第73話
意識がはっきりし、桜は自分の置かれた状況を思い出していた。そうだ。ここはサーシャの墓前で、桜はサーシャーを想って祈りを捧げていたのだった。
始まりの樹のある、この世界は何もかもが澄んでいるかのようで、心地よく、何だか懐かしささえ覚える。
「サーシャ、あなたは幸せだった?」
墓前でサーシャに問いかけるが、答えを得ることは出来ない。
だが、桜には、自分が何をすべきかがわかっていた。そうだ。バルディを止める。バルディを助けてとサーシャは訴えたが、その術が桜には無かった。しかし、それは桜にしか出来ないことも何故かわかった。
「私に出来るかわからないけど、私にしか出来ないのね?」
再び墓前で訴えるが答えは無く、独り言のようになった。
その時、髪をそよがせる風が吹き、ササラナの花の香りに包まれた。爽やかな香りで、心が洗われるかのような香りだ。
そよ風が止むと、背後に気配を感じた。
「姫、待たせたな」
桜の背後に、バルディが音もなく現れたのだった。サーシャの墓前でバルディは一瞬表情を和らげたかのように見えたが、また険しい表情になった。その表情は、何かはわからないが何かを決意したかのようだった。
「バルディ…本当のあなたは?サーシャはそれを望んでいると思うの?」
桜の訴えに「我の知ったことではない。我は我に仇名したこの世界に復讐し、終止符を打つものとするのみである。それ以上でもそれ以下でもない」
「サーシャがそれを望んでいると本気で思うの?」
「姫は知るまい。サーシャが何をしたというのだ?何故にサーシャが若くして命を落とさねばならなかったというのだ?」
バルディが苦悶するかのような表情で答える。
「サーシャは若くして亡くなってしまったけど、それでも幸せだったと思うわ」
「…サーシャが幸せだったと?」
「そうよ」
今のバルディには、戸惑いの表情が見えた。
「あなただけではなく、ガスキュールもいたし、周りの皆からもサーシャは愛されていたわ」
「そうでございます」そう言ったのは、音なくバルディの背後に現れた、ガスキュールだった。
「お前までそう申すのか?」
「恐れながら申し上げますと、サーシャ様はお幸せだったと思います」
桜とガスキュールの訴えに、バルディに逡巡の表情が見える。
「ガスキュール!」
「ははっ」ガスキュールが跪いて答える。
「我が変わることはない。我がチカラは復活した。今が好機である。当初の予定通りに『次元の間』を我の支配に置くものとする」
「ははっ、全てはバルディ様の仰せのままに」
「バルディ…あなたは…」
桜はバルディの言葉を聞いて絶望した。しかし、諦めてもいない。今こそ、サーシャの願いの通りにバルディを助ける時だと思ったからだ。サーシャの願いを叶えようと思った。




