少女を救え。
「この町はまだ大丈夫だけど、
いずれ感染者も増えると思う。」
突然視界にノイズが走り、
気がつくと母が目の前に立っていた。
......え?
どういうことだ。
母は、さっきと同じ場所に立っている。
同じ言葉、同じ声、同じ表情。
ついさっき、聞いたばかりの台詞だ。
僕は急いで自分の腕を見た。
傷が、ない......。
噛まれた跡もない。血もついていない。
「どうしたの?」
母が不思議そうに首を傾げる。
靴も、履いている。
さっき脱いだはずだ。
その時、ドアが激しく叩かれた。
何度も、強く。
「助けて!!!奴らがいる!!!」
さっきと全く同じ声だ。
僕は靴を脱がずに、モニターへと急いだ。
子連れの親子がドアを必死に叩いている。
戻った......。
「みなと!誰?」
「誰って!さっきのーー。」
途中で言葉を切った。
母の表情を見て、嫌でもわかった。
僕だけだ。
僕だけが、過去に戻っている。
「母さん!不審者だ!開けちゃダメだ!」
僕は母に叫んだ。
「助けて!子どもがいるの!」
ドア越しから、女の大きな声が聞こえる。
母は戸惑った。
「みなと!誰なの?」
「開けちゃダメだ!もう感染してる!!!」
僕は必死で答えた。
親子の叫び声が聞こえる。
「......!」
母は、とっさにドアを開けた。
「ちょ!!!」
雪崩れ込んでくる親子。
一歩遅れて、感染者が部屋に入った。
そこからは地獄だった。
結局、またも僕は同じ場面に戻った。
Infected.
Retry.
「この町はまだ大丈夫だけど、
いずれ感染者も増えると思う。」
「母さん!」
僕が声を荒げると、母がビクッと驚いた。
「なに?急にどうしたの?」
「今から、このドアが叩かれる。
子どももいるけど、開けちゃダメだ。」
そう伝え、僕は玄関から一歩も動かなかった。
「何を言ってるの...?」
母の言葉とほぼ同時に、
ドアがまたも激しく叩かれた。
「助けて!!!奴らがいる!!!」
僕はドアに背を向け、立ち塞がった。
母が目を見開き、
愕然とした表情でこちらを見る。
「助けて!子どもがいるの!」
「みなと!!!」
母が僕に叫んだ。
「だめだ!感染者だ!」
何度も何度も、背後のドアが激しく叩かれ続ける。
やがて女の声は悲鳴に変わった。
その直後、
女の子の泣き叫ぶ声がドア越しに聞こえ、
やがて静かになった。
すると突然、視界が真っ黒になった。
Mission failed.
......え?
Retry.
「この町はまだ大丈夫だけど、
いずれ感染者も増えると思う。」
どういうことだ......。
ミッション失敗?
僕は急いで、オラクルのメールを読み直した。
テストユーザーに選ばれたとの一文以外、
他に何も書かれていない。
「みなと......?」
母が不思議そうな顔で僕を見つめる。
またも突然、激しくドアが叩かれた。
「助けて!!!奴らがいる!!!」
母はインターホンのモニターへと走った。
視界の右上に、小さな通知が点滅していた。
僕は慌ててそれを開いた。
MISSION : Save the girl.
女の子を救え。と書かれている。
気づかなかった。
あまりにも小さな通知だった。
「みなと!鍵を開けて!!!」
「母さん......。」
少し悩んだ。
でも、ミッションをクリアしなければ、
何度も同じ事の繰り返しだ。
僕がドアを開けると、
またも女が娘を抱きしめながら転がり込んだ。
僕は急いでドアを閉めた。
「大丈夫!?この町にも?」
母の問いに、女は何度も頷いた。
「ありがとう、本当に......命の恩人よ。」
「母さん、噛まれてるかもしれない。
一旦確認するべきじゃない?」
僕の言葉に、女が急いで顔を上げた。
「噛まれてないわ!大丈夫よ!」
女は目を見開き、身体を震わせながら僕に叫んだ。
母が、女に尋ねる。
「本当に、噛まれてないの?」
「噛まれてないって言ってるでしょ!」
女は慌てふためきながら答える。
その瞬間、ドアが激しく叩かれた。
感染者だ。
女の子が叫び声を上げた。
女は娘を強く抱きしめながら、口を塞いだ。
待てよ......?
1回目は、僕が感染してやり直しだった。
2回目も同じだ。
ただ、3回目ーー。
親子を見捨てた時だけは違った。
その時は、ミッション失敗でやり直しだった。
でも、今思えばおかしい。
1回目だって同じはずだ。
僕が感染するより前に、もう失敗していたはずだ。
だって。
どのみち、女の子は救えていないーー。
1回目も、2回目も。
女の子は、僕よりも先に噛まれている。
ミッションは確定じゃない?
それとも、最初は存在しなかった......?
急いでもう一度確認した。
やはり、女の子を救え。とだけ書いてある。
感染者がドアから離れ、ようやく静かになった。
「良かった......。」
母が小さく息を吐いた。
「母さん!この女は噛まれてる!」
僕の言葉に、母が驚いた表情で駆け寄った。
女は、娘を抱きしめたままピクリとも動かない。
次の瞬間、母が女の子の元へ飛び込んだ。
「噛もうとしてる!!!」
母は女の子を抱き寄せながら、僕に必死に叫んだ。
「母さん!だめだ!」
僕は叫びながら、一歩も動けなかった。
こわい......。
足が震えて、動かない。
次の瞬間、母の首に女が歯を立てた。
母が悲鳴をあげる。
女の子は状況が分からないまま、大きな声で泣き始めた。
僕の視界の端で、
ミッション通知が何度も点滅する。
母が、僕を見た。
「みなと......。」
かすれた声で、助けを求める表情を僕に向ける。
女は、まだ母の首に噛みついている。
母の体が、小刻みに震えていた。
「たすけて......!」
母の目には涙が浮かび、
噛まれた首から血が、床にぽたぽたと落ちていく。
何度も、視界の通知が点滅する。
何度も、何度もーー。
僕は歯を食いしばった。
そして、とっさに女の子の手を掴んだ。
「いくぞ!」
僕はドアを急いで開け、女の子と共に走り出した。
母が、僕の背中に叫んだーー。
その声に、思わず足が止まりそうになる。
母は僕の名前を、生まれて初めて悲しそうに呼んだ。
Checkpoint Saved.




