第63話
始まりの樹に隣接するように建てられた建物。木造の2階建てのどこか懐かしさの漂う建物だった。先を行く、ガスキュールが建物の説明をしようとしていた。
「本日はこちらにお泊りいただきます。明日には、バルディ様がお戻りになるでしょう。ささやかですが、食事をご用意致しますので、まずは中へお入り下さいませ」
そう言うと、ガスキュールが建物の正面のドアを開けた。
「仕方ないわね」桜は諦めたように建物の中へ入った。しかし、室内は明り取りの窓はあれど、薄暗くて良く見えない。
「ガスキュール、見え…」
桜が全てを言い終える前に、ガスキュールの言葉が飛んで来た。
「おお、失礼致しました。直ぐに明かりをお灯しします」
そう言うや、ガスキュールが両手をポンと合わせると、天井の照明器具らしきものが光を放ち始めた。電気設備や火の明かりではなく、何やら不思議なチカラによるものだと思われる。
「手品みたい。便利ね」
桜は特段驚くことなく呟いた。
「これでも、バルディ様の執事でございます。執事たる者、これくらい出来なければ務まりません」
ガスキュールは何事もなかったかのように言葉を返す。
桜は思った。バルディだけではなく、このガスキュールも不思議なチカラを持っている。ただの執事であろうはずもなく、油断は出来ない。見かけで判断してもいけないと思った。
「では、私は厨房でお食事の準備を致しますので、姫様は食堂にてお待ち下さい」
桜には食堂を指差し、そこで待つようにと言い残し、ガスキュールは厨房らしき部屋へと消えた。
厨房へと消えた、ガスキュールは張り切っていた。そして、一人呟いていた。
「さて、バルディ様が取り寄せて下さった食材で、姫様の世界の料理を再現してみせますぞ」
厨房には、棚に鍋や何かの器らしきものが並べられ、ガスキュールの手元には、包丁などの刃物もあった。
ポンっと、両手を合わせると、テーブルの上に様々な食材が現れた。次に、ポンと両手を合わせると、コンロらしきものに火が付いた。
「始めると致しましょう」
トントン トントン グツグツ ジュージュー
グツグツ ジュージュー グツグツ ジュージュー
トントン ザクザク グツグツ ジュージュー
歌うような、ガスキュールの料理をする音が厨房を賑やかにしていた。
暫くして…「完璧でございます」ガスキュールは納得したように一人宣言するように言った。
賑やかな食卓となった。テーブルの上には、どう見ても和食らしき料理の数々が並んで、日本茶らしきものまであり、桜は驚いていた。
「良い匂いね」
「姫様の世界のお国の料理です。姫様が喜んでいただければ、このガスキュールも嬉しゅうございます」ガスキュールは視線をじっと桜に向けている。
料理は、天ぷららしく、何と箸まで用意されていた。それに、この匂いは…と視線を送ると、察したガスキュールが「炊きたてでございます」と桜に示したのは、おひつのご飯で、茶碗によそってくれた。それに、味噌汁まであって、味噌の豊かな香りが桜の食欲をかき立てた。
「美味しそうね。お腹が鳴りそうだわ」
「ささ、召し上がって下さいませ」
「そうね。いただくことにするわ」
「沢山、召し上がって下さい」
「あなたは何か食べないの?」桜が言うと、ガスキュールは大きなスープ皿を指し示し、「これは私の大好物の海藻のシチューで、私はこれがあれば十分です」
「そう、じゃあ、いただきます」
そう言い、桜は久しぶりの和食を楽しむことにした。




