第68話
「…サ…サーシャ」
私を呼ぶ声が聞こえるが、私は桜であって、サーシャではない。薄っすらと目を開けると、そこは天蓋のあるベッドの上のようだった。そうか、私は眠りに落ちていたんだ。
…これは、サーシャの過去の記憶なのだろうか。
「やっと目を覚ましたようだな、我が愛しき娘よ」
ベッドがら体を起こし、声の主を探すと知っている男の顔があった。
『バルディ』と声を出そうとしたのだが、実際に口から出た言葉は「おはようございます。バルディ父様」だった。
やはり、これはサーシャの過去の記憶のようで、桜に何かが出来そうではなかったので、静観することとした。
それと、バルディの傍らを見ると、また見知った顔があった。そう、ガスキュールだった。
「姫様、おはようございます。それに、おめでとうございます」
「これ、ガスキュールよ。それを最初に言うのは我の役目ぞ」
「あわわ。私としたことが、大変失礼致しました」
「まあ、よい」そう言った、バルディだが温厚な表情で微笑んでいる。それは、桜の知るバルディとは違う。
「サーシャよ、今日で6歳であるな。よくぞここまで健やかに育った。我は父として大変に感激し、歓喜に震えておる」
「まあ、父様ったら、大袈裟ね」
「本日は国を挙げての誕生祭を執り行うものとする。我も余興を披露するので、楽しみにしておれ」
「姫様、姫様、私もです。バルディ様には敵いませんが、私の取って置きの余興を披露させていただきます」
「楽しみだわ。父様、ありがとうございます。ガスキュールもありがとう」
「では、着替えてまいれ。朝餉の用意があるのでな」
「はい、父様。…私の言いたい事も察していただけますか?」
その時、ガスキュールが両手をポンと合わせると、両手に白いドレスが現れた。
「こちらにお召替え下さい」
「ありがとう、ガスキュール」
サーシャはドレスを受け取り、バルディとガスキュールに視線を送った。
「…父様、ガスキュール」
呼ばれた二人は、やっと察したようで「我としたことがすまぬ」「あわわ、大変失礼致しました」
そう言い、二人は寝室から出て行った。
寝室に一人となった、サーシャは「誕生祭ね。忙しい一日になりそうだわ」そう呟き、着替えを始めた。
着替えを終えた、サーシャは寝室を出て、朝食のある食堂へと歩を進めた。
食堂に行くと、バルディは既に席についており、ガスキュールが給仕をしている。
サーシャを目敏く見つけるやガスキュールが「こちらにお座り下さい」そう言い椅子を引いて座らせてくれた。
「ありがとう」サーシャがそう言うと、
「ありがたきお言葉でございます」と、ガスキュールは嬉しそうだ。
食卓であるテーブルには、白パンにスープ、季節の果物が並んでいる。
「揃ったようだな。では、いただくとするか」バルディの宣言があり、
「はい、いただきます」
「ガスキュール。めでたい日である。同席を許すぞ」そう、バルディが言ったのに対し、
「わ、私でございますか?」
「お前しかおるまい」
「私も賛成します。ガスキュール、遠慮しないで」サーシャの言葉を聞き、「ははっ、バルディ様と姫様がおっしゃるのでしたら」
こうして、バルディとサーシャ、ガスキュール。三人は朝食を楽しんだ。
ガスキュールは食べながら歓喜の涙を流し、食べては涙しと、サーシャは一緒で良かったと思ったものだ。
朝食を終え、バルディが誕生祭について教えてくれた。それは、城のバルコニーから国民に対して行われるセレモニーということで、国を挙げて、サーシャの誕生の日を祝うものであるらしかった。




