第65話
…さ…さく…さくら…桜…
…わた…わたし…わたしの…
…お願い…私の…願いを…
「ここは…どこ?」
『ここは…』
「私は…どこに?」
『桜…』
「そう、私は桜」
『桜…』
「あなたは誰?」
桜は頭の中に響く声に聞いて答えていた。
気が付くと、周りは青一色で、まるで青空の中に浮かんでいるかのようだった。目の前も青で、足元も青、左右後ろと頭上を確認したが、ただ青色が広がっているだけだった。
『桜』
今度は、はっきりと聞こえた。年若い女性の少女に近いと思われる声だった。
「そう、私は桜。あなたは誰?」
『私は、サーシャ』
「サーシャね。じゃあ、ここはどこでどうなってるの?」
『ここは…ここはあなたと私の夢の中』
「夢の中?」
『そう、夢の中』
「私とあなたの夢の中って、どういうことなの?」
『夢であって、夢ではないものなの』
「夢であって、夢ではない?」
『そう』
「わからないわ」
『いいの』
「じゃあ、私はどうしたらいいの?」
『助けて』
「あなたを?」
『いいえ』
「誰を?」
『父様を』
「父様って、誰なの?」
『桜が知ってる』
「でも、知らないわ」
『知ってる』
「わからないわ」
少し桜は焦れる気がした。
『父様を助けて』
全くわからない。
「だ・か・ら・父様って、誰なの?」
沈黙が流れた。桜の気は焦れるばかりだ。
「ねえ!?」
『…ディ父様』
「えっ!?聞こえない」
また暫し沈黙が流れた。
その時、桜の目の前に人影らしきものが現れた。人影は、淡く薄く白く輝いているようだが、それは陽炎みたいで掴みどころのないものだった。
『バルディ父様を助けて!』
人影の少女らしきものが叫ぶように言った。
「バルディを?」
『そう、バルディ父様を助けて、お願い!』
「私が?」
『そう、桜にしか出来ないの』
「私がどうやって?」
『時が来ればわかるわ』
「…わからない」
『桜、バルディ父様を助けて』
人影の顔が微かに浮かんだが、その顔は何と。
『お願い!』
桜の顔で叫んでいた。




