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第一章 第8話 ひなのを遠足へ?

 食べ終えたのか、先生は「よっこらしょ」と、その美貌には似つかわしくない言葉で座っていた階段を立つ。

 

 

「ところで一ノ瀬。進捗状況はどうだ。もう一週間ほど経つだろう? 本人も楽しそうにはしているし、心の変化もあるんじゃないのか?」


「それがないんですよ。本人はクラスに復帰したくないみたいで。まあまだ様子見っすね。とりあえずはクラスの問題かと」


「なるほどな。そのクラスの問題というのは具体的にどうなんだ?」


 

 驚いた。いや単純に驚いた。

 あんたうちのクラスの担任だろ。


「先生も知ってるんじゃないですか? 学校中にひなのの噂が流れてることくらい」


「ああ、そのことか……別に知らないわけではないが、そもそもお前ら生徒は教師にバレないところでの悪事が得意じゃないか。正直、見ている教師側からしたら弄りかいじめかの区別がつかんことが多い」


 先生は階段の踊り場の手すりに腕を置き、当たり前のようにポケットから煙草を取り出して俺の前で吸い始める。


「もちろん注意はするぞ? 叱ったりもする。それは教師としては当たり前なんだ。ただ、そいつらが叱ったからと言ってお前ら思春期どもは反抗するだろ? 結局はまた同じことをする。うちの学校はある程度頭がいいから陰口なんぞで止まっているのは幸いだがな」


「その陰口がどうにかならないかって考えているんですよ。無くならない限りは復帰は無理じゃないかって思うんです」


 難しいことはわかっている。

 真剣に考えこむ俺を見て来島先生が少し笑顔になる。

 

 

「……まだまだ浅いな一ノ瀬は。もしも陰口をなくそうとしているならそれは無理だろうな。それは分かるだろう? でも敵をなくすんじゃなくて味方を増やすことからしてみろ」


「というと……?」


「そうだな……今週の金曜遠足があっただろ? うちは新クラスでの親睦もかねて遠足なんてイベントがあるがそれに弓瀬を参加させるんだ」


 そうか、そんなものもあったな。

 一年のころ。俺は班決めで余りとして扱われ、仕方なく入れてもらったのを覚えている。


 まずい。色々とフラッシュバックしてくるんだが。

 今年もそうなるのかと思うと辛いです。

 ただ……

 

「でもそれって結構ハードル高くないですか? 俺さっき復帰する気ないって言ったと思うんですけど……」

 

「難しいことではないと思うぞ? 何も全員が敵なわけじゃないさ。一人や二人関与していなかったり味方だったりがいるからな。私がお前の味方なようにな」


 やめて。俺が敵を抱え込んでいるみたいな言い方やめて。

 俺、敵は作ってないよ? 味方はできないけど。


「そいつらと弓瀬を仲良くさせてとりあえず行事だけでも……」


「それ学校来てないのに行事だけ来る奴ですよ。逆に反感買いますって」

 

 俺がそう反論するとすごい勢いで睨まれた。

 え、今舌打ちしたよね。気のせい?


「もういい。とにかくやってみろ一ノ瀬! 根性だ根性! やってみるんだあー!!」


 先生はそう言うと右腕を大きく上にあげ、ほんの少し重い空気と緊張感を解こうとした。

 そして両腕を上げ、体を伸ばす。


「一ノ瀬しかいないからな……頼んだぞ! 私も模索してみるさ。それじゃ、今日忘れずに部室に行くことな!」


 そう言って先生は階段を下りて行った。

 

 手すりに止まった、やたらときょろきょろする鳥と目が合う。俺みたいなモブは空気を読むべきだろう。


 今まで大した人生送ってないんだ。

 少しは人の為になっても良いか。

 

 ――モブキャラ一ノ瀬友也。今こそ主人公になるときだろう。


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