第75話
ぼんやりとした意識がはっきりとして行く。
「ここは…?」
時空の鏡に入った海人だったが、その先に何があってどの場所に現れるかはわからないので、周囲の様子を伺った。どうやら、木造の建物で大きな天蓋付きのベッドがあるので、寝室らしい。
「奴じゃ。近くにおるぞ」ナナカミの声が飛んで来た。
「近く?」
「正確には、この建物を出た先じゃ」
「急ごう」
「おう」
「ちョ、ちょっと待ってヨ」小脇に抱えた、ルウィンが抗議の声を上げる。
「何だよ、ルウィン?」
「ボクはここに置いて行ってヨ。ボクは戦いには向かないからサ」
「わかった」海人は、小脇に抱えたルウィンを床に下ろした。
「海人、行くぞ」
ナナカミに応えて「そうだね。急ごう」
「ちょっと待ってヨ」
ルウィンだった。
「どうしたんだ?急ぐんだよ」海人は気が急いた。
「あのネ。あの高さのドアだとボクが届かなくて出れないからサ。全部のドアは開けておいてネ?」
良く考えたらそうだった。確かにあの高さのドアノブがあっては、ルウィンには開けられない。
「わかった。気づかなくってごめんね」
そう言った海人に「ううン、ほらほラ、急ぎなんだよネ?海人なら大丈夫、行っておいデ」
海人は急ぎ建物を後にしたが、出る途中のドアは全部を大きく開けておいた。先を進み急ぎ後ろを振り返ると、建物はどうやら、2階建ての木造家屋らしかった。
「海人、この小道を上った先じゃ。まだ奴の存在を感じる」
春のような陽射しが降り注ぐ中、建物の背後にある小道を駆け上り、先を急ぐ海人にナナカミの言葉が飛ぶ。
「桜ちゃんは?」
「それはわからぬが、バルディは確実におる」
「そうか、じゃあ、バルディに聞くしかなさそうだね」
道の両脇には名前を知らない白い背の低い花が咲き誇っていた。心を落ち着かせるかのような香りのする花だった。
一心不乱に先を進むと、突然開かれた場所に出た。広くはない。だが、ついに見つけた。
バルディ…だけではなく、桜の姿、桜をついに見つけた。
二人は、墓標みたいなものを前にして、何やら話していたようだったが、海人の出現により、我に返ったようだ。
海人は叫ぶように言った。
「桜ちゃん!!!」
「海人君!」桜が海人に応えた。
「来たか!小僧!」バルディは余裕の表情だ。
ついに、ついに桜を見つけることが出来た。その桜の隣には、バルディがいる。バルディの背後には海人の知らない、背の低い男が控えている。
背の低い男がバルディに小さく訴える「ここは場所が悪いようで…」
「そうだな、ガスキュールよ。どれ、場所を変えるとするか」
そう言ったバルディは、指をパチリと鳴らした。
次の瞬間に、その場の全ての者が姿を消した。桜一人を残して。
「海人君…どこへ行ったの?」
残された桜の声は弱々しく、その場から消えた海人には届かなかった。




