第67話
「姫様、姫様」
「何よ?」
「そちらではございません」
「あら?そうなの?」
「はい、別荘の裏手の小道の先にございます」
ガスキュールの言う通り、別荘の裏手に回ると、緩やか上る小道があった。この先に彼女が…桜は何故か確信していた。
「ちょっとここで待ってて」ガスキュールにそう言い残し、桜は別荘の周辺に咲き誇るリッカの花を2輪摘んだ。1輪を自分で携え、1輪をガスキュールに渡す。
「私にでございますか?」ガスキュールはどうしたらいいか迷っているようで、「彼女にね」桜がそう言うと、「そうでございますな。姫様、ありがとうございます」と、リッカの花を受け取り、大事に手にした。
別荘の裏手の小道に入り、緩やかに上る道を進んだ。道の両脇には、リッカの花ではない、何か桜の知らない白い背の低い花が咲き誇っていた。桜は、まるで自分を花が導いているような思いでもあった。
「この白い花は?」
「ササラナなる花でございます。ササラナには鎮魂という意味がございまして、こちらは、バルディ様が…」
「バルディが?」
「はい。バルディ様が取り寄せて、自らの手でお植えになりました」
「そう、何となくわかる気もするわ」
桜は納得し、やはり、自分の思い立ったことについて、それが正しいことであると実感を持てた。
「じゃあ、こちらも摘んで行きましょう」
桜は、ササラナを2輪摘むと、1輪をガスキュールに渡した。
「ありがとうございます」受け取りそう言った、ガスキュールは何だか涙ぐんでいた。
桜とガスキュールは小道を進んだ。両脇をササラナに包まれるように、そして、少し進むと開けた場所に出た。そして、見つけた。
「あそこに彼女が眠っているのね?」
「おっしゃる通りでございます」
桜は納得し、リッカとササラナを束ねて墓前に供えた。ガスキュールも桜に習って同じように供えた。
墓は小さな石で出来た墓標があり、誰が整備しているのか、墓の周りは整えられ、塵一つ無かった。墓石に何か書かれているようだったが、それが何かは桜にはわからない。きっと、サーシャの名と鎮魂の言葉が書かれているだろうと桜は何となく思った。
桜が墓前で祈ると、ガスキュールも恭しく同じように祈りを捧げた。
「彼女、サーシャはバルディの子どもだったのね?」
ガスキュールに視線を投げて問うと、「おっしゃる通りでございます」そう返し、「何故それをご存じで?」
その問い返しに「彼女に会ったから。夢の中だったけどね」
「そうでございますか…」
「ええ、そして頼まれたの」
「何をでございますか?」
「そうね。今は言えないかな」
ガスキュールは少し沈思し、「いつか教えて下さいますか?」
「ええ、きっと。その時が来たらね」
「姫様の仰せのままに」
「大袈裟ね」
「いえいえ、恐れ入ります」
「まあ、いいわ。私はもう少しここにいるから、あなたは先に別荘に戻って」
桜がそう言うと、「姫様をお一人にするわけに参りません」
「私は大丈夫。お願い、一人にして」
桜の真剣な表情を伺った、ガスキュールは観念したようで「何かあればお呼び下さい。このガスキュール、地の果てからでも飛んで参ります」
「大袈裟ね。わかったわ。ありがとう」
心配そうな、ガスキュールであったが、不承不承という感じでとぼとぼと小道を下り始めた。それを見送った桜は、墓前で彼女に問いかけた。
「サーシャ、会いに来たわ」そう言うと…
『桜…私達は魂の双子。そう、私と桜は魂の双子なの』と、桜を呼ぶ声が頭の中に聞こえ、桜はだんだんと意識が遠くなった。そして、桜は魂の記憶を巡る旅へと旅立つこととなった。
過去へ。
過去へ。
遠く。
遠くへ。
桜はサーシャとなった。




