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第一章 第5話 これはカップルでは?!

 五月とはいえまだ日は短く、六時過ぎは少し暗い。

 俺たちの乗る路面電車には部活を終えた生徒たちが乗っていた。

 

 今までこの時間に帰ったことはなかったけど、意外と秋明の生徒が多いんだな。

 路面電車で肩を並べて座る二人。揺れるたびに触れ合う肩。


 あれ、これカップルに見えない?

 

 

「どう思う? 一ノ瀬君。部活入る気ないって言ってたけど、私はありだと思うなあ新聞部。保健室以外に学校での居場所できるし。一ノ瀬君が嫌なら仕方ないけどね」

 

「んー実は俺、そんな嫌じゃなかったりもするんだよな。風通しもいいし、日は入るし、あの部室意外と好き勝手出来そうだし」


「それ。やっぱ一ノ瀬君も部室でパリピしたいんだ。グラサンあるよ」


 

 そういうと鞄から例の眼鏡を取り出す。

 かけないよ? それに、好き勝手するにも限度があるだろ。


 

「まあ、部活するにも部員が足りないからねー。一ノ瀬君入ってくれそうな人いる?」


「いないな。俺そもそもそんな友達いるタイプじゃないから。あ、ちなみにこれ自慢ね」


「そっかあ、ってなんで私いま自慢されたのかな」



 弓瀬はふふっと笑って見せる。

 何この笑顔、すげえ可愛い。

 

 でも、こういう類の女子は誰にでも優しく、俺みたいな非リアにも女神のように接してくれる。

 勝手に惚れて、勝手に告白して、勝手にフラれるのがオチだ。

 俺は知っている。

 

 

「でもあれだね。こうやって一緒に帰ってると付き合ってるように見えちゃうんじゃない? ほら私は別にいいけどさ、いいの?」


「と、言われましても……付き合ってないからなんとも」


「ねえー、そういうことじゃなくてさあ」


 

 ほっぺたをぷくっと膨らませる。

 こいつホントにあざといよな。

 デビュー作の新人声優なの? それとも売れ始めて変なキャラ作ってる地下アイドルなのか?

 いやほんと可愛いって意味で。

 

 ていうかこのやり取り、もはやカップル。

 これは間違いなく俺の青春が動いている……!

 

「でもやっぱ彼氏とかほしいよね。私アイドルやってた時は恋愛禁止だったし、いたことないんだよ? ひどくない? こんな田舎のアイドルなのに厳しいよ」


 ほう、弓瀬も恋愛経験ないのか。てっきりあざとさゆえに恋愛経験豊富なのかと。

 というか、広島が田舎判定なのは俺ショックだなあ。

 

 パルコあるよ? いやほんと、何もないとか言わせないよ?

 

「へえ、意外。ひなのってもっと経験豊富なのかと思ってた」


「失礼だなあ。全然そんなことありませんー。まあ半分諦めてたところあるし、今は一ノ瀬君で十分かなぁ」


 それどういう意味だよ。

 そう言うと弓瀬は後ろの窓にこつんと頭をつける。

 

 

「でも、やっぱりアイドルはやめて正解だったのかもね」

 

「……なんかあったのか?」


「親が厳しくて厳しくて、大変だったからね。そりゃもうアイドルやめるなんて言った時には……ねえ」


 

 親が厳しいというのは学生間で話題には出てくるけど、実際自身の親と比べるしかない分基準があいまいだったりする。

 

 でも弓瀬の親、本当に厳しそうではあるよな。

 なんかわかるよ。見たことないけど。

 

「そういうものだろ。親なんてそんなもん。勝手に期待して、勝手に落ち込んで、勝手に怒って。何したいのか、何させたいのかわからんのが親っすよひなのパイセン」


「そういうものかねえ一ノ瀬クン」

 

 親と子って相容れないとこもあるよねえ……なんて、何かしんみり来るから話題チェンジ。

 

 

「そういえばさ、保健室登校ってどうなの? もう一週間くらい経つでしょ」


「ん? んーとね……楽しいかな。漫画読めるし、テレビ見れるし、スマホは触れるしぃ――」


「……あれ? 保健室って漫画なくない? テレビ見れるのスマホ触れるの?!」


 

 気づいたかと言わんばかりに弓瀬が悪そうな笑みを浮かべる。


「ふふふ、一ノ瀬君。世の中、バレなければ犯罪じゃないのだよ」


 やっぱりダメだ、こいつ。

 

 それを聞くとひなのの親が厳しいのは間違っていない気がする。

 バレなければ犯罪じゃないとか、思考回路這い寄れなんちゃらのニャル子かよ。


 俺は、いろんな意味を込めて弓瀬の勝ち誇った顔の額にデコピンを入れた。


 

「いったあ……っむう。ひなの怒ったよさすがに! 女の子にデコピンするとかマジナッシングだよ!」


「いや怒られるべきはあんたでしょうが。そんなんじゃ部室を私物化しそうで怖いよ俺は」


「そしたらずっとクラス行かなくてもいいねっ」


「それが困るから言ってるんだっ」

 

 実際、弓瀬がクラスに来なかったら部室も俺の役目も必要なくなるので、それだけは避けたい。

 俺だって楽しいんだぞ? 今まで願ってもできなかった青春を謳歌してるんだからな。

 

 無駄にテンポのいい掛け合いをしたところで車内アナウンスが流れる。

 俺はもう一度デコピンを放とうとするが、乗り換えの電停が近くなったので席を立った。

 「じゃあまたね」なんて言って電車から降りる。

 

 電停に降りたと同時くらいだろうか。スマホの通知音が鳴った。

 その画面に映る『ひな』って文字で大体誰かはわかる。

 女子っぽい名前で俺に連絡くれるの妹と弓瀬くらいだから。あ、あとフルネームの母親か。


『私は楽しみにしてるよ一ノ瀬君との新聞部! また来週!』


 その連絡を見て、少しばかり来週が楽しみになった。

 俺はいつも以上に、女子に引かれそうな笑顔でそのトーク画面を嬉しそうに見つめていた。

 

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