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ランベール伯爵家

首都ケルンに到着した翌日、首都中央病院では、父ランベール・フォン・グラウスの死亡確認が行われた。


父が息を引き取ったのは、ケインが受付をしている最中だった。


「ケイン様、こちらでお待ち下さい」


昨日同様、車で来た後にクリスが受付に向かい、その間にロビーで待っていたときである。


クリスが受付にて名前を伝えると、受話器で連絡していた受付の人物が動揺していることが見て取れるほど狼狽え、受話器を下ろすと何処かへ連絡を取っていた。


やがて、クリスのもとに昨日会ったベルナー医師がやってきて何かを伝えると、クリスは驚きつつも、ケインのもとにベルナー医師を案内した。


「ケイン様、受付が終わりまして、ベルナー医師がこちらにまいりました」


ベルナー医師は急激に距離を近づけ、ケインに耳打ちした。


「ケイン様、来て頂いて早々ですがお話したいことがあります。グラウス伯爵の病室までご案内いたしますので、どうぞこちらに」


ベルナー医師は先導してエレベーターに案内をする。


やがて昨日と同じ病室にたどり着く前に、扉横の椅子を勧められた。


「ケイン様、お入りになる前にご報告したいことがありますので、一度こちらにおかけください」


病室前を通り過ぎ、彼の近くに行く。


「報告?」


ケインは、とっさに政治的な問題が頭をよぎった。


これまで父一人の指示により回ってい領地内の政治に対して何かしらの行動が起こされることは、予測されてしかるべきである。


弱った父にここぞと牙をむく人間もいるに違いないのではないか。


そうした予測が頭をよぎり、眉根を寄せる。


「何か問題でも?」


しかし、ベルナー医師の区長や態度からは医師としての態度が見えた。


白衣を着た壮年の医師は、一言、こう言った。


「グラウス伯爵ですが、先ほど様態が急変し、心肺停止状態となっております」


ケインは、ただ頷く以外の行動が出来なかった。


「父が、亡くなったのか」


つい先日まで確かに生きていた父が亡くなった。


特段思い出を共有した人物でもなく、わずか14日しか経っていないケインにとってみれば、現実味を帯びるには時間のかかる出来事だった。


「いえ、亡くなってはおりません。現在、病室にて蘇生を行っております」


「そうか・・」


ベルナーは言うことは言ったという態度で、再び扉に向かい、ケインの入室を促す。


病室の扉を開ければ、複数名の声が聞こえる。


「伯爵!お気を確かに!」


病室を見渡せば、昨日同様の眠るような姿の父が病室のベットに横たわっていた。


男性の声が病室に響く。


ベルナー医師は、彼らの横に立つと1人1人紹介した。


「ケイン様、私の補助のクラウス医師、研修医のライナー医師、看護師カーネルさんとクレインさん、ベーコン君です」


それぞれ、紹介に合わせ頭を下げた。


ケインは一人一人に頷き返す。


「ありがとう、今日まで父を支えてくれた君たちへの感謝はつきません」


先日会うまでは最悪だった父の印象が変わり、むしろ昨日までよく持たせてくれた、と感謝していた。


「ではベルナー医師、お願いします」


クリスは、ベルナー医師に声をかけ、死亡確認を促した。


「承知いたしました」


ベルナー医師が指示を出し、前に出れば、父を挟んで向かいにクラウス医師とライナー医師、看護師はその横でバインダーを持って待機していた。


ベルナー医師は、聴診器で心臓を、腕の脈拍を測り、肺に手を当て、目を確認。


足や腕などを触り、いくつか確認をしていた。


やがて記録が終わったかのようにその場を離れ、ケインの前に来た。


「8月9日12時34分、死亡が確認されました。死因は老衰、衰弱死です」


このとき、父は死亡した。


「・・・そうか。どうか父の遺体は、丁重に扱っていただきたい」


「承知いたしました」


ベルナー医師達は礼をすると、父の遺体をカプセル寝かせると、蓋を閉じた。


その後、クリスを伴いホテルへと帰宅した。


「ケイン様、ご気分が優れないことは存じ上げております。しかし、旦那様しなき今、ことは一刻を争います」


「分かっているさ。明日、朝一番に手続きを済ませよう」


「ありがとうございます」


クリスは、席に紅茶を用意した。


「いつも済まないな」


着席しつつもクリスの方を向いて、感謝を口にする。


クリスは、いつもケインの心情を読み取ろうとし、その都度飲み物を用意し、食事や環境をケインが最適に思えるように気を配ってくれていた。


ここ数日の関わりでも気づくほど、その気遣いは行き届いていた。


「ケイン様、勿体なきお言葉です」


クリスの声は平静のままだったが、暫し軽やかな動きで配膳をこなしていた。


翌日、父、ランベール・フォン・グラウス伯爵の遺体を伯爵家縁の地に持ち帰ることとなった。父の葬儀は、伯爵領に帰ってからとなるため、そのままランベール伯爵家旅客機に乗せることとなった。


公職であり、帝国の役人だった為、帝都墓地公園にも墓が用意されたが、遺体事態は伯爵家で管理を行う。


代々の伯爵家はそうしてきたようだ。


ケインは、父の遺体を病院より預かり、輸送機へ見送った後、再び首都中央に来ていた。


帝都行政区総務課を訪れるためだ。


帝国での手続きは、全てこの機関を通して行われる。


ランベール家として、代々お抱えの法律や国家体制に詳しい専門家を交えての手続きとなる。


ケインは、父の病室にあったピンバッチを持って、行政総務課に向かった。


クリスとともに、法律家のルーマン氏と弁護士のハーゲンを連れての訪問だった。


総務課のみが入る建物は、灰色の石と大理石、金の縁を使い、実に重厚な構えをしていた。


床を踏み鳴らす度、硬い音が鳴り、言うまでもなくその音はよく響いた。


一方、大人数がそうした音を発しているため、大して気になることはなかった。


受付中央口では、窓口があり、今回もクリスが受付を行った。


端にあるソファー群の下に行き、座って待つことにした。


「君達も座ってくれ」


ケインは、連れの残り二人にも着席を促した。


「私は結構です。立っていたほうが落ち着きます」


ルーマンは座る事を拒んだが、老齢のハーゲンは一礼し着席した。


向かいの右前に着席したハーゲンは眉根を寄せ、厳しい口調でケインに言う。


「石の階段は急でして、一度休ませていただきたく」


ケインは手を挙げて応じた。


「構わないさ」


やがて、クリスが戻ってきた後、受付にて、書類とともに複数の書類を受け取った。。


ルーマンとハーゲンにそれぞれ確認する。


「ふむ、特に問題はございませんし、よくある定型文です」


「こちらには、急遽変更する要旨が記されております。ご当主の急死に伴う書類かと」


それぞれの確認を得ると頷き、ケインはそれぞれの紙に署名した。


文字は何故か日本語であった。


「以上となります。正式に発行された際はこちらから任命書、証書をお送りいたします。既に代を重ねていらっしゃるお家ですので、式典等は省く対象となります」


書類関係は終わり、一切の行動が終了し、いよいよ伯爵家に戻る時分となってきた。


ケインは、前をクリス、右前後をルーマンとハーゲンに囲まれ、車窓にて首都を眺めつつターミナルに向かうのだった。


ランベール・フォン・ケインは、15歳にして、伯爵家暫定当主となった。

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