第72話
遠くから声が聞こえるような気もするが、耳をそばだてると近くのような気もした。
これは現実なのか?自分に自分で問いかけるが、桜にはこれが自分の現実とは違うことが何故かわかった。これは、サーシャの記憶で、桜は夢を見ているのだ。
そうすると、サーシャの見ているだろう記憶を桜も見る事が出来た。
サーシャは、2階の寝室のベッドを抜け出し、階段の踊り場から階下に耳を傾けていた。
「…バルディ様が私の住む世界、戦乱に明け暮れた国を御一人で平定して下さいました」
はっきりと耳に出来る。
「今となっては懐かしいものであるな。我は生まれの国…生まれの惑星を旅立ち、お前の惑星の国へと辿り着いた。人は多かったが争いの絶えぬ、荒れ果てた国であった」
「そして、アルマール王国を御一人で御作りになさいました。私が夢に見た争いの無い、平和な国です。私はそこでバルディ様にお仕え致し、幸せでございます」
声の主は、バルディとガスキュールらしかった。アルマール王国は、バルディの統治により繁栄と栄華を極めることとなったのだが…。
「そして、今は亡きサーシャの母となる、フレイと出会い、サーシャが生まれた。ガスキュール、お前とも長いな」
「そうでございますが、私にとっては昨日のことのようでございます」
「ならば、ガスキュールよ、お前もわかっておろう?」
「いえ、私には何とも…」
「まあ、よい」
バルディは何やら決意したらしく、それが果たして解決の糸口になるのかは未知の領域だ。
「我が国を作り、治めるようになってから、我はこの世界を飛び回った。しかし、無念だ。この世界には、サーシャを治す術は無い。こうなっては、禁断の領域に足を踏み入れるしかあるまい」
「バルディ様、そ、それは、もしかして…」
「我は封印を解放し、次元跳躍を行うものとする」バルディは宣言するように言い放った。
「フレイ様がバルディ様を想って封印なされたチカラでございますよね?」
「そうだ。フレイ亡き今、封印のチカラも弱っており、今の我なら打ち破ることも可能であろう」
「バルディ様、それは危険過ぎるのではございませんか?」
「この世界は、端から端まで調べ尽くした。しかし、有用なものは無かった。サーシャを救うためには、最早それしかあるまい。呪われた黒の魔法使いの血のチカラを解放するものである。ガスキュールよ、そんな我でも仕えてくれようか?」
「どこまでも、地の果てでもお供させていただきます」ガスキュールは迷いを見せずに応えた。
「うむ、頼んだぞ」
「ははっ、全てはバルディ様の仰せのままに」ガスキュールは跪いた。
意識がぼんやりと遠のいて行く。
サーシャ、あなたは私に何を訴えたいの?
バルディをどうしたらいいの?
お願い。夢でもいいから教えて。そう思っていると、サーシャの夢は終わった。
桜には何が何だかわからなくなった。バルディは桜を浚い、何をしようとしているのか?
バルディは、桜を実の娘のように扱ってくれいている。
サーシャと桜が魂の双子とのことだが、それが何かの解決への道となるのか?
「教えて、サーシャ。私はどうしたらいいの?」自然と桜の口から独り言が出た。
バルディの言っていた、次元跳躍が、もしかして…全ての始まりなのではないのか。
桜は、自分が本当は何もわかっていないのだろうと思ったが、退く事も出来ないので、自分に出来る精一杯で前に前に進もうと思った。




