第十四話
以前あとがきで悠の過去編が終わったと書きましたが、ストーリー上再び過去編に突入することになりました。
ごめんなさい。
「そう…」
俺は見たことをすべて話した。
おばさん教えて。
両親のこと、知りたいことすべて。
すると春子は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
「夢に出てきたのは、本当の両親よ。杉田さんとも親しくしていたの」
「じゃあ……」
悠の言葉に対し頷き、続けた。
「夏子と司さん…あなたの両親はあなたの右目をひどく気にしていたの。とくに夏子さんはね。
それで口論になった――――」
「ねぇ、あなた。その子施設に預けない?」
そう切り出したのは夏子だった。
「どうして?」
「だってその子も右目が……」
「蒼いから施設に預けるのかい?」
司から目をそらし、気まずげに話した夏子がのみこんだ言葉を、司が続けた。
「……」
彼女は黙っていた。
司はそんな彼女に苛立ったように言う。
「それだけの理由で施設に入れたりしない」
「でもその子は…!」
その一言にため息をつく。
「悠は僕たちの子だよ。この名前も夏子がつけたなまえだろう。なのに“この子”なんてまるで息子ではないと言っているみたいじゃないか」
「……ッ!?」
夏子は目を見開いた。
「ち…違うわ!!」
否定した。しかし苦しまぎれの否定だった。
「僕は悠の父親で、夏子は母親だ。この先きっと辛い思いをする。そんな時、助けてやれるのは僕たちだけなんだよ?だから施設に預けたりなんてしない。悠を一人になんてしない。ちゃんとこの家から幼稚園、小学校、中学校、高校、大学にまで行かせてあげたいんだ」
「あなた……」
その司の気持ちで夏子は施設に預けることを一度あきらめた。
だが――――
悠を公園で遊ばせていると、近所のおばさんが夏子に近づいてきた。
「あんたえらいわねぇ。周りを気にせずに子供を遊ばせてあげるなんて。わたしにはできないわ。
悠ちゃんのためにがんばり」
きっとそのおばさんは少しも悪気がなかったわけではないと思う。
しかし、それが夏子にはすべて悪意に感じていた。
それから悠を外に遊びに行かせることはなかった。
それからだった。夏子が壊れ始めたのは。
その日は雨が降っていた。
「ねぇ――――あなた」




