第77話<最終話>
「間に合ったのネ。危なかったのネ。うんうン、良かったのネ、桜のお届けなのネ」
ルウィンの不思議なチカラで現れた桜の小脇に抱えられたのは、ルウィンで何やら自慢げな顔をしている。
「ダメです!止めて!」
桜はバルディに必死で訴えている。そして、青黒い光の球を放つ直前のバルディに抱き着いた。
「な、何をするか!我を誰だと思っておるか」
「サーシャのお父さんでしょう?こんなのサーシャは望んでいないわ」
「いや、しかし、このままでは…チカラが爆ぜ…る…」
「サーシャ、チカラを貸して!」
桜がそう言うや頭上から声が降って来た。
『父様、サーシャは幸せでしたよ。もう、おやめ下さい』
「サ、サーシャなのか?」バルディからは険しい顔が消えていた。
『父様、このチカラは正しきことにお使い下さい』
「しかし、我のチカラは呪われし黒のチカラ。我にも何ともならぬ」
『桜、お願い。手伝って』
「もちろん!じゃあ」
『一緒に』
「一緒に。せーので」
『せーの』
桜はバルディに抱き着いた手にチカラを込めた。
「せーの」
見えないはずのサーシャがバルディに強く強く抱き着いている姿が見える。
その次の瞬間。
パリン!
頭上に広がった青黒い光の球が軽い音を発して消えた。
「な、何と?」バルディには驚きの表情が見える。
「これで安心ね」
「驚きでございます」と言ったのは、ガスキュールだ。
『桜、父様の呪いの黒のチカラも消して』
「出来るのかい?桜ちゃん」海人は先程から驚いてばかりだ。
「うん、何となく出来る気がするの」
「ひ、姫?」バルディも驚いている。
「姫様、お願い致します。どうか、バルディ様をお助け下さい」
ガスキュールがふらついたバルディを支えるために進み出て来た。
桜は抱き着いたバルディに念を送るように祈った。
どうか、人を不幸にする呪われしチカラが消えますように。
どうか、チカラを持ちし者が幸せに暮らせますように。
どうか、サーシャの魂に安寧をもたらせるように。
どうか。どうか。どうか。どうか。
ささやかな幸せが脅かされることのなきように。
「お願い!!!」
パスッ!
膨らんだ風船が弾けるかのような、何故かその場に居た全員がそう感じた。
「おお、おお!?」
「どう?」
「おお…消えておる?」
「ホントに?」
「…消えておる」
「良かった。これで安心ね」
「バルディ様!」ガスキュールは小躍りして喜んでいる。
「桜ちゃん!?」
「海人君!」
海人は桜の手を取ると、強く強く抱きしめた。
「桜ちゃん…」
「海人君…」
「お帰り」
「ただいま」
「長いようで短かった気がするよ」
海人は自分の心境を素直に話した。
「私ね、色んな人達に会ったの」
「俺もだよ」
海人に抱きしめられた桜は、応えるように抱きしめ返した。
「会えて良かった」
「そうだね」
「ねエ、ねエ?一番の立役者をお忘れじゃないかイ?」
不満そうな声を発したのは、ルウィンだった。
「あなた、ルウィンと言うのね」桜に問われると、「そウ、そウ。ルウィンだヨ」
いつまでも自慢げなルウィンで「世界で一番可愛くテ、世界で一番頭のいいんだヨ」
前にも聞いたことのあるようなセリフだった。
「きゃー、可愛い!さっきは急いでいたけど、こうして見ると最高ね」桜に言われると、
「うン、うン。わかればいいのネ。桜は見どころがあるのネ」
どうやら、ご満悦のようだ。
「おじ様」
「我か?」
「そうよ。バルディと呼ぶわけにもいかないから、おじ様でもいいんじゃない?サーシャの父親でもあるんだからね?」
「そ、そうであるか?お、おじ様か…何ぞくすぐったい気持である」
「あなた達はどうするの?」
「我は罪滅ぼしをしようと思う。呪われしチカラは消えたが、我はまだ本来のチカラが使えるからな。このチカラを使って、償いのための救済をするものとする。弱き者や正しき者の助けとなろう。それがサーシャの願いでもあろうからな」
バルディは父親の顔をしていた。
「そうね。ガスキュール、あなたは?」
「私は、バルディ様の執事でございまして、どこまでもお供致します」
「ガスキュール、お前?」
「お供させて下さいませ」
「うむ、頼んだぞ」
「ははっ」
「桜ちゃん、俺達は元の世界に戻ろう」
「そうしたいけど、どうしたらいいの?」
「俺に任せて」
「うん」
「ルウィン、お前も来い」
海人はそう言うやルウィンを小脇に抱えた。
「ア、あア、相変わらず強引なのネ」
「どこへ行くの?」
「鏡のある部屋だよ」
「もしかして?」
「近くにあったんだ」
「寝室の大きな鏡かしら?」
「当り、良くわかったね」
「だって、私の寝室でもあったから」
「そうなんだ」
「そうよ」
「ルウィン、頼める?」
「ボクは先程の移動でチカラを使い果たしてしまったのネ。今のボクには無理なのネ」
海人がどうしたものか考えていると…「姫よ」と言ったのはバルディであった。
「おじ様、どうしたの?」
「いや、別荘に戻れば良いのだな?」
「そうみたいだけど…」
「どれ、我が送ってやろう」
「え?」
「それくらいのチカラなら、今の我にも残っておる」
「じゃあ、お願い」
「よかろう」
海人は桜の手をギュッと握った。
桜も海人の手を握り返す。
「姫様、お別れでございますか」ガスキュールは目をウルウルさせている。
「そうね。元気でね、ガスキュール」
「寂しくなるが仕方あるまい。姫には姫のいるべき世界があるからな」
父親の顔をした、バルディだった。
「お別れね」
「そうであるな」
「おじ様、お願い」
「姫様、お元気で」とは、ガスキュール。
「二人とも、元気でね」
「では、参るとするぞ」
バルディが指を鳴らした。
パチリ!
「行きましょう」
「行こう」
二人は鏡のある別荘を目指した。
長いようで短かった二人の旅の終わりでもあった。
次回<エピローグ>で「了」となります。




