第66話
体にじっとりと汗をかいていた。そうだ。桜は夢を見て、夢の中で彼女に出会った…はずなのだが、頭が少し混乱し、何が本当なのかがわからなかった。
夢の中のサーシャは桜に訴えていた。
『バルディ父様を助けて!』、と必死に訴えていた。最後に目にしたのは、桜の顔をした、サーシャだったが、あれが何を意味するのかもわからない。
天井が見える。薄っすらと目を開けると、それに呼応したかのように天井の照明が灯った。その明かりは、桜の目と頭が覚醒するにつれ、次第にその光を強くして行った。ガスキュールの不思議なチカラなのだろうか。
サーシャ。初めて夢の中で出会ったのだが、桜には昔馴染みのように何故かどこか知っているような気もした。
頭を振って、両手で軽く顔をはたき、桜は強引にも目を覚まそうとした。そして、何故か自分が次に何をすべきなのかを理解することが出来た。
「そうか。直ぐ近くにいたのね」そう独り言を呟き、寝間着を着替えて、ガスキュールがいるだろう1階へと下りて行った。
1階へ下りた桜を目敏く見つけた、ガスキュールが「姫様、おはようございます。昨晩は良くお眠りになられましたか?ささ、食堂に朝食の準備が整いましてございます。さささ、どうぞどうぞ」
何故だか嬉しそうな、ガスキュールだった。
「おはよう、ガスキュール。良く…眠れたと思うわ。朝食ね、ありがとう。何が食べれるのか楽しみだわ」
桜は、そう応え、1階の食堂に行く事にした。
食堂の椅子に座ると、ガスキュールが料理の説明を始めた。食欲をかき立てるいい匂いが部屋中に充満している。
桜がガスキュールのいる食堂のある1階に下りる数刻少し前。食堂でガスキュールが楽しそうに朝食の準備を、料理をしていた。
「さて、バルディ様はどんな食材を取り寄せて下さったのでしょうか」
ガスキュールがポンっと両手を合わせると、食材が出現した。
「おお、流石はバルディ様。この食材を目の前にすると、私の腕が鳴るというものでございます」
食材は、ガスキュールも初めて見るものだろう。
「そうでございますな。姫様の世界のお国の朝食…そうですな、あれとあれを使って作ると致しましょう」
トントントン グツグツグツ ザクザク
ジャージャー トントントン グツグツグツ
ザクザクザク ジャージャー グツグツグツ
楽しそうな、料理に勤しむガスキュール。
完成された朝食を目にして、「我ながら自分の才能の恐ろしさよ。それでは、姫様をお呼び致しましょう」
そんなことがあったとは知るはずもない、桜は目の前の朝食を見て驚いていた。
鯵の焼き魚あり、ワカメの味噌汁、それにおひつのご飯。これぞ、日本の朝食というものだったからである。
「お召し上がり下さいませ」
「ガスキュール、あなた一体何者なのかしら」
「先にも述べましたが、私は、バルディ様のただの執事でございます」
「本当に食えない人ね」
「ささ、料理が冷めないうちにお召し上がり下さいませ」
「そうね。いただくことにするわ」
「あなたは、また海藻のシチューなの?」
「いいえ、今回は、干物なるものと味噌汁なるものをいただくことと致します。これらの潮の匂いがたまりません」
「その干物の焼き魚は、鯵のくさやなんだけど、私の世界でもその匂いが苦手な人が多いのだけどね」
「そうでございますか。私には至高の匂いというもので食欲がかき立てられるというものです」
「何となく、あなたの好みがわかった気がするわ」
「恐れ入ります」
「では、いただきます」
桜は目の前の朝食を食べることにした。しかし、ここまで日本の和朝食が食べられるとは思ってもいなかった。
「美味しい」自然と桜の口から言葉がこぼれ出た。
ガスキュールも黙々と朝食を食べていた。
「まことに美味しゅうございます、姫様」
何と、ガスキュールは干物を頭から骨ごとバリバリと食べている。
「ちょ、ちょっと、頭と骨は食べなくていいわよ」桜が言うと、
「いえいえ、全てを美味しくいただくのが私の流儀でございます」
「何ともないの?」
「大変美味しゅうございます」
「まあ、それならいいわ」
「恐れ入ります」
桜は桜で久しぶりの和朝食を楽しみ、ガスキュールも初めてであろう和朝食を堪能した。
食べ終わり「ごちそうさまでした」と言った桜に対し、「ありがたきお言葉でございます」ガスキュールが満面の笑みを浮かべていた。
朝食を終え、桜とガスキュールは居間で二人きりになった。
「近くにいるのね?」桜の一言に「何のことでございましょう?」ガスキュールは何か核心を突かれたようで狼狽え始めた。
桜は桜で、今自分が何を成すべきかが、何故かわかっていた。
「行くわよ」
ガスキュールは観念したようで、「ははっ、姫様の仰せのままに」
「サーシャ、待っていて。今から会いに行くから」
桜を先頭に、ガスキュールを従えて、バルディの別荘を後にした。




