間のお話!

お付き合いいただきありがとうございました!

お粗末様です!


20140603



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