表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

SYSTEM CONNECTED.




ゾンビ。と聞くと何を思い浮かべますか?


映画やゲームに登場する、動く死体。


ウイルスや細菌感染などがきっかけで、


死してなお、蘇る存在。


もしくは、”感染者そのもの“を指すこともあります。


生者を襲う。

噛まれたらゾンビになる。

頭を破壊しないと死なない。


これはゾンビの基本的な3原則と言われています。


頭を破壊......?


人間の頭蓋骨は思っている以上に頑丈です。


仮に割ることができても、粉砕......。


そんなことが、銃もないこの日本で、

果たして可能なのでしょうか。




時は2050年。


文明は進歩し、スマホは持つ時代から、

“身につける時代”に変わった。


脳には小さなチップが埋め込まれ、

それが直接ネットワークに繋がる。


脳派を通じ、全てが視覚に表示される。



16歳の平凡な少年ーー。


彼は、人生に飽き飽きしていた。


教室の中央に浮かぶAIの映像が、淡々と説明を続けている。


周りの生徒たちも、ほとんど聞いていない。


みんな視界のどこかで、

別の動画やゲームを開いている。


全ての生徒が18歳まで、義務として教育を受ける。


このご時世、

人間がなんのために教育を受けるのかさっぱりだ。


仲の良い友達も、尊敬する大人もいない。


せめて、オンラインにしてくれよ。


「はぁ......。」


思わず小さくため息が漏れた。


何を見ても既視感ばかりだ。


映画も、ゲームも、SNSも。

どこかで見たことのあるものばかり。


そんな時、視界の端に通知が浮かんだ。


[メッセージを受信しました。]


差出人は見慣れないアドレスだった。


迷惑メールだ。


僕はすぐにメッセージを報告し、

削除しようとした。


ん?


メッセージの件名に目が止まった。


株式会社オラクル......?


オラクルは、僕が大好きだったゲーム会社だ。


だが3年前、AI企業に買収され、

その名前は完全に消えたはずだった。


一瞬だけ迷う。


それでも、好奇心が勝った。


......一応開いてみるか。


URLをクリックすると、

画面には、たった一行だけ表示されていた。



【テストユーザーに選ばれました。】



次の瞬間。


視界が、わずかにノイズを走らせた。


そして、見慣れない文字が視界に浮かび上がる。


SYSTEM CONNECTED...。


僕は思わず周りを見回した。


教室はいつも通りだ。AIの授業も続いている。


誰も、何も気づいていない。


けれど。


視界の左上に、さっきまでなかった表示が増えていた。


HP : 100

CHECK POINT : NONE


どういうことだ......?


授業を終えると、僕は足早に家に帰った。


視界の端に浮かぶUI表示が、まだ消えない。


何度スワイプしても、閉じることができなかった


「ただいま。」


家のドアを開け、カバンを置いた時だった。


母が険しい顔で、急いで僕の元へ駆け寄った。


「無事!?」


は?


「なにが?」


僕は靴を脱ぎながら答えた。


ただ学校から帰ってきただけだ。

それにまだ、夕方の16時。


「あんた、ニュース見てないの?通知は?」


「見てないよ、ニュースは非表示にしてる。」


僕は靴を脱ぎながら、淡々と答えた。


すると母は、苛立った様子で僕に動画を送信した。


「これ、開きなさい。」


言われた通り、僕は添付された動画を開いた。



視界に浮かび上がったのは、報道番組だった。


ただ一つ違うのは、キャスターの様子だ。


いつもより明らかに慌てている。


「成田空港で、中東から帰国した男性が

“RNV”に感染していることが発覚しました。」


画面には、空港の映像が映し出される。


「RNV――Rabid Neuro Virus。

神経に作用する感染症で、

現在中東各国で感染が拡大しています」



「渡航禁止じゃなかったの?」


僕が言うと、母はうなずいた。


「そうよ。

この人は、イランの日本大使館の職員みたい。」


動画は続いた。


「このウイルスは感染経路が非常に限定されています」


番組で、いわゆる専門家が話す。


「ウイルスは酸素に弱く、

傷口に直接ウイルスが接触しない限り、

感染の可能性は低い。」


「つまり、噛まれない限りは問題ないと?」


キャスターが質問する。


「ええ。空気感染は確認されていません。

感染者の隔離を徹底すれば、大きなパンデミックにはならないでしょう。」


専門家は続けた。


「それに症状の進行も遅く、

AIによる感染予測でも--」


またAIだ。僕は画面を閉じた。


「大丈夫そうじゃん。

とりあえず、ゲームしたいから部屋行くね。」


母が、僕の腕を掴んだ。


「これ、今朝のニュースなの。

ついさっき、これが届いたわ。」


母は腕を掴んだまま、別のリンクを送ってきた。


......面倒くさいな。


ため息をつきながら、リンクを開く。


「成田空港の職員が、RNVに感染していたことが判明しました。症状はまだ確認されていません。」


画面が切り替わる。


「旅客機の乗客によると、

男性は機内で数名に噛みついた可能性があります。

現在、詳しい経緯を調査中です」


動画が終わった。


「何人か、無症状で感染してるのよ。」


母が小さく言った。


「噛まれてないわよね?」


僕は少し笑った。


「大丈夫だって。」




---




「おい、昨日のニュース見たかよ!」


教室の後ろで、男子たちが騒いでいる。


話題はRNVで持ちきりだ。


「神経ウイルスなんだろ? 手足が勝手に動くらしいぜ。」


「脳に作用するって。ほとんど“ゾンビ”だよな。」


確かに恐ろしいウイルスだ。


でも、ここは東京の片田舎だ。


首都圏からはかなり離れているし、人口も多くない。


こういう騒ぎは、だいたい都会で起きる。


この町はいつも平和だ。


コロナの時だって、感染者はほとんど出なかったらしい。


飛沫感染するウイルスですら流行らなかった場所だ。


噛まれないと感染しないウイルスなんて--。



正直、現実味がない。


RNVなんて、きっと対岸の火事だ。


そう思った瞬間だった。


教室の扉が勢いよく開いた。


担任の教師が入ってくる。


いつもより早足で、顔色も悪い。


「今日は、残りの授業は中止だ。」


教室がざわつく。


担任は教卓の前に立ったまま、深く息を吸った。


「しばらく休校になる。

速やかに自宅へ帰りなさい。」


一瞬の静寂のあと、教室が一斉に沸いた。


僕は心の中でガッツポーズした。


帰ってゲームに集中できる。


しかも、休校だって?


「......都心で、大勢の感染者が出た。」


教室の空気が、少しだけ静まる。


「何人も噛まれている。」


ざわめきが広がる。


「くれぐれも、怪しい人間には近づくな。」


担任は視線を教室全体に走らせた。


「いいな。寄り道せず、すぐ帰れ。」




---




僕は帰りながら、ニュースを視界の隅に映した。


映し出されたのは、渋谷の映像。


「都心部で、大勢の感染者が出ています。

政府は非常事態宣言を発令すべく--」


目を疑った。

まるで映画の世界だ。


大勢の人間が、スクランブル交差点を埋め尽くしている。


ここまではいつも通りだ。


ただ、様子がおかしい。


誰も信号を見ていない。

車道も歩道も関係なく、人が歩いている。


いや、歩いているというよりも、


彷徨っている。


肩を落とし、少し首を傾けたまま。


一人の男が映像の端で、走っていた。


すると突然、地面に倒れる。


周囲の人間が数人、同時に振り向いた。


その動きが、妙だった。


首だけが、カクンと同じ方向を向き、


全員が倒れた男の方へ向かって歩き始めた。


歩き方もおかしい。


腕をだらりと下げたまま、足を引きずるように。


倒れた男が、体を起こそうとするその瞬間。


一人が飛びついた。


男の肩に噛みつく。


映像の端で、人が折り重なる。


映像はここで切り替えられた。


......やばい。


想像していたよりも、ずっと酷い。


中東ではあんなふうにパンデミックは起こってなかったはず。


何が起こった?


幸い、この辺りはまだ平和そのものだ。


僕は足早に帰宅した。


「ただいま!」


「みなと!」


母は僕の名前を呼ぶと、

慌ててこちらへ駆け寄り、鍵を閉めた。


「無事よね?」


そう言って、僕を抱きしめた。


「大丈夫だよ。それより、父さんは?」


僕は母に尋ねた。


父は都心で働いている。


「さっき電話したら、無事だったみたい。

今日は会社で泊まるそうよ。」


気が気じゃない。


渋谷の交差点は、あんな状態だった。


父の会社は、あそこから遠くない。


「ウイルスが変異したみたいよ。」


母は僕に伝えた。


その瞬間、UIの通知が鳴った。


そして文字が浮かび上がる。


Checkpoint Saved.


なんだこれ。


勝手に更新され、セーブされた。


まさかこれは、

現実じゃなくシミュレーション?


最近流行りの、拡張現実のゲームなのか?


ログアウトしようにも、一切UI表示がない。


「この町はまだ大丈夫だけど、

いずれ感染者も増えると思う。」


母が僕に話を続けた。


「......母さん、今日は何日?」


僕は靴を脱ぎながら尋ねた。


「3月5日だけど。」


不思議な顔で答えた。


時間は進んでる。


昨日食べたご飯も、いつも通り味がした。


部屋でゲームもした。いつも通りだった。


でも、

これ自体がゲームだと考えると妙に納得がいく。


現実でこんなことが起こるはずがない。


突然現れたUI。

そして、チェックポイント。


僕はリビングの窓から外を見た。


いつも通りの住宅街だ。


足早に帰る学生。

犬を散歩させる老人。


どこにも異常はない。


その時だった。


遠くで、サイレンが鳴った。


救急車。


いや、それだけじゃない。


パトカーの音も混ざっている。


音はどんどん近づいてきた。


「救急車、多いわね。」


母がそう呟いた。


確かに多い。


一台じゃない。


二台、三台。


そのまま住宅街の奥の方へ走っていく。


胸の奥が、ざわついた。


その時、突然ドアが激しく叩かれた。


「助けて!!!奴らがいる!!!」


女の声だった。


母がモニターを覗くと、

見知らぬ親子がドアを必死に叩いていた。


母はモニター越しに質問した。


「奴らって?」


「感染者よ!」


女は息を切らしながら叫ぶ。


母が続けて聞いた。


「噛まれた?」


「噛まれてない!本当よ!」


女は子どもの手を強く握ったまま、必死に訴える。


「お願い......助けて!」


母は一瞬だけ迷った。


それから、急いで鍵を開けた。


ドアを開けると、

女は子どもを抱きかかえるようにして中へ転がり込んだ。


母がすぐにドアを閉め、鍵をかける。


「大丈夫!?この町にも?」


母が聞く。


女は何度も頷いた。


「ありがとう、本当に......命の恩人よ。」


女は、小さな娘を抱きしめ、涙を流した。


おそらく、5歳ぐらいだろうか。


僕はモニターを覗いた。


画面の隅に、人影が映っていた。


ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。


歩き方がおかしい。


片足を引きずりながら、首を傾けている。


口元が、赤く濡れていた。


そして。


インターホンの前で、立ち止まる。


次の瞬間。


ドアが激しく叩かれた。


ドンッ!!!


「きゃあ!」


娘が大声で叫んだ。


ドアを叩く音は激しさを増す。


女が、自分の娘の口元を抑えながら、

必死に抱きしめた。



やがてドアを叩く音は止み、辺りは静かになった。


「良かった......。」


母が小さく息を吐いた。


「玄関もなんだし、部屋に入りなさい。

すぐに警察を呼ぶわ。」


母が親子に声をかける。


だが、

女は、娘を抱きしめたまま動かない。


すると突然、娘が悲鳴をあげた。


それに続き、僕の母も悲鳴をあげる。


「ちょっと、何して--。」


僕は慌てて親子の方を見る。


息が止まった。



--噛んでいる。


女が、自分の娘の首に歯を立てていた。


血が滲む。


小さな女の子が、必死に暴れる。


「ママ、やめて!!」


徐々に女の子の力は弱くなっていった。


女は突然顔を上げた。


その目は、さっきとは違っていた。


焦点が合っていない。


口元には、血がべったりと付着している。


「......うそ。」


母が一歩後ろへ下がる。


女はゆっくりと立ち上がった。


次の瞬間。


女の子が、床に崩れ落ちた。


そして。


突然、母に飛びついた。


「母さん!!」


反応できなかった。


「ぎゃあ!!!」


母の悲鳴が響く。


女は、母の肩に噛みついていた。


血がゆっくりと溢れる。


「やめろ!!」


僕はとっさに女に体当たりした。


女の体が壁にぶつかる。


女はすぐにこちらへ振り向き、飛びかかってきた。


狭い玄関で、避ける間もなかった。


ガリッ。


鋭い痛みが腕を貫く。


痛い。痛すぎる。


これは現実なのか......?


だとすると、もう。


僕は、感染したのか--?


視界のHPのUIが、緑から赤になった。


100あったHP数値が、勢いよく数字が減る。


0になるよりも前に、

視界に大きな文字が浮かび上がった。



Infected.



突然視界が真っ暗になった。


続け様に、別の文字が表示される。



Retry.





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ