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命日の夜  作者: 焔氷水
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身代わり、そして……

 月明かりに露になったのは水を含み膨れ上がった青白い両手。

 その腕はにょろにょろと蛇がのたうつように曲がりくねる。

 やばい。これは絶対にやばい。

 急いで千佳はその場から離れる。

 脳が、体が、全ての感覚が警鈴を打ち鳴らす。

 急いでこの場を離れなければ命がない!

 千佳の直感がそう告げる。

 千佳は即座にジョンを抱きかかえ部屋の端に移動する。

 部屋の端に居れば腕は届かない。そう思ったからだ。

 だが、それがいけなかった。

「キコエタ……ソッチニイルノネ、チカチャン」

 声は嘲笑うように言うと、曲がりくねる二本の腕はすーっとさらに伸びる。

 蛇がエモノに飛び掛るように真っ直ぐに向かってくる。

「そ、そんな……い、いや……おとうさんっ、おかあさんっ、助けてぇぇぇぇ!」

 千佳の声は空しく部屋に響くだけだった。どうあがいても今日は両親は帰ってこないのだから。

 青白い手はもうすぐそこまで迫っていた。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 千佳は泣き叫び、両手で守るように体を抱く。

 その瞬間、千佳の叫びに呼応するかのようにジョンが前に出る。

「うぉんっ!」

 まるで、主を守るかのように。

「ジョン!? だめ、そっちへいっちゃ……」

 千佳の制止の声も空しく。

 ジョンは青白い手に掴まれる。

 ジョンはもがいたりしなかった。自分のなすべきこと、それを分かっていた。

 ジョンはこちらを向いて小さく鳴く。

「わぅ」

 千佳にはそれが別れの挨拶のように聞こえた。

「ジョンーーー! だめーーー!」

 千佳は無我夢中になってジョンを掴まえた手に掴みかかる。

「うぉんっ! うぅぅぅ!」

 だが、ジョンが千佳に噛み付こうとするので、それは出来なかった。

 それは千佳を近づかせないようにするかのようだった。

「どうして、ジョン……」

 ジョンはもう吠えない。こちらも向かない。ただ、静かに。

 その手に抱かれ、ドアの方へと向かっていった。

 ドアは手が生えた時と同じように湖面のように揺れると手とジョンを吸い込んだ。

 千佳は声が出なかった。

 そして。

「チカチャン、ヤットキテクレタワネェ……アラ、コンナニケヲハヤシチャダメデショ?」

 べり、べりっ

 何かを引き剥がすような音とぼたっぼたっと大量の液体が落ちるような音がドアの向こうから聞こえていた。

 千佳はもう動けなかった。




後日談




 次の日の夜、両親が帰りつくと家の中には水浸しになった痕があった。

 千佳を叱ろうと、部屋に行こうとした父は愕然とする。

 千佳の部屋の前のむしられたような毛と血痕に。

 そして、壁を背に座った千佳は目を見開いたまま、ドアの方を凝視していた。

 走りよった父親が千佳に何があったのかと問いただすと、千佳は一言「おばあちゃん……」というだけだった。


 その後、千佳は救急車で運ばれ病院へと搬送された。

 脱水症状と食事を取ってないための衰弱が見られたが、命に別状はなかった。


 数日後、千佳は退院した。

 しかし、千佳にいくら聞いても、何も思い出せないというばかりでその日何があったのか父も母も聞くことはできなかった。


 千佳の退院の日、墓を任せている寺の住職から千佳の父宛に電話があった。

 それは、祖母の墓が荒らされたという話だった。

 ただ、不思議なことに墓はまるで内側から掘られたかのようで、次の日にはその穴は埋まっていたということであった。


 そして、墓の傍には犬の毛らしきものが落ちていたということだ。




後書き


お読み頂きありがとうございます。

焔氷水です。

季節外れではありますが、いかがでしたでしょうか?


実はこの話、まったくのフィクションではありません。

中学生の頃だったと思いますが、飼っていたペットが死にました。

今まで元気だったのに、一ヶ月程前から急に元気がなくなりました。

そして、忘れもしない6月1日。

天に召されてしまいました。

死骸を埋める時、母がボソリと言いました。

「…今日、おじいちゃんの命日ね。きっと、見代わりになってくれたのね」

ちょうど、その一年前祖父が亡くなっていました。

「死んだ人が寂しがって迎えにくる」

多分そんな意味だったんでしょうね。


物語は古来より霊鎮めの力があると言われています。

願わくば、この作品が彼らの魂に平安をもたらさんことを。

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