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第7話

 敷地面積が東京ドームと同じくらいと言われる、海人の父の会社である研究所に入るには、色々と手続きが必要であった。まずは、正面入り口に設置された守衛所で、入門許可証をもらう必要があった。厳重な手続きが必要なのは、それだけ秘匿性が高いからだろう。

 ここでも海人は、ある異変に気付いた。それは、守衛所の手前に警察官が二人立っていたからである。その警察官らしき人物達の顔を見ると、何やら緊張感が漂っていた。やはり、これはおかしいと海人は思った。何なんだ?

 海人はその異変に気付かないふりをして、いつもの通りに守衛所の守衛にガラス越しに話し掛けた。

「こんにちは。夏目健一郎の息子の海人です。父に着替えと弁当を持ってきたのですが、入門許可証の発行をお願いします」

 父親の研究所であるが、息子だからといって特別扱いされることはないので、一般の通常通りの手順を踏んだ。

 守衛の様子を伺うと、何やら緊張した面持ちであり、やはり、普段とは何かが異なるようで、それを隠すかのようなの返答があった。

「所長の息子さんの海人さんですね。ちょ、ちょっと確認を取りますので、少々お待ち下さい」

 いよいよおかしい。

 歳の頃50歳くらいに見える守衛は、急ぎ内線の電話を取り、誰かと話しをしているようだ。一言二言三言と電話で話して、何やら納得したようで、海人の車を一度覗き込むようにしてから、頷き海人にこう言った。

「お二人ですね。こちらに御記名下さい。確認後に入門証を発行致します」

「ありがとうございます」そう返答し、車に乗っている桜に記入を頼み、海人と桜が記入すると、首から提げる入門証を2枚渡してくれた。しかし、以前に研究所に来たことのある海人にしてみれば、ここからが大変なのも知っていたので、海人は桜にこう伝えた。

「桜ちゃん、この門からは、この入門証で入れるけど、棟内に入るには、専用のセキュリティカードがいるんだ。研究棟の受付でもらえるから、面倒だけど我慢してね」

「平気、平気、海人君のお父さんのお仕事が大変なのは知ってるから、気にしないでね。でも、警察とか自衛隊とかは、びっくりしちゃった。海人君のお父さんの会社って、いつもこんなのかな?」

 これはある程度予想できた疑問である。海人自身にも少なかれ疑問も心配もあった。

「実は、俺も会社の近くで警察官や自衛隊を見るのは、初めてなんだ」

 桜はというと、目をパチパチさせている。そして、こう付け加えた。

「何かあったのかしら?、大丈夫なのかなぁ?」

 海人は桜の不安を取り除こうと説明した。

「入門証はもらえたからね。見たところ、それ以外は何もなさそうだから大丈夫だよ。車を研究所の駐車場に停めるから、もう少し待ってね」海人はそう言い、開いた門から研究所指定の駐車場へと車を停めた。

 二人は車から降り、駐車場から少し歩いて、研究棟を目指した。どうやら問題無く、研究棟へは行けそうである。ここまでは普段通りで、安心して受付に着き、研究棟の無人の受付モニターで担当者を呼び出し、来訪の旨を伝えた。

 画面越しに「こんにちは。夏目健一郎の息子の海人です。父に着替えと弁当を持ってきたので、セキュリティカードの発行をお願いします」そう言うと、画面の女性担当者は、困惑の表情を見せた。

「確認します。少々お待ち下さい」

 そう言うと、誰かと通話をしているようだった。話し相手は海人の父であろうか。海人は画面の女性を見るのは初めてだった。

 もし、この会話を聞ける者がいたとしたら、こんな内容だ。

「所長、息子さんとお嬢さんがいらっしゃってますが、セキュリティカードの発行はいかがいたしましょうか?」

「ああ、海人と桜ちゃんだな。聞いているぞ。セキュリティカードを発行して通したまえ」

「しかし、所長は現在、レベル5にいらっしゃってますが、どのレベルのカードを発行いたしましょう?」

「レベル5でかまわんよ」

「所長、しかし、レベル5のパスは、一般の方に発行するのは危険だと思いますが」

「私が良いと言っておるのだ。早くカードを発行したまえ。それとも、私にそこまで行けと命じるつもりなのか?」

「申し訳ございません。ただちに、レベル5のカードを発行いたします」


 話しが終わったようである。話し相手が海人達に変わった。

「只今、そちらに伺いますので少々お待ち下さい」

 モニター越しの女性が言い終え、1分も経たないうちに研究棟の室内のドアが音もなくスライドして開き、モニターに表示された女性が現れた。そして、海人と桜にセキュリティカードについての注意事項を説明し始めた。

「このパスは、レベル5のセキュリティカードになります。そして、このカードがあれば、研究所内の全ての鍵となります。首の入門証に接続できるようになっていますので、接続してお使い下さい」

 そして、付け加えた。

「所長のいらっしゃる場所は、そのレベル5にあたりますので、そちらのエレベーターで地下5階の特殊開発ルームへお入り下さい」

 不満そうに説明を終える。何かを言いたそうな顔だった。

 海人は「ありがとうございます」と応じ、2枚のセキュリティカードを受け取り、1枚を桜に渡した。

 明らかにおかしかった。今までは、レベル4のカードをもらい、地下4階までは行ったことがあった。しかし、地下5階には入るどころか、その存在すら知らなかったからだ。

 疑問と不安が脳裏をかすめたが、海人は桜に心配をさせるわけにもいかず、何も言えないでいた。

 ここまで来たら、行くしかない。退く道は存在していなかった。桜を振り返り見て「じゃあ、行こうか」そう宣言すると、桜は無言で頷き、海人と桜は地下5階を目指した。

「ちょっと緊張するね」

 桜の残したこの言葉は、海人にも理解できて、同じ気持ちでもあった。

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