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愛するあなたを殺すとき  作者: 朝焼け
第一章 幕開け
2/2

2. 始まりは唐突に

(ピピピピ ピピピピ、、、、、、カチャッ)


「うんっ、、、うーん、、、。」


目を開けるとすっかり見慣れた天井が目に映る。


窓の外はまだ薄暗くしんと静まり返っている。先程の目覚まし時計を見やるとぴったり午前四時半を指していた。


まだ起きていない体を起こし、ベットの上からおりる。


ヒヤリとした床の感触が足裏から伝わってきた。


そのままクローゼットまで歩み寄り戸を開ける。 中には黒と白の服が並んでいる。


いつものように手早く着替え、ドレッサーの前の椅子に腰かける。


鏡の中から見つめてくる自分は、相も変わらず生気が薄いとティアは感じた。


白銀色の髪。


それに負けず劣らずの白い肌。


見つめ返してくる瞳は緑がかったマリンブルー。


十七歳という年齢にしては細い体。身長も平均より下である。


なんというか、全体的に寒々しい色で体調が悪いようにすら見える。


他の人からどう見てかは聞いたことがないので分からないが、少なくともティアはそう感じている。


ブラシで髪を梳き、後ろで一つにまとめてからねじりあげる。ぐるりと巻き付けてコームで留める。いわゆる、見た目はゆるっとしたお団子だ。


準備が整ったのでドアを開けて下の階へ移動する。


下はリビングやキッチン、応接間などがある。


二階は私の部屋と私がお世話になっている探偵事務所の主人____栗本孝宏の部屋がある。もう一つ部屋があるが、空き部屋となっている。


カーテンを開けるとまだひとけが無い街並みが目に映る。ここは、日本と首都東京にあるタワーマンション。その屋上は何故か木がいくつも植えてあり、空中庭園のようになっており、その中央に二階建ての一軒家がたっていた。


なぜこんな所に一軒家があるのだろうと最初は不思議に思っていたが、もうここに来て一ヶ月、慣れたものである。


キッチンに立ち、手早くサンドイッチを作っていく。具材はカマンベールと生ハム、キャベツを挟む。


「おはよう。今日も朝が早いですね。」


突如声が響く。声の主を見やると一人の二十代ほどの男性がたっている。黒い髪を撫でつけており、パリッとした灰色のスーツを着ている。その姿はなかなか絵になっている。


正体はこの探偵事務所の主人、栗本だ。


「おはようございます。栗本さん。」


料理をしている手を止めて挨拶を返す。すると、何故か栗本は、はぁーと大袈裟にため息を吐き、真面目な顔で言う。


「いつもいつも言っているだろう。俺に敬語は不要だと。」


キリッとした顔で言っているが、ティアは彼がこんな真面目なやつではないと知っている。


すると、彼は真面目な顔のままティアの顔を見つめ、左手を腰に、右手で髪をファッサーッとかきあげる。そして、目を見開き自信満々に言い放つ。


「俺のことは、師匠〜と呼ぶように!!」


(キラリーン!)という効果音が聞こえてきそうな様である。


つまり、彼は初めてできた弟子のような存在に浮かれまくっているだけなのだ。よくよく見るとその瞳はキラキラと輝いている。


ティアはそんな彼を半眼で見つめる。その瞳は北極のブリザードよりもなお冷たかった。


「はいはい、ししょ〜。それならそこに変顔して突っ立ってないで手伝ってくれませんかね〜?私はあなたの世話役じゃあないんですけど。あぁ、でも貴方は変顔すること以外何も出来ないんでしたね。すみません。あとで、ゴミ出しと掃除をお願いしますね。誰かさんのサボりのおかげで報告書が山積みで。」


大変に皮肉のきいた返しである。


ししょ〜こと栗本は、無言でティアの隣に立ち、朝食の準備手伝いはじめた。その顔はよく見ると青ざめている。


尚、この会話はティアが探偵事務所に来てからというものほぼ毎日交わされている会話である。


「あ、そういえばティア、あなた学校に通う気はありますか?」


「ありません。私、頭は良いので。それは貴方も知っているでしょう?」


興味が無さそうに、あっけらかんとした口調で答える。すると何故か、栗本は突然、冷や汗をかきながら、チロチロとティアの方を見てくる。


いや〜な予感がしたしたティアが栗本の方をじっと見つめながら聞く。


「一体何をしたんですか?まさか私を学校に入れようなどと考えていないでしょうね?」


すると、さらにダラダラと汗をかき、気まずそうに答える。


「えぇ、まぁそんなところです。」


「はぁ〜。先程も言いましたが私に学校は不要です。余計な気を回さないでください。」


すると、何故かさらにキョドキョドと挙動不審になる。汗は滝のように流れ、顔は真っ青だ。


いや〜な予感がした。いや、予感しかしない。間違いないこの男は何かをやらかしてしまったのだ。しかもティアに対して!


「何を、したんですか?」


「いや、その、えっとですね、これは決してあなたのためを思ったのであって、よからぬ事を考えている訳でわないのですよ。」


「、、、つまり?」


「つまり、、、その、えぇーっと〜。」


ティアの顔がだんだと険しくなり、眉間にシワがよっていく。対して栗本の顔は真っ青を通り越し、シロクマもびっくりするほど真っ白くなっていた。


やがて、覚悟を決めたのか、悲壮な面持ちで告げる。


「申し訳ございません。あなたの転入手続きを済ませてしまいました。そして登校するのは明日です。す。既に制服も教科書類も届いています。」


ティアはたっぷり十秒沈黙した。そして、呆然と目を見開き口を開く。


「明日、、、?私が、、、学校に、、、?転入、、、、、、、、、??」


ティアの瞳がだんだんと暗く冷たくなっていく。栗本の顔も、ティアの様子を見て、だんだんと真っ白を通り越して透明になっていく。その様は、死刑宣告を受けた囚人のような顔である。


ティアが栗本の顔をじっと見つめる。手に握っていた、生ハムを切っていたナイフを逆手に持ちかえる。


栗本はその様子を見てか、そろそろと後退りをし瞬間っ、バッとティアに背を向け玄関へ走り出す。


「すみませんすみませんすみませんんんんんん―――!!」


「待ちなさい」


その一言で空気が凍った。シロクマも凍えるほどの冷気が部屋を包む。その瞳には、幾千の人を葬ってきたような冷酷さが滲み、激しい怒りが宿っている。


刹那、ティアが栗本を追い走る。距離は六メートル。相手は成人男性。追いつくのは難しい。だから。


ティアは手にしていたナイフを、栗本の横スレスレを狙って、投げた。


豪速球で放たれたナイフは、狙い通り栗本の横をギリギリですり抜け、さらに追い越し、玄関のドア目掛けてとんでいく。木製の扉には深々とナイフが突き刺さっている。


「うわぁっ!!」


栗本が真横を飛んで言ったナイフに驚き、腰を抜かす。


「ま、待ってくれ!これはあくまで善意の行為で!そこまで嫌がると思っていなかったんだ!」


その言葉が聞こえているのかいないのか、ブツブツと呟きながらティアは栗本へ足を進める。


「えぇ、、、そうね。これは、、、あくまでも、、、善意、、、、、、、。ティア、落ち着きなさい。ここで彼を失ったら私の計画が狂ってしまうわ。、、、でも、もうこの時点で計画からそれている? 、、、、、、、なら今私が多少何をしようと、、、変わらない、、、。」


ティアは顔を上げると、そのマリンブルーのような目を栗本へ向けた。その顔には微笑が浮かんでいる。


栗本の横をすり抜け扉に刺さったナイフを引き抜くと、その切っ先を彼に向ける。


「ま、待て!謝るから!!どうか許して!」


「謝って済むならこうはならないわ。大丈夫。死にゃあしない。」


酷薄な笑みの裏には、おぞましい怒りが宿っている。


そして、そのナイフを振り上げ_______そして__________


「ほひゅっ」


という珍妙な声を上げて栗本は気絶した。

第二話ご覧いただきありがとうございます。

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