第六話
悠は鉛のように重い脚を必死に動かして学校に向かっていた。
脚が重いのはいつもの事だが、実は小鷹の件で3日間の停学になっていたのだ。
だから学校は避けて通りたい道なのだが高校は待ってはくれない。
ましてや逃げ道など用意されている筈もない。
唯一の逃げ道は、退学することだけだ。
義務教育でない高校は、こぼれ落ちた生徒を無情に、そして容赦なく切り捨てる。
それが現実だ。
悠のなかでぐるぐると何かが渦巻いているうちに学校に着いてしまった。
瞳のことでからかわれるのは慣れている。
だが…停学していた事で何言われるのか分からないのは不安だ。
そう思った矢先声が聞こえてきた。
「ねぇ、あれってクジョーじゃね?」
「マジで?つかあいつ辞めたんじゃないんだぁ」
3人組みの女子達がクスクスと笑いながら学校に入っていった。
行きたくない…
でも行かないと…
違う。この道は俺自身が選んだ道なんだ。
そう俺が決めたことなんだ。
でも、どうしたらいい?
ふと春子の姿を思い出した。
おばさんは俺なんかのために一生懸命だった。俺はそれに答える義務がある。
すると男の言葉を思い出した。
"お前のように"右目が蒼いからからかわれるんだ"なんて逃げたりしないんだよ"
"現にお前は自分の気持ちを春子に伝えてないじゃないか"
おとこはすべてを知っていた。
"それがお前の進む道なんだよ"
あの男はやっぱり分かっていたんだな。
"過去"のことも"未来"のこともすべて。
いいさ。やってやる――
俺は高校という名の戦場で戦ってやる。
そして勝ってやる!!
そう決意し、悠は一歩を踏み出した。
なぜかその一歩は思ったより軽かった。