10.思い出
「私...?」
白銀の髪に、緑がかったアクアマリンの目。表情を宿さないその顔は、紛れもなく自分自身の姿だった。
目の前の少女は、パチパチと何度か瞬きをするとゆっくりと視線を左右にめぐらせ、最後にティアに目をとめた。
「わ...」
少女は少し驚いたように口を開き、小さく声を発する。すると、そっとティアの方に足を進める。
ティアは少女が進んだ分だけ後ろに下がった。
「近づかないで」
少女はピタリと足を止めると、何かを言い淀むように口を開き視線を彷徨わせてから、再び声を発する。
「えっと、私は...ティア?まあ、状況はたぶん理解できてないと思うけど、取り敢えず話を聞いて欲しいの。」
ティアと名乗った少女は、こちらも質問には答えるから、とティアとそっくりな声でそう告げた。
(私と同じ見た目に名前...。普通に考えれば怪しいとしか言いようがないけれど、少しでも今は情報が欲しいのも事実。)
「...分かった。でもまずこの状況について先に説明して欲しい。」
「いいわ。」
そう言うと、辺りをキョロキョロと見回してからパチッと指を鳴らした。
すると、どこからともなく椅子と机がパッと現れ、少女はその椅子のうちの一つに座り、ティアにも座るように促す。
「...これは一体どういう仕組み?」
「そこら辺も含めて、今から説明するから。」
そう言うと、どこからともなくでてきたティーカップを口に運ぶ。そして、少し考える素振り見せながら口を開く。
「じゃあまずはこの場所の説明から...。ここはなんでもあって何も無い場所。いわゆる、世界の果てってところよ。」
薄く微笑みながらそう告げる。
「理解ができない。ここは地球のどこかなの?」
「う〜ん。そうね。正直言ってここがどこにあるのかは私もよく分からない。ただ確実に言えることは、ここは現実の世界だけれど貴女が知っているような常識は通用しない。」
「あなたの存在も現実だと?」
「ええ、そうよ。」
少女は淀みなくキッパリとそう答える。
「私は貴女じゃない。でも、貴女は半分私みたいなものね。」
「そう.. .」
正直言って、言っていることなんてさっぱりだが、正面から見つめてくる瞳からは嘘は感じられなかった。もう既にいろいろとおかしな状況に出くわしている以上、何を聞いても同じだと思った。
(でも. . .多分まだなにか隠してる。)
これは勘でしかない。でも、あったときから感じていたこの違和感は間違いないと告げている。
(あれは人じゃない。)
目の前でティアの反応を面白がるように微笑を浮かべているナニかをティアはじっと見つめる。見た目は人だ。でも、根本的に何かが違うような気がした。
あちらから接触し何かを伝えようとしているが、どこまで信用できるのか、何をさせたいのかが全くわからない。ただ、こちらのに先程から向けてくるニヤついた微笑が、気持ち悪く感じた。
ふぅー、と一つ息を吐き気持ちを整える。今しなければならないのは相手の目的やこの状況、先程から霧がかかったように思い出せない記憶についてだ。
「次は、なぜ私がここにいるかを教えて欲しい. . .あなたならわかるんでしょう?」
これも感でしかないが、絶対に目の前の奴から情報を聞き出すと意気込むティアである。
意外と少し怒っているのである. . .。
少女は、待っていましたと言わんばかりにニヤリと口角を持ち上げた。
「思い出してほしかったのよ。貴女のすべてを。」
「すべて. . .?」
「そう。今まで幾度も、貴女はすべてを失って死んできた. . . 。そろそろ思い出してもいい頃だと思うのよ。流石にもう同じものを見るのは飽きちゃった。」
こてん、と首を傾げてくすりと笑う。
「てことで. . .早速思い出してね。」
「は. . . ?さっきから何を言って. . . 」
訝しげに顔をしかめ、質問を重ねようとしたときにはもう遅かった。
少女は、気づいたときにはティアの真横に立って笑顔を浮かべながらティアへ手を伸ばす。
「. . . !」
咄嗟に椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がり、距離を取ろうとするのもつかの間、ティアの体はぐらりと横に傾いていた。
「ふふっ. . . 動いちゃだめよ」
ティアの体を抱きとめながら、顔をぐっと近づけて額を合わせる。
息を呑み、逃げようと体をよじろうとするが、ピクリとも動かず息もできなくなっていた。
「さぁ、すべてを思い出して。貴女の過去と104回もの人生を。」
優しく、包み込むように抱きしめながら耳元にそっと囁いた。ニヤリと笑った顔を最後に、ティアの視界は暗転した。
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