第74話<帰還>
薄れた意識がはっきりとして行く。ここは次元の間だった。海人は戻って来たのだ。
目の前のランウゥが「大変じゃったが、良くやってくれたの」海人に優しく言葉をかける。
「海人、海人、放してヨ。早ク、早ク」
小脇に抱えた、ルウィンがバタバタとしている。
「そうだったね」そう言い、ルウィンを解放した。
「ランスゥ…大変というか、色々とあり過ぎて、ちょっと混乱している気がするよ」
ニンマリと白い顎鬚を触りながら、ランスゥが言う。
「お前さんには本当に申し訳なく思う。じゃが、今この次元の間だけではなく、全ての世界を救えるのもお前さしかおらんからの」
「ランスゥ、ボクもいるヨ。忘れないデ。可愛くテ、頭の良イ、ボクも忘れないでネ」
ルウィンは抗議の声を上げる。
「そうであったの。ルウィンも良くやった。これからも頼むぞ」
「うんうン、任せてなのネ」
ルウィンが会話に加わると緊張した場が和む。だが、早く桜を助け出さねばならない。
「次はどこへ…?」
「まあ、急くな。わかっておる。次はここじゃ」
そう言うと、頭上から大きな一枚の鏡が降りて来た。
「次はここじゃ。だが、ここは…バルディのチカラの及ばぬ世界じゃ。じゃが、奴はここに移動しておる。しかも、この反応は、奴がそこにいることを示しておる。奴が支配の及ばぬ世界におるのかは謎じゃ。じゃが、これは千載一遇かもしれぬ。ここなら奴と対決するには有利じゃ。海人よ、行ってくれるか?」
「もちろん行くよ。でも、そこに桜ちゃんは?」
ランスゥは鏡をじっと見詰めると「対のチカラが存在しておる。どうやら、桜という娘さんもいるようじゃな。急げば間に合うじゃろう」
桜がいるかもしれない?
「じゃあ、急いで…」
「急ぐでない。チカラは二つだけではなく、三つある。バルディと桜…じゃが、残りの一つのチカラの正体がわからぬ」
先程から、ランスゥがバルディだけではなく、桜を含めて『チカラ』と言っているのを聞いて海人には疑問があった。どうやら、桜にも何かの大きなチカラがあるようだ。それと、残り一つの三つ目のチカラ。
「行こう!」
「それしかあるまいな」と言ったのは、背中のナナカミだった。
「ボクも行くヨ。忘れないでネ」ルウィンも続く。
「海人よ」
「行こう」
「急くでない。ワシの予感じゃが、これがきっと最後の戦いとなろう。頼んだぞ」
ランスゥに応えるように「わかった。全てを終わらせるよ」海人は宣言するように言い放った。
「よろしい」
目の前の大きな鏡は、海人の背丈よりも大きなもので、頂点に樹のような飾りがある、縁は色とりどりの花々で囲まれていた。海人の知ってるような花だったが、花に詳しくはないのでわからなかった。知る者がいれば『リッカ』と『ササラナ』と呼ばれる花だったろう。
海人は鏡に意識を集中させた。両目には赤い羽が浮かぶ。鏡は波打ち、海人達の姿を映し始めた。
「行って来るよ」そう、ランスゥに言い、鏡へと入った。
海人の背中には「頼んだぞ」という、ランスゥの言葉が届いた。




