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6.学校生活2日目

「はぁ・・・。」


 ティアはバスの車内から窓の外を見ていた。次々に流れていく景色をじっと見つめながら、そっと息を吐く。


 今日は編入してから二日目の登校日である。


 正直言って、憂鬱でしかない。栗本もとい師匠に無理やり通わされているのだから。こちらにはこちらの予定があったというに、なんともまあ強引だと思ったことだ。


 それでも、良かったと思えたこともある。なかったら今頃退学の手続きをしていたところだ。


 良かったこと、それは学校にグラドス兄弟がいたことだ。ティアは今、ある目的のために動いている。その目的のためには、どんな犠牲も辞さないでいる。だからこそ、必ずここで彼らと接触し、目的のための足がかりとするのだ。


 窓に映った車内をそっと観察する。車内には同じ制服を着た人が数人いる。その中にグラドス兄弟はいない。きっと車で向かっているのだろう。皆裕福な家の出なので、車で行く人の方が多い。


『次は藍緑高等学園前〜。お降りの方は降車ボタンを押してお知らせ下さい。』


 ティアはボタンを押す。程なくしてバスは止まった。


 他の人に続きバスを降り、学校を見上げる。大きな学校だ。周りの学校とは比べ物にならないくらい広大で、上品。歴史の重みを感じさせるような荘厳さがある。


 校舎へと続く石畳を真新しいローファーでコツコツと踏みしめながら歩く。周りには同じ制服を着た男女が皆同じ方向をめざしている。


 制服には、セーラーカラーと呼ばれる部分の右側に小さな学校の紋章が入ったバッジが付けられており、それぞれの学年によって色が違う。一年生は緑色、二年生は青色、三年生は赤色となっている。


 ティアは二年生なので青色のバッジだ。


「ん?」


 突然、いくつもの視線を感じて少し下を向いていた顔をそっとあげる。突然というより、校門をくぐった時からだ。何故か、周りのみんながチラチラとティアに視線を送っている。


 何かおかしいことをしてしまったのだろうかと自分の姿を確認するが、特におかしな点はない。周りの生徒と特に相違点はない。


 なんで、と首を傾げているうちに玄関口へ辿り着き靴を履き替える。校舎へ入ると視線はより一層増していくばかりだ。それぞれが友達と思われる人物と共にティアをチラチラと見ながら何かをコソコソと話している。


 より一層謎は深まっていくばかりで、どうしよう、と思っていると注意散漫になっていたからか、何か、もとい誰かにぶつかった。


「きゃっ!すみません。」


 慌てて顔を上げて謝る。


 え、と思った。


「あぁ、いやこちっこそ悪い、前見てなくて。大丈夫か?」


 ぶつかった人物は華奢なティアが少し見上げてしまうほど背が高く、髪は明るい金髪。瞳は綺麗なアメシストみたいだ。よく似た顔立ちはジェライル・グラドスより少し丸くチャラそうな印象を受けるその人は__________ウィルヘルム・グラドスだ。


 ひゅっと息を呑みつつ反射的に後ろに下がり距離を開ける。


「大丈夫です。そちらこそ怪我などは?」


 何とか受け答えするが、心臓がバクバクと音を立てているのが、はっきりと聞こえる。


「こっちも大丈夫だ。__________ん?あんた、もしかして昨日の転入生か?確か、 シナ・クレイヴットだったっけか?」


 今、ティアはシナ・クレイヴットと名乗っている。学校生活を乗り切るための偽名だ。


「はい、そうです。あなたは確かウィリアム・ロナーさんですよね。」


「昨日の今日なのによく覚えてんな。」


 ウィリアムは驚いたように瞬きながらこちらを見下ろす。


 ティアはにこりと微笑み、共に教室へ足を向ける。


「記憶力には少し自信があるんです。」


「そうなのか、すげーな。」


 ティアは必死に笑みを保つ。


(まさかウィルヘルムと会うなんて想定外よ・・・!)


 心の中で叫びながら話題を探す。と言ってもいい案など浮かんでこないのだが。


「あ、そういえばなんですけど、周りの皆さんが私のことをちらちら見てるような気がして・・・ロナーさん、なんでか分かりますか?」


「俺のことはウィルでいいよ。みんなそう呼んでる。・・・心当たりがないといえば嘘になる。」


 ロナーもといウィル何故か少しだけ気まずそうに答える。


 いよいよ、眉間に皺を寄せ思考するが思考は混沌を極めていく。


 すると、ウィルは少し屈むと、ティアにそっと耳打ちする。


「多方、お前の容姿にみんなが気になっているだけだと思うぜ。それ以外もあるだろうけど。」


「容姿・・・?」


 そう言われてやっと気づいた。


「なるほど、白髪が珍しいんですね。」


 確かに、白髪の人は珍しい。外国の人というのは、この学校ではほかの学校と比べれば珍しくはないが、白い髪というのは、なかなかにレアなのだろう。


 なるほど、と納得していると、何故かウィルは微妙に苦笑しながら、「そうだな」とだけ答えた。


 ちなみに、お気づきの事ではあるが、皆が注目していたのはティアの髪ではなくその美しい容姿のことである。

 繻子の様な長い銀髪、瞳は宝石のように透き通ったマリンブルー。 白い肌に、華奢な体格。

白いまつ毛は長く、少し垂れ目で、庇護欲をそそられ、儚くも凛とした不思議な存在感。

 一挙手一投足が上品で同性でさえも不思議と目を惹かれてしまう。


 ちなみに、ウィルがティアに体を寄せ耳打ちした時は、見ていた女子たちが、キャっと黄色い悲鳴をあげていたりもしている。

 ウィルは全て気づいていおり、「はは・・・」と遠い目をしている。


 不安だらけの学校生活二日目が始まろうとしていた。


ご覧頂きありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)

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