春を半分こ
掲載日:2026/08/03
春は、いつも丘の上から始まる。
花が色づきはじめるころ。
うさぎは一本のみたらし団子を持って、お花畑へやって来た。
「いただきます。」
そう言って腰を下ろそうとしたとき、草むらが小さく揺れた。
「……いい匂い。」
葉っぱの帽子をかぶったたぬきが、照れくさそうに顔をのぞかせる。
うさぎは団子を見つめ、小さく笑った。
「一本しかないんだけど。」
たぬきはやさしく首を横に振る。
「一本あれば十分だよ。」
「どうして?」
「半分こできるから。」
うさぎは少し目を丸くして、
それから、ふわりと笑った。
団子を二つに分ける。
二匹は顔を見合わせ、
思わず笑った。
「おいしいね。」
「うん。」
風が吹く。
花びらが、ふわりと二匹のあいだを流れていった。
夕暮れまで、
花を眺め、
ときどき笑った。
何を話したのかは思い出せない。
けれど、
一緒に笑ったことだけは、
春の匂いのように心へ残っていた。
帰るころ、
たぬきが手を振る。
「またね。」
うさぎも笑って手を振り返した。
「うん。また春に。」
翌朝。
丘の花は、ほとんど散っていた。
けれど、
二匹が並んで座っていた場所には、
小さな花が一輪、
咲いていた。
翌年も。
そのまた翌年も。
うさぎは一本のみたらし団子を持って丘へ登る。
少し遅れて、
たぬきもやって来る。
花びらが一枚、
二匹のあいだへ舞い降りた。
春は、
やさしかった。




