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第十五話


春子から語られた父と母。

しかし悠はあまり驚かなかった。

それは程両親との思い出がないのだ。

でも決してないわけではない。

あまり覚えていないが、夢でみた両親――――。

それが唯一目にすることができた両親の姿。

きっとこれは思い出の有無に関わらず少年の心の中に残り続けるだろう。


「ありがとう。俺を育ててくれて」


そう、悠は彼女のおかげで成長することができた。

以前は続かなかった会話。

それが続くようになり、素直になることもできた。

すべて彼女の計り知れぬ努力のおかげだ。


「そんなこと親代わりなんだから当然よ」


春子は照れたように言った。


「おばさんは『親代わり』なんかじゃないよ」


「え?」


「おばさん……春子さんは俺の母さんだよ」


悠もまた照れたように言った。


「――――っ」


悠が笑顔でそう言うと、春子は思わずうれし涙を零した。


「ありがとう悠。だも、わたしはあくまでおばだよ。だから……」


彼女は、拳を胸の前で握った。


――――あなたの母は、夏子よ。どうしようもない子だけれど、あなたの母よ。


「それでも…。俺を産んでくれたのは母さんだ。でも育ててくれたのは春子さんだ。それじゃダメかな?」


「悠……?」


悠の声は少し震えていた。

やっぱり悠は夏子の息子だね。強がって、強がって、隠し切れなくなって…。

それでも一生懸命なところがそっくりよ。

強くなろうとしてくれているのよね。

強くなりたいから、母親という原動力を求めている。

あるいは、自分の居場所を作り安心するためか。

いずれにせよ悠が選ぶ道だ。


「悠はこんなわたしを『母さん』と呼んでくれるの?」


「春子さんだから呼ぶんだ」


選らんだ道を自由に歩ませてやりたいという彼女の思いは彼に伝わっただろうか。


ここまで成長してきた悠はこれからもさらに成長していくだろう。

そしておのずと周りも変わってくるはず。

これからももっと悠にとって善き理解者が周りに集まり、きっと世界観も変わるだろう。

そんな日がもしかしたらもうすぐ近くに来ているかもしれない。

それまで彼女は少年の親としてたくさんの愛情をそそいでいこうと思っている。

彼女がそう決意し、悠の肩を抱くと、悠は心地よさそうに目を閉じ、少し暖かい冬の風を感じていた。




春子はそっと自分の息子の頭を撫でた。




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