第61話
気が付くと、桜は先程とは掛け離れた場所にいた。そうだ、桜はバルディの不思議なチカラでどこかに移動させられたのである。目の前には、バルディとガスキュールがいたが、ここがどこなのかは全くわからなかった。
足元を確認すると土があり、地面は確認できた。周りを見ると、緑一色に近い木々が見えた。遠くに建物のようなものも見えたが、それが何かはわからなかった。小高い丘のような場所にいるのだと思われた。
「姫よ、この世界には我のチカラは及んでおらぬ。ここで暫し気晴らしをするがよい。側にガスキュールを置いて行く。ガスキュール!」
バルディに呼ばれると「はっ」
「我は所用だ。姫を頼んだぞ」
「お任せ下さいませ」ガスキュールが恭しくお辞儀をした。
「よろしい」バルディは納得すると、パチリと指を鳴らし、その場から姿を消した。
「行ってらっしゃいませ」ガスキュールの言葉が届いたかはわからなかった。
桜とガスキュールは二人きりになった。
「ガスキュール、これからどうするの?」
桜の言葉を聞いたガスキュールが小躍りして喜んでいる。
「姫様、私めをガスキュールとお呼び下さいましたな。ありがとうございます」
「だって、ずっと『カメ男』じゃあ…ね」
「ありがたきお言葉でございます。では、参りましょう」
そうだ。ここでじっとしていても何ともならない。
「それで、どこに行くつもりなの?」
「この丘を下りた先に、バルディ様の別荘がございます。そこに参りたいと思います」
ここまで来ると桜にはどうしようもなかった。
「そう、わかったわ」
先ほど確認できた建物なのだろうかはわからない。視線を先の建物に移して「あそこなの?」と指先で指した。
ガスキュールは一人で何やら納得して、「そうでございますが、正確にはあの先にある建物がバルディ様の別荘でございます」
何やらわかりにくい返答を返した。
「わかりにくいわ」
「そうでございますな。あの建物の後ろに大きな木がご覧になりますか?」ガスキュールが短い指で指した。
その先を見ると、確かに何かの大きな木というより、樹木のようなものが確認できた。
「多分、わかったと思うわ」
「あの木は、始まりの樹と呼ばれるものでして、この世界の始まりの樹とも呼ばれております」
「何か大仰なものなのね」
「そうでございますな。この世界の住人達は、始まりの樹を崇めて巡礼をするのが習わしともなっております」
桜は「ふぅ」と溜息に近いものを吐き、思案した。バルディがどんな目的で桜をここに寄越したものかがわからない。ただの気分転換だけではないような気もするからだ。しかし、今の桜には選択肢が無い。気は進まないが先に行くしかないと思われた。
「姫様」
ガスキュールが桜の思案を中断させるように先に話しを進めた。
「何よ」
「あの始まりの樹は、実は対となる樹がございまして」
「それがどうしたのよ?」
「バルディ様がこの世界を支配なされない理由でございます」
ガスキュールが一体何を言っているのか桜にはわからなかった。
「私に何をどうしろと言いたいの?」
「目の前にご覧いただければ納得いだだけると思います」
全くわからない。
しかし、「わかったわ。行きましょう。それしかないのね」
「姫様、ありがとうございます。参りましょう」
ガスキュールが先導するように丘を下り始めた。
「行きましょう」
一体、桜にこの先に何が待っているのか。ガスキュールは何を桜に伝えたいのだろうか。




