第55話
目の前のルウィンが不思議な動きを始めていた。
屈んだかのように見えたら、次は背伸びをして、そこから小さくジャンプ。そして、何かを言いながら円を描き回り始めた。
「アユタカラ トコヤ イツムヤト ニフラム スナクマ イヤノシ」
これは呪詛の類なのかと思った。踊りの一種なのだろうか?
怪しい、動きも怪しければ、その言葉も怪しかった。ルウィンの謎の行動は続く。
「アユタカラ トコヤ イツムヤト ニフラム アナクマ イヤノラ」
海人には全く理解が出来ない。いや、誰がルウィンのこの行動を理解するものか。
ルウィンは集中しているようで、不思議な踊りは、いよいよ一人盛り上がっていた。
「サンタカ イイナカ タライム」
「おい、ルウィン?」海人は思わずツッコんでしまった。
だが、その海人を無視するか、まるで眼中に無いようにルウィンの踊りは更に一人盛り上がった。
「アユタカラ トコヤ イツムヤト ニフラム スナクマ イヤノシ」
どうやら、最初に戻ったらしく、これは繰り返し行うらしい。
ルウィンの不思議な踊りは続く。海人にはそれが夢なのか現実なのかが、もうわからなくなった。
「アユタカラ トコヤ イツムヤト ニフラム アナクマ イヤノラ」
ルウィンの表情を伺うと、真剣なようなので、海人は見守るしかない。
「サンタカ イイナカ タライム」
それを言い終えると、「ようシ、準備運動は終わったヨ」ルウィンの一言に「おい、いい加減にしろ!」海人は本気でツッコんでしまった。
「ま、いいヨ。別に気持ちの問題ヨ。それにしてモ、キミのツッコミは勢いがあって良いネ。ボクは満足サ」
変なところに感心されてしまった。
「進めてくれ…いや、先に進めて下さい」
それが海人の精一杯だった。
「じゃア、今から精神の窓を開くヨ。窓が開いたラ、キミはその中へ入ればいいだけサ。だけド、決して振り向いたらいけないヨ。精神の海に飲み込まれてしまうからネ」
宣言するように、ルウィンが言い放った。
そして、ルウィンは自分を中心に回転を始め、その瞳からは何やら怪しげな光が放たれ始めた。
「なんちゃっテ。てへぺロ」瞳からの光は収まり、ルウィンが何か言いたげに海人を見詰めている。
「おい!」海人が言うと、「うン、いいネ。やっぱリ、キミのツッコミは最高ヨ」
「軽い冗談ネ。準備運動は終わったのヨ。始めるヨ」
ルウィンは静止したかと思うと、自分の羽を1枚抜いた。
「いてててテ、これだから精神の窓を開けるのは嫌いだったのヨ。あア、ボクの美しい羽ガ」
そして、抜いた羽を空高く放り投げた。羽はひらひらと落下を始め、地面に当たると思いきや、その瞬間に爆ぜた。
「ようシ、成功したのネ。そこを見テ」と、羽の先端で指した場所に、何やら円形の鏡みたいなものが現れている。
「あれが精神の窓というやつなのか?」
「そうネ、時空の鏡とかに入れるキミなラ、きっと同じように入れるはずだヨ」
「どうやったらいいんだ?」
「同じようにサ。集中してみテ」
時空の鏡と同様と言われたので、海人は素直に精神の窓に意識を集め、集中した。
海人の両目には、赤い羽が浮かび上がり、精神の窓は海人の姿を映し始めた。時空の鏡と違ったのは、精神の窓が透明な硝子のようなところだった。
「上出来だヨ。行っておいデ。ボクもついて行くからネ。きっと役に立つからサ。連れて行っテ」
仕方ない。海人はルウィンを抱えるようにして掴むと、意を決した。
そして、精神の窓の中へと入った。




