3.5 波乱の出会い (栗本視点)
「よし。」
ネクタイを締めて、栗本はそう呟いた。
姿見の前に立って再度、自分の姿を確認する。
おろしたての黒いスーツにシルバーのネクタイ。髪は前髪を上げ、サイドはスッキリさせる。トップは少し長さを残して動きをだす。
栗本は、それなりにイケメンなのでスーツをしっかりと着込むとなかなか様になる。中身はまぁちょっとアレなところがあるが、外面だけはいいのである。外面だけは。
そして、いつもより早起きして珍しくスーツをしっかりと着込んだことには理由がある。
それは、なんと栗本に弟子というような存在ができたからである。そして、今日がその弟子との初の対面する日であるのだ。そしてそれが意味するのは__________
「ルッンタタッタ ルッンタタッタ ルンルンルルン!」
この、異常なばかりにテンションが上がってしまうということである。怖い
なにせ、今年で二十八になるいい歳したお兄さんが頬を朱に染めながら、身をくねくねとよじらせ部屋中を回転しているのだ。不気味である。ドン引きである。
まぁなんにせよ、その弟子が来る午前十時までには、まだ五時間ほどある。つまりひと通りはしゃぎ回って疲れて立ち直るまでの時間が充分にあるのである。
そんなこんなでくねくねしていると、チリリリリンと机の上にある電話から音が響いた。
栗本はすぐさま受話器を手に取り真面目な顔になる。切り替えは早いのである。
「はい、こちら、栗本探偵事務所です。」
「よう、旦那。俺だ、高崎だ。」
低く重みのある声が耳に響く。相手は、この近くにある警察署の警部だ。栗本が探偵となってから、幾度もお世話になっている相手である。
「警部ですか。歩く骸骨事件以来ですね。こんな朝早くにどうしたんですか?」
「いや、ちょっとした事件があってな。と言ってももう解決はしてるんだが、、、。」
「?、ならどうして連絡を?」
「いや〜、それがその事件を解決したやつが俺じゃなくて通りすがりの一般市民でよ。でも、どーも俺にはただの市民には思えなくて。このまま、家に返していいのか分からなくて、ちょっと困ってるんだよ。」
「なるほど。よく分かりませんがとりあえずそっちに行きますんで。その市民とやらに合わせてください。」
「助かるよ!じゃあ待ってるからな。」
安堵したように声を上げて高崎は電話を切った。
正直言って状況はよく分からないし、さして重要とも思えない案件なのだが、長い付き合いで助けてもらったこともある相手の頼みでる。栗本は気楽にいくことにした。
十分後。栗本は警察署の前にいた。
「警部。来ましたよ!」
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