第三話
息を切らしながらこちらを睨みつけている。
鈍い音の響きと共に発せられた声。
敵意剥き出しの視線の先には悠をとらえていた。
彼は体中痣や傷だらけだった。
彼が小鷹隼人君だろう。
「ちょっとからかってやろうと思っただけなのに……こいつ俺のこと殴りやがったんだ!」
「違う!!」
俺はただ…
勢いで声を発してしまった。
もう続けるしかないだろう。
「小鷹は俺の瞳だけじゃなく、母さんを侮辱したんだ!それが許せなかった。だから殴ろうと思った……でも」
悠は口ごもってしまった。
こんなところで口ごもるなんて、まるで俺がやったのを必死にごまかそうとしてるみたいじゃんか…。
こんな時、何て言えばいいのだろう?
「杉田ぁ。どうした?」
署に帰ってきた杉田がうかない顔をしていたものだから、心配になり片岡が声をかけてきた。
「"課長"……どうにもこうにも……どうしてあげたら良いんですかね」
――普段杉田は課長に相談しないんだが…そうとう参ってるみたいだな。
片岡は深刻な顔をして聴いた。
「何があった?話してみろ」
「あ、はい――」
杉田は悠と小鷹のことを順に話した。
「右目が蒼い子をからかって、ねぇ……」
「どうして瞳の色が違うだけで苦しまなきゃいけないんですか?」
"あの子"がこんな…。
「そりゃおめぇ、人がみんなお前みたいなのだったら世の中つまらんだろ?」
「はい?」
「つまりだな。いろいろな人間がいるから世の中成り立ってんようなもんだろ?」
「それはどういう……」
「そういうことだ。ちったぁ自分で考えろ」
そう言い残し片岡が去ったあと小声で呟いた。
「考えろって…分からないから聞いてるのですが…」
杉田の呟きを聞いていた同僚達は静かに笑っていた。