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奈緒  作者: 岡本圭地
3/15

③不愉快な音


「……あれっ?」


 突然、奈緒が立ち上がった。


「ケータイが、ないんだけど!」


 奈緒が周囲を確認しようとしたが、薄暗くてよく見えない。



「ちょっと、それ貸して!」


 真一の持つ懐中電灯を借りた奈緒は、辺りを照らしてみた。


「バッグも、ないじゃん!」



「多分、廊下に落としたんでしょう。もう埋もれちゃいましたね……」


「はあっ? 埋もれちゃいましたね、じゃねーよ! あんたが急に引っ張るからでしょ! 弁償してよ!」


 奈緒の厳しい口調に、真一が怖気付く。




「いや……そんな事を言われても……」

 

「もうっ! マジ最悪なんだけど……。てかさ、あんたのケータイは?」


「僕のも、埋もれちゃいました。玄関の靴箱の上で充電してたんで……」


「なにそれ。ったく、使えねー……」



 しばらく気まずい沈黙が続いた後、奈緒が真一に懐中電灯を返した。


 受け取った真一は、それを勉強机の上に置いた。


 部屋の中央を照らす形となり、壁に二人の大きな影が映し出される。




「そう言えば、まだ自己紹介してないですよね? 僕、荻野と言います。荻野真一です」


「あっそ」


 奈緒は、投げやりに言い放つと、座卓の上に腰を下ろした。


 細長い足を組むと、だるそうに首を斜めにする。



「あ、あの……お名前は?」


「知らね」


 顔を背ける奈緒。



 その視線の先に、ビデオテープがズラリと並ぶ棚があった。


 背表紙は、全て洋画のタイトルだ。


 映画に詳しくない奈緒でも、一度は聞いた事のあるタイトルばかりだった。



 刑務所脱走の映画。


 殺し屋の男と女の子が、主人公の映画。


 手がハサミになっている男の映画。


 豪華客船が沈没する映画、など。




「……映画、好きなんだ」


 奈緒が、呟くように言う。



「ええ、洋画は好きですよ」


「ふぅん。こんなに買ったんだね」


「まあ中古で買った物もありますけど」




 しばらくして「そうだ!」と真一。


「もし、ここから出れたら、一緒に映画でも行きません?」


「はあ? なんで私が、あんたと行かなきゃいけないのよ。ナンパしてんの?」



「あ、いえ、なんて言うか、これも何かの縁ですし……」


「一人で行けば? つーかさー、まずここから出る方法を考えてよ」



 真一は「まあ確かに、ここから出ないと……ですよねぇ」と言って、右手で顎を触り、考えるポーズをとった。



 まるで他人事の様な言い草に、奈緒は呆れた。


「あんたさー、いつもそんな感じなの? 自分の家が土に埋まったんだよ! そんで私達、閉じ込められたんだよ! このままだと死ぬよ!」


「ええ、ですから今、考えてるんですよ。でも大人しく救助を待つ以外は、ないんじゃないですかねぇ?」



「なんかさー、あんた、冷静というより呑気だよね。普段、焦ったりしりしないの?」


「ははは、それ生徒にも、よく言われますね」


「生徒?」


「僕、隣町の小学校で教員をしてるんですよ」


「あんた、先生なの?」


 奈緒は驚き、眉を吊り上げた。



「はい、今年の春からなんで、まだまだ新米教師ですけど」


「マジで? うわぁ……頼りなさそうな、センセー」



 その時、奈緒の額から、また一筋の汗が流れ落ちた。


「ねえ、エアコンないの?」



「扇風機ならありますけど……」と言いながら、パチパチとスイッチを入れる真一。


「ご覧の通り、電気が来てないので……」




 奈緒は肩をすくめると、落ちていた映画のパンフレットを拾った。


 それで自分の顔を扇ぎながら「じゃあさ、タオルくらいないの?」と訊く。



「ティッシュならありますよ」


 真一は、側にあったティッシュ箱を、奈緒に差し出した。


「……ったく、マジ使えねー」


 奈緒は悪態をつきながら、仕方なくティッシュで汗を拭った。


 その時だった。




 ——ブウッ。




 不愉快な音がした。


 真一が、豪快なオナラをしたのだ。


「え、嘘でしょ?」


 奈緒が愕然とした表情で、座卓から立ち上がった。



「あ、あはは……な、なんか出ちゃいました」


「ふっざんけんなよ! こんな狭い部屋で!」


 奈緒は、座布団を両手で持ち上げ、バタバタと扇ぎ始めた。



「あはは……」


「笑ってんじゃねえよ、屁こき虫!」


「ぐわっ!」


 奈緒は座布団を、真一の顔面へと叩きつけた。



「……次やったら、マジ殺すからね」


 奈緒の殺意に満ちた低い声に、真一は萎縮するのだった。






つづく……


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