5.これから(栗本視点)
満身創痍になった栗本は、引き続き床で正座をしていた。
ティアはナイフを手の中でクルクルと回しながら。ソファーで寛いでいる。
(俺はティアの師匠だったはずなんだが・・・。解せぬ)
「というか、学校にナイフなんて持ってったらダメに決まっているだろう!何考えているんだ。」
「信用出来ません。というか現に犯罪者がいったって言ってるでしょう。安易には使わないようにしてるし、心配は無用ですよ。」
ティアは無表情で答える。
「ついさっき、殺されかけたんだけど・・・・・・・。」
ティアは無言で目を逸らした。
・・・・不安しかない。
「そんなことはどうでもいいでしょう。話を続けますよ。」
「そうだな。」
姿勢を正して気持ちを整える。
「弟の方は兄ほど社交的な性格ではありませんでしたけれど、それなりに友達はいてなかなか楽しそうでした。・・・やっぱり顔がいいから?」
「顔は関係ないでしょ・・・!」
すかさず突っ込むが、ティアが意に介した様子は無い。
「相変わらず頑固だな・・・。二人と会話したりはしたのか?」
「はい。多少ですけど、言葉は交わしました。まぁ、挨拶程度ですけどね。」
一応接触はしたらしいが、この様子だとそれ以上は特に何も無かったのだろう。
やはり、容易に近づける人物ではなさそうだ。
何とか距離を縮めてほしいが、まずは、周りに馴染むことが先決だろう。
ティアもそう思ったのか、ティア自身の学校生活へと話が移る。
「そういえばティアに友達はできたのか?」
「いえ、特にまだ作ってはいません。お互いに探りあっている感じですね。自分の家にとって利になるか、敵になるのか。どういう関係を築いていくべきかを見極めています。」
なるほど、と相槌を打つ。
この学校に通う生徒たちの中には、この国の将来にとって有力な人物もそれなりにいる。交友関係なども、幼い頃から徹底されてきたはず。学園での人脈の築き方も色々複雑なのだろう。
今は相手にとってどれだけ有益かを、ティアが示していかなければならない時期なのだ。それが出来てからではないと、グラドス兄弟と相対していくことは難しい。
(少し心配だがここはティアに任せておくしかないか・・・。)
幸いティアはとても有能だ。知能も武力も優れているし、愛想はいいからすぐに周りに溶け込めるだろう。
・・・何故か栗本に対しての扱いはちょっと?雑なのだが。
一段落したところで、栗本はキッチンに行き紅茶を入れる。本当はコーヒー派なのだが、ティアが苦手らしくここ最近はもっぱら紅茶しか飲んでいない。
二人分のティーカップと、朝に作っておいたスイートポテトを冷蔵庫から取りだしてお盆に乗っける。
テーブルまで運ぶと、盆に乗ったスイートポテトを見たティアがいつもの無表情に少しだけ喜色を滲ませる。
同棲し始めて気づいたことだが、ティアは甘いものが好きらしい。時々冷蔵庫に、どこで買ってきたのかは不明だがプリンやらタルトやら珍しい和菓子などがちょくちょく入っている。
コーヒーが苦手なことからも、かなりの甘党であることが伺える。
一度、冷蔵庫に入っていたプリンをこっそり食べたところ、限定品だったらしく即日バレて涙目で怒られた。あの時はかなり焦ったものだが、時々こうしてスイーツを作ってやると、喜んでくれるのだ。
ティアの様子に密かな満足感を覚えつつ、自分もスイートポテトを口に運ぶ。優しい甘さが口に広がりなんとも言えない幸福感をもたらす。
もともと、あまり甘いものを好んで食べてははいなかったが、最近はすっかりスイーツマスターになった気分だ。
二人で静かに一息ついていると、ポツポツと雨が降り始める音がした。窓の外を見ると、雲はなく晴れており、小雨が降っていた。
「天気雨か。珍しいな。」
「そうですね。私が好きな天気です。」
「そうなのか?」
ティアを見ると、彼女は振り返って窓の外を見つめていた。
「はい。いつもと違う感じが、なにか変化をもたらしてくれそうな感じがして。ほら、縁起がいいって言ったりもするでしょう?」
「ふーん。そんなもんか。」
栗本はよく分からなかったが、そう言われると少し神秘的な感じがして、窓の外を見つめる。
相変わらず、ポツポツと雨が降っているだけだが、どこか儚く美しいような、なんとなく見ていたくなるような感じも、どこか、何かを期待してしまうような雰囲気が、どことなく目の前の少女に似ている気がして、今はもういない誰かに似ている気がして栗本はそっと微笑んだ。
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