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第九話

【ピリリリリ…】


悠の帰りを待つ春子は、電話の音にさえ肩を震わせた。

案の定、学校からの電話だった。


「…はい…」


『あ、こんにちは。南署の杉田です』


その声を聞いたとき、春子は無意識にほっと胸を撫で下ろした。


「こんにちは。先日はどうもすみません」


『いえ、こちらこそ力不足で申し訳ないです』


杉田が電話越しに頭を下げているのが想像できた。


「杉田さんが悠の為に頑張ってくださっている、それだけで救われていますよ」


『そう言って頂けるとやっぱり嬉しいですね。わたしには"彼"との約束がありますので…』


「え?」


――"彼"とは誰だろう?


『あ、いえこの話はいずれゆっくりしましょう。それより、悠君が笑ってくれましたよ』


「え?」


春子は杉田が何を言っているのか分からなかった。


『悠君は殴ったりなんてしていません。だから何も悪くないんです』


それからしばらく経って、ようやく理解できた。


「本当に…悠は――?」


『はい無実です』


春子はその言葉を待っていたかのように涙を流した。


「ありがとうございます!!杉田さんには感謝してもしきれません」


"悠が無実"ということは確信していた。

だが、やはり誰かに無実だと言われるのは、いくら確信していても、ほっとしてしまう。


『わたしは当然のことをしたまでです。俺は、悠君の瞳の色が違うだけでいじめられたり、からかわれたりして苦しんでいるのを放ってはおけません。一人ひとりの心を変えなければ、世間の心なんて変えられない。と思っています』


春子は共感した。

確かにその通りなのだ。

悠は悪くない。

だけど、瞳の色が人と違うから…蒼いからという理由だけで悠は傷つけられてきた。

それを春子は知っていた。

当然彼自身も理解している。なのに彼は何も言わない。

以前春子は気になっていた。そして気付いた。

"言えない"のだと。

そして軽蔑されることに対して慣れてしまった。

だから誰にも胸の内を明かさない。

慣れるはずのない苦しみに慣れてしまったからだ、と。

それに気付いたのは最近だった。


春子は彼の蒼い瞳は個性だと思っている。

だから個性を大切だと思っている彼女には少しずつだが心を開いてくれている。

その証拠に、最近の二人はよく話をする。

これは紛れもなく春子のおかげだ。

だが、春子はそんな事を誇るわけでもない。

一歩引いたところから、悠を支えている。

これが母親のあり方だと彼女は考えているからだ。


昔から彼女は甥である悠を息子のように愛していた。

そもそも春子が悠を育て始めたのは悠が7歳の頃からだ――



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