第60話<桜の思惑とバルディの思惑>
桜は考えていた。バルディのこの不思議なチカラは、一体何だろうと。異世界を自由自在に移動し、望みの物を取り寄せる、この不思議なチカラは何だろう。それに、バルディのチカラはこれだけでは無いだろうとも思われた。
桜の今の置かれた状況は、バルディの居城であろうと思われる建物だった。バルディは姿を消して現したかと思うと、次々に桜の望むものを出現させていた。
「ふむ、姫の世界の調度品は機能的であるな。我の知る物とは異なり、実に使い勝手が良さそうだ」
バルディは桜の世界から、家具や照明だけでなく、食器類もその不思議なチカラを使って取り寄せていた。最も不思議なものは照明で、この世界には電気らしきものがないのに照明は明かりを灯していた。
「私を元の世界に戻して下さい」桜は何度とそう訴えたのだが、その願いは叶えられることはなく、その代わりにバルディは桜の世界から、調度品を出現させていたものでもあった。
衣食住に困る事もなく、食事においては、ハンバーガーを取り寄せて以来、品を変えては次々とそれらを出現させた。
「ガスキュールよ、姫の世界の食べ物の再現は大丈夫であろうな?お前ならレシピとかは必要とすまい」
「お任せ下さいませ。一度食した物の再現は私めにとっては、それこそ朝飯前というものでございます」
ガスキュールは胸を反らせるかの勢いで返答していた。
「よろしい。さすがに頼もしいな。我はまた出掛けるので留守を頼むぞ。そうであるな。ここばかりでは姫も飽きよう。場所を変えるとするか。その前に着替えだ。ガスキュール、用意を致せ」
「はっ、かしこまりました。では、姫様お着替えを。こちらのお召し物をバルディ様が用意されましたので、姫様、ささ、どうぞお着替えを」
ガスキュールは、いつの間にか両手に抱えるかのように、何かの衣装らしきものを桜に差し出した。一体、いつ取り出しかのか、バルディのチカラに近いものかもしれなかった。
「これに着替えればいいのね?」
「そうでございます」ガスキュールは目をキラキラとさせていた。
「今度は何で出来ているの?」
今来ているドレスは、ガスキュールが言うには、ムーシファという毛織物だったはずだ。不思議なドレスだった。
「バルディ様が姫様の世界から取り寄せたものでございます」
「そう、それならちょっと安心だわ」
「姫が気に入ると良いのだが」
「ささ、姫様、どうぞお召替えを」
バルディとガスキュールが期待をするかのように迫って来る。
「じゃあ、私の言いたいこともわかるわね?」桜は二人を睨みつけた。
バルディとガスキュールが何かを察したように視線を交わして、はっとしたようだ。
「そうであるな、我としたことが失念した」
「あわわ、バ、バルディ様」
「ガスキュールよ」
「バルディ様」
桜は睨みつけながら言った。
「わかったなら、着替えるから部屋から出て行ってちょうだい」
バルディとガスキュールは逃げるかのようにして部屋から出て行った。部屋から出ると、二人は二人苦笑するように話していた。
「姫は気がしっかりと言うか、強いの」
「そうでございますな。私には姫様には敵いません」
二人を部屋から追い出した桜は、目の前の衣装に視線を落としていた。そして、手にすると呟いた。
「これは…白のツーピースドレスね。こんな状況じゃなかったらどんなに良かったか」
桜が手にしたドレスは、桜は知らないが、桜の世界では一式で桜の世界の自動車が買えるかくらいの値段のするものだった。
「仕方ないわね」そう言いながら、着替え始めて着替え終えると、部屋の外に声をかけた。
「二人とも、入っていいわよ」
その言葉と同時くらいに、部屋のドアが開き二人が入って来た。
「おお、見事だ。実に美しい」
「姫様、美しゅうございます」
二人の賛美の声が返って来た。
「それで、どうするの?」桜が聞くと、
「場所を変えるものとする。心配は要らぬから安心致せ」
パチリ!
バルディが指を鳴らすと、その場の全員が姿を消した。




