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選択の先に




どれくらい走っただろうか。


僕は女の子の手を掴み、必死に走った。


母の声が、耳から離れない。



これはゲームだ。ゲームに違いないーー。


そう思わなければ、走れなかった。


僕は無理やり、女の子を連れ去った。


誘拐......。ではないはずだが。


「君、名前は?」


僕は腰を落とし、女の子に声をかけた。


「......つむぎ。」


女の子は目を赤くしながら、僕に答える。


「つむぎちゃんか、大丈夫。

僕はお母さんに頼まれたから安心して。」


「どういうこと?」


不思議な顔をしてこちらを見る。


「あれは悪モノなんだよ。

本当のお母さんは他のところにいるから。」


僕は完全な嘘で、女の子を安心させようとした。


急いでミッションのUIを確認する。


少女を助けろ。以外は、特に何も書かれていない。



......これからどうしろって?


16歳の高校生と小さな女の子2人で、


この“ゲーム”は攻略できるのだろうか。


通りは静かだ。

特に異変の様子はない。


ただ、人通りはやけに少ない。


そりゃそうだ。


政府が非常事態宣言を出そうとしているのだから。


よし!


ゲームと決まれば、話は早い。


どうすればクリアなのかは一切わからないが、

とにかく次のミッションを待つことにした。


「つむぎちゃん、歩ける?」


つむぎは小さく頷いた。


僕はつむぎの手を掴み、歩き始めた。


まずは、ホームセンターに行く。

そこで武器と食料を集めよう。


かなり遠いから、移動手段が必要だ。


何かイベントが発生するはず......。


僕は周りを見渡したが、特に何か起きる気配もない。


「お腹空いた......。」


つむぎが、僕の手を握ったまま、顔を上に上げた。


「たしかに、そうだよな。」


もう夕暮れだ。

僕も腹が空いた。


ログアウトして、はやく母さんの飯が食べたい。


「ちょっと待ってね、たしかこの辺に。」


僕は視界上にマップを読み込んだ。


「つむぎちゃん、牛丼好き?」


「うん、好きだよ。」


「よし!行こう!」


そうと決まれば話は早い!


僕は牛丼には目が無いんだ。


特盛のネギだく牛!


考えるだけで、腹の虫が異常に鳴く。


「お兄ちゃん、名前はなんて言うの?」


つむぎが僕に尋ねた。


「あっ!まだ言ってなかったっけか!」


そういえば、僕は名乗っていない。


「うーんそうだなあ。」


僕は眉間をなぞりながら、考えた。


「ブレイド!」


「ブレイド?」


「うん!僕の名前はブレイド!」


僕は右手を真っ直ぐに振った。


「悪モノを倒す!(ブレイド)だ!」


つむぎは一瞬とまどって、笑った。


「変なの、ゲームのキャラみたい。」


「えっ?そうか?」


僕もそう言いながら、笑った。



Checkpoint Saved.



突然視界のUIが動いた。


「あっ。」


一瞬、これがゲームだったことを忘れていた。


今時のNPCは、こういう感じなのかなあ。


たぶんだけど、

つむぎちゃんはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だ。


この世界には存在してない。


母も、ゾンビも、つむぎちゃんの親も。


「よくできたゲームだなあ。」


僕はそう言うと、つむぎのほうを向いた。


「そうだ!かけっこしよう!」


「かけっこ?」


「そう!」


僕は道を真っ直ぐ指差した。


「このまま真っ直ぐ行ったら、牛丼屋さんだから!」


僕はつむぎの手を離すと、10秒数えた。


「10、9!」


つむぎは笑いながら、走り始めた。


「6!5!」


僕は靴紐を結びながら、

走り去っていくつむぎの背中を見た。



ブーーーーーッ!


心臓が一瞬止まった。


突然のクラクション。


それと同時に、大きな衝撃音が響いた。




Mission Failed.




僕はつむぎの手をしっかりと握った。


まだ心臓がドクドク震えている。


「いたっ!」


つむぎが声を上げた。


「ご、ごめん!」


僕は手の力を緩めた。


こわかった......。


僕の不注意だ。車に、はねさせるなんて。


NPCとはいえ、子どもだ。


ただ、やけにリアルに感じる。


まるで本当に命があるように。


そう考えている時、

少し目の前を猛スピードで車が横切った。


「えっ?」


人が、運転してる?


あんなスピードで走らせるなんて、どういう神経だ?


あいつか......!


僕は繋いでないほうの手を強く握りしめた。


八つ当たりなのは十分わかってる。


ただ、“違法改造車”も悪い。


自動ブレーキすら切ってるのか!


僕は少しモヤモヤしたまま、

目的の牛丼屋にたどり着いた。


店内には何人かの客が、牛丼を食べている。


「呑気なもんだよなあ。」


僕は思わず、小さく言葉が漏れた。


こういうNPCがあとでゾンビになるんだろう。


「ここにする!」


つむぎは店内のちょうど中央、

テーブル席に座った。


「わかったよ、ちょっと待っててね。」


僕は入り口付近のパネルをタッチして、牛丼を注文した。


「よし!ご飯がくるぞー!」


僕はつむぎに食券を見せながら笑った。


「お腹空いた!はやく食べたい!」


つむぎは足をバタバタさせた。


『212番の食券をお持ちください』


アナウンスが鳴り、僕は受け取り口へと急いだ。


スキャナーに食券のQRをスキャンして、

受け取り口の扉が開いた。


「おー!!!」


やけに輝いて見える、ネギだくだくの牛丼。


その隣には、

つむぎが食べるための小さな小鉢。


僕は足早にテーブルへ戻ると、早速つむぎの分を取り分けた。


「いただきます!!!」


匂いも完璧だ。ゲームとは思えない。


もしかして、味も......?



「うっめえ!!!」


思わず大きな声が出た。


周りの人達が、ちらりとこちらを見る。


「すみません......!」


僕は少し頭を下げて、

口の中に広がる牛丼の味を噛み締めた。


ゲームとは思えない。


“MR”ってここまで完璧になったのか......!


[MR=Mixed Reality(複合現実)。

現実の景色に、ゲームの世界を重ねて表示する技術。]


つむぎが美味しそうに、牛丼をゆっくりと頬張る。


助けて良かった。


この瞬間だけでも、このゲームのやりがいがある。


次のミッションが発動するまで、

どう動けばいいのかはわからないけど。


......うっ!


突然の腹痛にお腹を抑えた。


やばい。漏れる!


「つむぎちゃん、ちょっと待っててね。」


僕はそう言い残し、2階のトイレへと急いだ。


空きっ腹に急な牛丼。

しかもさっきまで全力で走っていたんだ。


胃がびっくりしているのかもしれない。


僕は急いでトイレの扉を開き、ズボンをおろした。


間に合った!ギリギリセーフ......!


なんでゲーム中の便意で、ログアウトできないんだよ。


そもそも傍目(はため)からは俺はどう写ってるんだ?


存在しない子どもに話しかける高校生......?


めちゃくちゃ不審者じゃねえか。


僕は便を出しながら、そんなことを考えていた。


その時だった。


1階から、うっすらと悲鳴が聞こえる。


嫌な予感がした。


僕は急いでズボンを履き、足早に階段を降りた。


階段を降りきった瞬間、

店内の光景に思わず足が止まった。


さっきまで聞こえていたざわめきが、嘘みたいに消えている。


椅子が倒れている。

テーブルには食べかけの牛丼。

床には箸が散らばっていた。


他の客の姿が、どこにもない。


......つむぎ!


僕は急いでさっきまでいた席へ向かった。


その瞬間、何かが足元に当たった。


「え......?」


視線を落とす。


床に誰かの足がだらりと伸びていた。


その先で、スーツを着た男が僕に背を向けてしゃがんでいる。


いや、しゃがんでいるというよりも、

倒れている男の上に跨るような体勢で、

肩を小刻みに震わせて、倒れている男に顔を埋めていた。


静まり返った店内に、不快な音が聞こえる。

まるで何かを噛みちぎるような音だ。



感染者だ......。


僕は足が固まった。


「ブレイド。」


小さな声が聞こえた。


テーブルの下で、つむぎがうずくまっている。


震えながら、こちらを見ていた。


「つむぎちゃん。」


僕は小さく声をかけ、つむぎを手招いた。


今なら大丈夫だ、バレずにやり過ごせる。


つむぎは小さく頷いた。


ゆっくりと、音を立てないようにテーブルの下から這い出してくる。


あと少しだ。

あと一歩で、僕の手が届く。


その瞬間だった。


倒れていた男の足が、ピクリと動いた。


「きゃっ!」


つむぎが思わず悲鳴を上げる。


それとほぼ同時に、

またがっていた感染者が声の方に顔を向けた。


その口は、真っ赤に染まっている。


「やめろ!!!」


僕はとっさに飛び蹴りを放った。


感染者は体勢を崩し、そのまま倒れる。


だが、その瞬間。


つむぎの叫び声が店内に響いた。


僕は急いで視線を向ける。


倒れていた男の腕が、つむぎの足を掴んでいた。


あっという間だった。



Mission Failed.




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