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第二話

朝、クラスに入ると、クラスメイトから笑顔で『おはよう』と挨拶(あいさつ)されたり、

馴れ馴れしく肩を組まれたりする……筈もなく、それは非難の眼差しだった。

その視線だけで、彼らが何を考えているのか大体の見当は付く。


そのときの悠の頭の中には春子が言った一言が残っていた。


――いじめる子って不幸なのよ。


不幸?

そんなわけないじゃんか。

いじめてくる奴らは俺を楽しそうに笑いながらからかってくるんだ。

楽しくやっているのにどうして不幸なんだよ!!


そう考えることしか出来なくて、結局いつもの様に過ごした。

誰とも話さず、担任にさえ声をかけてもらえない現実だけが叩きつけられた。


――どうせ俺なんて――



春子は朝の洗濯を済ませ、部屋の掃除をしていた。

その日は少しだけ簡単に掃除を済ませた。

これから友人とお茶をしに行くのだ。

相手を待たせるわけにはいかない。


外出準備を整えたときに電話が鳴った。


「はい、神崎です――」



春子が学校に着いた頃には、もうすでに相手の母親も着いていた。春子を見かけると、(にら)みつけるように見た。


「神崎さんですか?こちらに」


女性教師が示した場所には、《取調室》と書かれた紙が貼ってあった。


取調室――!?


「あの……」


女性教師は春子が言いたいことを察したらしく、少し顔を伏せて言った。


「あぁ……この部屋は元々相談室だったのですが……。問題が多発していて、取調室に……」


学校に取調室なんて……

それにどうして悠が?


納得できない春子を他所に教師は取調室の扉をあけた。

そこには悠と、警察と思われる男性がいた。


この男性(ひと)どっかで……。


「九条君の保護者の方ですか?」


春子は考えるのをやめた。

今は悠が心配だからだ。


「はい」


「南署の杉田です。どうぞこちらへ」


促されるまま悠の隣に腰を掛け杉田と向かい合う形になった。



「えー…まず状況を保護者の方にお話するのが先ですね」


そう言いながら、手元にある殆ど一筆書きのメモに目をやっていた。


「これは先生方から伺った話なのですが、休み時間、10分位の休み時間にですね。

隣のクラスの小鷹隼人(こだかはやと)君が、悠君に暴力されたと先生に訴えて、わたくし警察が呼ばれたんです」


「俺じゃない。俺はやってない」


いつになく真剣な眼差し…いや、すがるような眼差しの悠を見た。


その時、春子はもしかしたら…と悠を疑ったことを後悔した。


(このこ)は絶対にやっていません!」


彼女の一言は確信を得ていた。

すると杉田がすこし微笑(わら)った気がした。気のせいかもしれないが。


「しかしですね…お母さん、しっかりと調査してみないことには、はっきりしないんですよ」


「刑事さん、悠はやっていないから、"やっていない"と言っているんです。それを信じてやれなくて何が親ですか!」


「お気持ちは分かりますが、それが悠君の無実の証明にもなるんですよ」


「おばさん……」


小さい声で(つぶや)いた言葉を春子は聞き逃さなかった。


――俺なんかの為にありがとう――


悠がはじめて見せた笑顔に、春子はほっとした。笑顔を見せてくれたのだ。それだけでもう親は何だってする。


その時だった。


取調室の扉が勢い良く開けられ、鈍い音が響き渡った。


「そいつが俺を殴りやがったんだよ!!」


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