第一話
高校生の九条悠は幼い頃から心を閉ざしてきた。
原因はその容姿だった。
右目だけ蒼かった。ただそれだけで…
散々周囲にからかわれてきた彼は、自分から誰かと関わることはしなかった。死にたいとさえ思った。
それでも彼が一線を越えないでいられたのは、彼の伯母であり、育ての親でもある神崎春子のおかげである。
彼女の計り知れぬ努力によって今の彼は救われているのだ。
春子はいつも優しく接し、温かく見守っていた。
しかし、悠はそれが見返りを求めない愛情なのだと理解できずにいたのだ。
「あ、悠おかえり」
悠が高校から帰ってくると、必ず春子が笑顔で迎える。
悠はなぜ面白くないのに笑っているのかを疑問に思っている。
「ただいま…」
素っ気なくそう返すだけだが、どう返したら良いのか分からない悠には精一杯の一言で、春子もそれは分かっている。
最近やっと少しずつコミュニケーションがとれるようになったのだ。
しかし
「悠、夕飯食べるでしょう?」
「うん」
会話は長続きしなかった。いや、させる必要がなかったと言った方がこの場合は妥当だろう。
必要な時は悠の方から話しかけて来るようになりつつあったからだ。
「おばさん……」
静かに、そして悲しそうに言った。
春子には想像がついていた。
また瞳のことで周りにからかわれたのだろう。それで悪くもないのに自分を責めている。
「悠。わたしね、小さい頃近所の子達にいじめられていたの」
「何?急に」
春子はお構いなしに続けた。
「でもね、ふと気がつくとその子達と友達になっていたのよ。どうしてかわかる?」
「……」
「わたしにも分からないの」
「え?」
「心当たりがないわけじゃないんだけどね」
「心当たり……?」
悠とこんなに会話が続いているのは初めてだった。
「そう。わたしが学校でいじめられて泣いて帰ったら、私のお母さん――あなたのおばあちゃんに言われたの。『いじめる子って言い方悪いかも知れないけれど、不幸なのよ。だから、いじめる子達を不幸にしてくださいって祈るんじゃなくて、幸せにしてくださいってお祈りするの。そうすればきっと良い方向に向かって行く筈だから』って言われたの。だから毎朝お祈りしたの。そうしたら自然と仲良くなれたのよ」
「仲良く……」
悠にどう感じたかは分からない。
「そう!悠なら大丈夫よ!!」
――俺は大丈夫なのか?本当に……?――




