第64話
美味しかった。ガスキュールの天ぷらは、桜が今まで食べたどの天ぷらよりも美味しかった。鱚、海老、イカ、南瓜に蓮根とさつま芋、オクラと、衣はサクッと中はジューシーで、本格的だった。それに、ご飯も艶々で甘みも感じられ、水加減も炊き方も完璧。ガスキュールのチカラか料理の腕なのかはわからなかったが、本当に美味しかった。
「ごちそうさまでした」桜が言い終えると、「こちらも今回本格的でして、豆から煎りました」
そう言い差し出されたカップを受け取ると、熱々のコーヒーで、インスタントではない芳醇な香りがした。
「これも美味しそうね。良い香りだわ」
一口飲むと、心を落ち着かせるかのような味がした。
「あなたは飲まないのね?」
ガスキュールはあの苦味が苦手らしく、最初に一口飲んでからは口にしていなかった。
「私は、ちょっとあの苦味が苦手でして…」
困ったような顔をガスキュールは返していた。
「慣れると美味しいんだけどね。苦味が苦手な人もいるようだから、仕方ないと思うわ」
コーヒーを啜りながら一息ついていると、ガスキュールが様子を伺うように言った。
「姫様、2階に寝室がございます。本日はそちらにお泊り下さいませ。フカフカのベッドの御用意もあります」
「そう、わかったわ」
桜は気の無い返事を返し「そう言えば、ここへ来た本当の目的は何?ただのバカンスという訳ではないわよね?」
ガスキュールを軽く睨むと、「そ、それは私の口からは…」何か困ったかのような顔だ。
「まあ、いいわ。美味しい天ぷらも食べれたことだしね」
「2階の寝室にはお着替えの御用意もあります」
「そう、じゃあ、少し早いけど、休ませてもらうことにするわ」
「お休みなさいませ」
「お休み」
「私は、居間にて待機しておりますので、何かありましたらお呼び下さい」
「わかったわ」
桜は食堂を出た右手側にある階段を上った。2階は2部屋あるくらいで、そんなに広くは無かったが、寝室らしき部屋は、簡素なものであったが、室内は綺麗で清掃がされていた。ベッドは、ガスキュールが言った通り、フカフカだった。壁際にはクローゼットらしきものもあり、中を確認すると女性ものの寝間着があった。
「どうしたものかしら…」
桜にはこの現状が納得できていない。それも当然で、待遇こそよけれど自分で望んだ結果でもない。バルディに攫われ、囚われの身だ。
クローゼットの寝間着を取り出し、着替えながら考えていた。着替えて、ベッドに腰かけると、眠気が襲って来た。このまま寝てしまってもいいものだろうか。部屋には何かのお香の香りが漂っているようで、気分を落ち着かせてくれるような気もした。
うつらうつら、枕に顔を埋めて沈思に耽っていると、本格的な眠気に襲われ、夢の中へと落ちて行った。
うつららうつら
うつらうつら
夢の中へ。
夢の中へ。
桜は、深く深い眠りに、夢の世界へと入って行った。




