第四話
男は走っていた。
何もない。右も左も分からないまっさらな空間。
何かに追われている……いや、それでは語弊があるだろう。
追われてるのか、追っているのかすら分からず、ただ走り続けている。
しかし何もない。
足を素早く動かし、手を大きく振り続け、確かに疲れている。
だが進んでいるのかすら確認のしようがない。
もはや地獄といっても過言ではないだろう。
この空間に常識は通用しないのか?
まず、男以外に人はいない。常識自体が存在しないのだろう。
だからこの空間(ここが何の空間か分からない為平行空間と呼ぶことにしよう)に上下関係は存在しないのだろう。
つまりここには総てが無にかえるのだ。
そして男は気付く。
ここは自分自身の闇が作り出した空間なのだと。
いつかに望んだ世界なのだと。
光と闇の差は紙一重なのだ。
悪い人間に善い事をさせても悪い方向にいくことがある。
それは悪に何を施したところで悪が変わらなけらば所詮は悪。
悪は悪でしか変えることは出来ない。
善と悪の両者が理解しあうなんてありえない。
と、この平行空間は訴えていた。
しかし男は異議をとなえた。
光には闇が必要で、闇もまた光が必要なのだと言った。
光があるから闇は暗い。逆に闇があるから光は明るい。
双方存在してこそお互いの存在価値が生まれるのだ。
どちらかが欠けることなどあってはならない。
善だって同じだ。善があるから悪は悪い。悪があるから善は善い。
互いの調和バランスを保ってこそ、世の中は成り立つ。
と、男は訴えていた。
平行空間は男にこう言った。
では勝負をしよう――
もしお前の言うとおり光と闇。善と悪の調和がとれていたならばお前の勝ちだ。
我を好きにするがよい。
だが、もし双方の調和がとれていないとあれば我の勝ちだ。
お前は地獄を見ることとなるであろう。
すると男はこう言った。
良いだろう。受けて立つ。
決して負け戦にするつもりはない。
そして勝ってあんたに何でも言うことを聞いてもらう。
そして二人の戦いははじまった――。